第1章 王都ウルーシュ

第1話 王都ウルーシュ

 空から見た王都ウルーシュです。

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 ここはオウミ国王都ウルーシュ。


 8万もの人が住むオウミ国一の大都市で、王様が一番高い場所に住んでいる。

 飛竜に騎乗した姿も凛々しい、竜騎士のアリス侯爵夫人の後ろに乗せてもらっている。


 今日は5月の初日、密かに王都へ移り住むためにイガジャ侯爵邸から飛んで来た。

 王様と会う約束がある、ウルーシュに住む用意もして貰った。

 9月にビチェンパスト国へ向かう積りだ、だがその前にル・ボネン国へ一度行かねばならない。


 樹人の王と誓約を交わしたネーコネン一族の中に、誓約の書を持つロマナム国の王が居る。

 彼はネーコネン一族の誓約の盟主を名乗り、神聖同盟を結成した。

 私イスラーファと娘マーヤニラエルを彼らの欲する何かのための手段として欲した。


 ラーファは彼らの思惑を拒否したが、神聖同盟はオウミ国と戦ってでも手に入れようと画策している。

 ラーファはオウミ国を出て、ビチェンパスト国へ行く決心をした。


 出国へ向けた準備の最中に、同盟国のル・ボネン国から招待したいと使節団が来ることになった。

 ラーファは、神聖同盟にオウミ国から出た事を確信させるため、一度ル・ボネン国へ行く。


 王都が眼下に大きく見えてきた。


 竜騎士のアリスが飛竜のキーに「ピゥイ、ピーッ、ピーーッ」と口笛で呼びかけた。

 「巣へ、真っ直ぐ、降りる」と呼びかけたのだ。

 20コル(5時間)も空を飛び続けているキーに、着いたらお疲れ様と言いたい。


 王都は大きな川の側に作られたオウミ国最大の城塞都市なので、ずいぶん遠くからでもその輪郭は見えていた。

 見えた時から今までで、4コル(1時間)は掛っている。


 同じような雪に埋もれた麦畑が続く景色が、王都に近づくとキラキラと氷が反射する湿地帯が多くなってくる。

 やがて湿地帯を貫いて敷かれた道路が左右から2本見えてくる。


 1本は北の大公領から、もう1本は南の大公領から王都へとつながっている。

 雪に幾本ものそりの後が付いた街道を荷を積んだ橇馬車そりばしゃが数台行きかっている。


 街道以外にも、今は雪に隠れて見え難いが湿地帯には池や小川が在り、残は畑となって広がっている。

 数か所に雪に埋もれた農家が煙突から煙を出している、集まっているから村だろう。


 飛び続けると、2本の街道沿いに家が並ぶ宿場町がある、その先に城壁が大きく見えてきた。

 城壁には4つの門と城壁を貫いて流れる3本の川が流れている。

 門は北に1つ、西に2つ、南に1つ在り、門を守る2つの尖塔に挟まれた櫓門は守りも堅そうだ。


 川は水量も多く流れも速い様だ、厚く凍り付いたら住人総出で氷を砕くとか。

 王都を出た川は湿地帯を流れる川と合流して大河ラニの更に下流部で合流している。


 大河ラニは凍り付くこと無く下流へと流れている、闇の森ダンジョンから流れる川水は魔力を含み凍らないらしい。


 伝説によると。

 闇の森ダンジョンには水竜が住んでいて、その住処から流れる小川がラニ川の源流となっているため魔力が川の水に含まれて冬でも凍らないのだそうだ。


 ラーファには川の水からは魔力を感じないので、別の理由があるのだろう。


 大河ラニへ城壁から続く先には、街並みと川湊が見える。

 大河だけに河川を利用した交通網が発展しているのだろう。


 こちら側からは見えないが、空から見て王宮の反対側にも川湊が在り。

 ラニ川沿いに王家や貴族の使う川湊が、第1城壁の真下に頑丈な石組みで作った砦内に在るそうだ。


 ここオウミ国の王都ウルーシュは数百年の歴史があるらしい。

 とても新しい町にしては見た感じ、古い古都の様な印象を受ける。


