エピローグ

第142話 エピローグ ……または、よくある無責任な男の祈り

 あの後全員が目覚めるのを待ち、その後事情説明。


 そう言っても俺も記憶を失っていて肝心な部分は覚えていない事になっている。

 だから説明したのはこんな内容だ。

  ① 目覚めたら快楽神ドーパ-ミンに告げられた

  ② 内容は『神の病は消えた。この先千年は大丈夫だろう』

  ③ その後、全ての神の筋配けはいが消えた

  ④ 親父とGLUグリコが状況を確認に来た

 

 ただ皆さん微妙に疑っているようだ。本当は俺が全てを知っているのではないかと。

 しかし何をやったかばらす訳にはいかない。記憶を失っていたので肝心な部分は覚えていない。それで通した。


 フィジークのビーチブレイクに戻った頃には、既に全ては収拾へと向かっていた。


 壁や塀に開けられた穴など何カ所かに暴動の痕跡は残っている。教会が半壊していたりもする。


 しかし既に人々は正気を取り戻しているようだ。筋肉争議を訴えるような人間はいなかったし、壊れた場所の補修もはじまっている。

 街で警戒している筋士きし団の姿もほとんど無い。


 合宿所もほとんどの生徒トレーニー、そして指導員が戻っていた。

 この隙にヤリモクビーチを目指した連中も、イストミアやピューティアの連中も。


 なお俺達の無断外出についてはリサとミーツ氏のおかげで不問ということになった。

 ここでリサ達とも一度別れ、ブートキャンプ合宿場へと戻る。


 すぐにミトさん達に見つかって質問攻めにあった。


「サダハル達、筋愛きあいがずいぶんと成長している気がします。特にスグル君は身体も一回り大きくなったように見えますし。どんな戦いがあったのでしょうか」


 もちろん肝心な部分は覚えていないで通させて貰った。間違えてもミトさん達にはバレる訳にはいかない。


 また後で男子の皆さんにこっそり外出の成果について聞いたりもした。

 まずコウイチ及びアキノブについてはこんな感じだ。


『非常事態だから全然いい感じの女の子がいなくてさあ』


『絶対いる筈だ。そう信念を持ってビーチを南下したら何かゾンビみたいな不健康な気持ち悪いのばかりがいる場所に出ちまった。ヤバいと思ってダッシュで北へ逃げたけど』


『でもよく考えたらあそこならナニをヤっても大丈夫そうだったな。ちょっとヤるべきことをヤっておけばよかった』


 一方でカズヨシは……


『ビーチの方はいなかったな。ただ街中には遊びに来たけれど急にこんな事態になって……なんて子が結構いてさ。だから教会とか政庁とかと離れた辺りの宿にしけ込んで……』


 どうやらうまくヤったようである。なんというか……

 いや、悔しくなんかない。俺だって充分ヤってはいる。しかし……

 何か男として負けたような気がするのも事実だったりする。


 そして翌日、ビルダー帝国に向け帰投。勿論来た時と同様、走ってだ。


 あれだけ高速で走り回ったのだし今度は楽勝だろう。そう思ったのだが実際はかなりきつかった。

 何故なんだ。自分のステータスを見て気づいた。貸与されていた速度の恩恵が無くなっている事に。


『スグル・セルジオ・オリバ 7歳

 筋力191 最大230 筋配けはい189 持久78 柔軟80 回復80 速度80 燃費33

 特殊能力:回復5+ 持久5+ マゾの呼吸 サドの呼吸 ステータス閲覧 前世記憶

 称号:不信心者インフィデル、破壊者、恐怖の取調官(男性専門)、航空力士(小結級)、快楽神ドーパ-ミンの勇者』


 他にも魅了とか絶倫とか美味しい能力が無くなっている。無限性欲はまあ、無い方が社会生活上安全だろうけれど。


 能力も一部は下がっていた。柔軟とか回復とか。筋力とかは上がっているけれど。

 下がった能力は神からの貸与で上がっていたのだろか。


 魅了は正直なところ持っていたかった。この能力があればきっとアレとかナニとか美味しいコトが色々出来ただろうから。


 そして現在の俺のステータス、確かに高いけれど異常なほどではない。たとえば親父とかリサあたりと比べると全然だ。

 つまりまだまだ先は長い。


 ただ、今はとりあえずミトさん達についていくのが第一だ。筋愛きあいを足に込めて必死に走っていく。

 あと、ある程度は回復にも筋愛きあいを回しておこう。治療・回復の痛みはとりあえずMマゾの呼吸でカバーして。


 ◇◇◇


 予想通り、トリプトファンの街に着いた時には筋力的に結構ギリギリだった。


 もちろん俺だけでなくサダハルもだ。痛みに耐えている時のあの渋い表情をしていたから。

 俺はマゾの呼吸のせいでハイを通りこして廃になりかけていたけれど。


 そのトリプトファンの街にも所々爪痕は残っていた。政庁の一部が崩れていたり、筋肉神テストステロン中央教会の表門が半壊していたり。


 ただうちの家の周辺は特に変わった様子は無かった。家では普通にリサが出迎えてくれた。

 この時初めて俺はリサのステータスをちゃんと読めた。


『リサ・クロス 19歳 身長160.1cm 体重57kg

 筋力571 最大654 筋配けはい549 持久75 柔軟75 回復66 速度75 燃費47

 特殊能力:速度2+ 回復1+』


 特殊能力にあった『神の残光』は無くなっていた。また名前にあった不明な部分も何故か消えていた。

 神の病気なんたらというのが無事解決した為必要なくなった。そんな解釈でいいのだろうか。


 ただ読めるようになってもこの筋力と筋配けはいは……圧倒的過ぎる。

 こんなの追いつけるのだろうか。正直圧倒的な壁という気がしなくもない。


 ◇◇◇

 

 新聞には今回の事案関係のニュースが溢れている。

 筋肉神テストステロン教団による聖戦宣言の撤回とか。

 筋士きし団の死者・負傷者数とか合同慰霊だとか。

 今回の事案の原因究明についてだの政庁の責任追及だの。


 ただし俺は所詮初等部生徒トレーニー。つまりまだガキだ。

 だからか生活は以前とほとんど同じ。


 夏休み中だから学校には行かない。だから午前中はリサと勉強トレをして、午後はミトさんの家で元五班の皆と、やっぱりリサの指導のもと勉強トレ


 ただ以前と比べてリサの雰囲気が少しだけ変わった気がする。微妙に俺に甘くなった気がするのだ。


 神絡みの問題が解決したからだろう。だからもう厳しく鍛えなくても大丈夫。きっとそういう事だろう。そう俺は判断している。


 しかし実は不安がない訳ではないのだ。

 まさかリサ、ヤっちゃった事を覚えていないよな。そしてまさか出来ちゃったりもしていないよなと。


「認めたくないものだな。自分自身の若さ故の過ちというものを」


 前世の偉人の台詞を呟いてみても何の解決にもならない。


 ここはもう神頼みしかない。

 ステータスに不信心者インフィデルなんてついている俺も、つい祈ってしまうのだ。

 俺をこの世界に喚んだ張本人である筋肉神テストステロン快楽神ドーパ-ミンに。


 どうか皆が忘れていますように。思い出しませんように。

 そしてどうか出来ていませんように。

 お願いします!!!!!


 (END)

 

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筋肉異世界アナボリック ~転生して学園生活を送りつつ筋肉の頂点を目指す筈の話~ 於田縫紀 @otanuki

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