第2話 ウルーシュの生活(1)

 ビチェンパスト国へ渡る船を待つ間王都でしばらく滞在します。

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 ラーファはこの世界の医者を2つに分けて考えている。

 ダキエ国の魔術医をダキエ派、大陸の医者を魔女派と呼んでいる。


 大陸では医者や薬剤師の事は薬師と名乗る事も在るが、ほとんどの人が古からの民族の伝承に基づいた医や薬の作り手の事を魔女と呼んでいる。

 医者と薬の作り手を兼ねる魔女を魔女派と考えるのは自然だと思う。


 樹人を対象にしたダキエ派に対して人族を対象にした魔女派と分けても良い。


 実際の治癒力は長い経験の蓄積が在るダキエ派の方が上ですが、決して魔女派も負けていません。

 治療方法が薬草に限定されていた今までと違って魔術による治癒を取り入れた魔女派は治癒力もダキエ派に負けていないと思います。


 カカリ村の大魔女おばばと共に研究して作り出した、使い魔による病の診断の速さと正確さはダキエ派に負けていないと思います。

 この大陸の医療事情は、この8年でオウミ国から広がった魔女の薬が革命的な治癒力で大きな変革を始めている。


 魔女と言っても女だけが魔女では無くて中には男の魔女も居る。

 男の魔女はほぼ例外なく薬師で魔術が使えるわけでは無い、伝統的な薬草から薬を作る人達の事です。

 西方の国々は薬師と呼ぶ言い方が一般的だが、魔女でも意味は通じます。


 最初は傭兵ギルドの傭兵や戦争に出た兵士たちがケガの治療で魔女の薬を使い、広がった魔女の薬ですが。

 魔女の薬が病気の治療として、イガジャ領の診療所で使われるようになると、オウミ国内はもちろん国外の薬師兼魔女達にも広まるのは早かった。


 魔女の薬の卸先は傭兵ギルドや軍以外はほとんどが薬師兼魔女の彼らに成ります。

 魔女の薬で魔術が使えなくても、病気やケガを劇的に治せる事は、彼ら薬師兼魔女の名を高めました。


 出来れば、魔女の薬だけで無く手洗いや歯磨きの習慣が広まってほしいラーファである。


 良いとこだらけの魔女の薬だが、庶民が簡単に使えるかと言うとまだまだ値段が高く、やりくりしてやっと買えるぐらいの値段だ。


 魔女の薬が出回ってから、そのケガや病を治す力に驚いた人々は、ダキエの薬ポーションにあやかって魔女のポーションと呼び始めた。

 魔女のポーションの事を聞いて、盲目的な信頼を一方的に持っている人も多くいる。


 そのせいで詐欺が多発する事態に成ってしまった。

 噂の割に実際の魔女のポーションを見た人が少ない事もその背景に在るだろう。

 さらに魔女の伝統的な姿は隠れ蓑にもなるので騙しやすいのかもしれない。


 魔女のポーションも噂しか知らない人たちからすると、怪しげな葉っぱや石でも魔女のポーションだと思い込んでしまう。

 それ以上に切羽詰まった人たちは嘘かもと疑っても、本物を知らないせいで縋りついてしまう。

 そして取返しの付かない事態に成って、騙した詐欺師だけでは無く魔女へも疑いの目を向けるのです。


 「魔女のポーションを持っていると言う者は、偽の魔女のポーションを売る者に違いない。」

 王都ウルーシュでもその手の詐欺師が横行し、市民に被害者が多く出ている。


 4月中旬に、カカリ村から移動してイガジャ侯爵城館に泊まっていた。

 5月初日の昼7前(午前中)にイガジャ侯爵城館から王都へ飛び立った。

 王都へは竜騎士のアリス侯爵夫人が乗る飛竜のキーで移動しました。


 アリスは少し体調を崩しているようで、本人は「風邪を引いたみたい」と言っている。

 原因は分かっているので、王都の侯爵邸で診察する事にした。


 イガジャ侯爵さまの城館で早めの昼食を3人で食べた後、侯爵さまに出発の挨拶をして王都へ飛び立ちました。


 イガジャ侯爵城館を昼7時(午後0時)少し前に出て王都へは昼12時(午後5時)に着きました。

 距離は200ワーク(300㎞)在ります。


 王都迄の飛竜から見える大地は、雪解け直前の寒々とした広い畑が延々と広がっている見た事も無い壮大な景色です。

 アリスが言うには位置確認のマーカーを覚えるのに苦労したそうです。


 ラーファも空から大地の特徴的な部分を探そうとしましたが、同じような雪景色しか見えません。

 アリスが苦労した事が分かっただけです。


 アリスによると、村の形や道路や水路の形が作り出す模様と起伏のかすかな違い、それに太陽の位置で判断しているそうです。


 長旅の末王都ウルーシュへ着くと、飛竜のキーを王宮へ近づけます。

 王宮の在る第1城塞内には広い庭園の中に王宮の建物が点在し、一際大きな建物の近くに飛行場が設けられている。

 アリスは城壁を超えた後、真っ直ぐその飛行場へ飛竜を着陸させた。


 アリスは王宮に設けられている飛行場に堂々と着陸すると飛竜を王宮の飛竜舎に連れて行きました。

 王宮の飛竜舎には、飛竜のお世話係としてイガジャ領兵のダルトシュ竜騎士が常駐しています。

 彼の祖父はイガジャ男爵家のバンドル家宰です。


 本来ならば一度王都のイガジャ侯爵邸へ寄って着替えて王宮へ到着の報告をしたいところです。

 でも、陛下からそのままで良いので至急会いたいと、連絡と案内のため侍従が待機していました。

 飛竜が空に見えたと見張り台から連絡が陛下に伝わると、直ぐに侍従が使わされたそうです。


 ラーファとアリスは互いの服装(飛行服)を見苦しくないか確認して、急いで侍従に付いて応接室へと向かいました。


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 次回は王様のお願いが何か分かります。

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