 空から見た王都ウルーシュは東西南北に水路で区切られた街並みをしている。

 王宮の在る第1城塞内には広い庭園の中に王宮の建物が点在し、一際大きな建物の近くに飛行場が設けられていた。


 王都ウルーシュは北から南へ流れる大河ラニを東の守りとして作られていて、3重の城壁で守られた城塞都市だ。

 元々火山の名残の岩山が在って、裾野を大河ラニが流れる地形を利用して作られたと言われている。


 岩山が王宮の在る第1城壁内となり、裾野が第2城壁内として東を川で南北と西を堀で囲って作られたのが始まりになる。

 大公家の城下町としてウルーシュが発展して行き、建国の争乱時に第3城壁で城下町を囲った事で現在の王都ウルーシュの基本形が完成した。


 第2城塞の大堀の外にウルーシュと呼ばれる12の町から成る王都がある。

 川や堀には、石橋が掛けられている。

 大堀に架かる4つの橋から伸びる通りはそのまま真っ直ぐに第3城壁の4つの門へと繋がっている。


 北町流きたまちながれ通りは日当たりも良く、貴族の下屋敷や大商人の邸宅が並ぶ。

 南町流みなみまちながれ通りは良くも悪くも人の多く集まる大聖堂や大劇場が集まる。

 中町流なかまちながれ通りは王都民の憩いの店や商店が立ち並ぶ。

 下町流したまちながれ通りは庶民のための工房や集合住宅が多い。


 大堀へ流れる水は南と北の2ヶ所に在る第3城壁に大きく開いた水門から引き込まれている。

 堀は広く深い作りでウルーシュ側からは柵で囲って人が近寄れない。


 第3城壁が第2城壁と接する南と北の両側には、第2城壁の上に塔が建てられていて水門を見下ろしている。

 水門を挟んだ反対側の第3城壁にも塔が立って居る。


 此の大堀から城下町へは元々川が3本流れていて、城壁で囲った時もそのまま残された。

 北から、ウルス、スウェー、バログと呼ばれる川が在る。


 川で区切られたエリアは北から南へ順に北町、南町、中町、下町と呼ばれてこれが四つ流よつながれと呼ばれる呼び方になる。

 他にもすじと呼ぶ呼び方もある、東から西へは掘割で3つに分割されていて東堀、中堀、西堀となっていて筋と呼ぶ。


 貴族はながれ呼びが好きなようで、北町流中堀と呼び、庶民は同じ町を中堀筋北町と呼ぶのは貴族への反発からだろうか?


 此の川は堀と下水を兼ねているようで、川水を取り込んでいる第2城壁の堀近くはそうでも無いが、排水の出口近くは結構匂うらしい。

 比較的水量と流量が在る夏はそうでも無いそうだが、水の氷る冬はわざわざ氷を割って流れを守る。

 歴史的にここは湿地帯で地盤が緩く、深く掘れないので川に全部流そうと成ったらしい。


 第3城壁を作る時、あまりの軟弱な土地で基礎を固めるためダキエ国から土の魔術師を雇って地盤を固めたと言う話が残っていると聞いた。

 第1城壁と第2城壁内は上下水道が完備されているそうで第3城壁内とは天と地程の差が在る。

 飲み水に限って水道が第2城塞から引かれていて、共通井戸でめるように工夫されている。


 川と掘割で区分けされた町を石橋が隣町へ掛けられていて交通の便を良くしている。

 此の橋を守る様に作られているのが警備所で、橋の前は小さな広場に成って居る。


 警備所には町役人が昔は詰めていて、橋を渡るたびに税金を取っていたが、不評で今は廃止されている。

 町の中央に広場が在り、その中心に町役場が在る。

 一つの町は3千人~8千人が暮らし、王都全体で8万人が住んで居る。


 全てはアリスから聞いた話だがこれから半年近く住む町だと思うと愛着が湧いてくる。


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 次回は王様のお願いが何か分かります。

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