第138話 道は開けた

 前方に悪魔カタボリックや魔物、魔獣と違う筋配けはいを感じた。間違いない、人間だ。

 筋配けはいは6人だけ。しかしどれも無茶苦茶強力そうだ。しかもうち1人には思い切り覚えがある。


 この馬鹿でかい筋愛きあいは間違いない。うちの親父だ。そしてもう1人何となく覚えがあるのは、おそらくは上級使徒メタボリックGLUグルコ


 その2人は飛び抜けて強力だが他4人もかなり強そうではある。間違いなく伯爵級以上の筋肉貴族か上級使徒だ。


 そして気がついた。

 先程筋士きし団らが戦っていた、そして俺達がここまで倒してきた悪魔カタボリックや魔物、魔獣。あれはまだましな方だったという事を。


 親父達の先の敵の密度は今までの比ではない。行進中の部隊の真っただ中状態だ。

 気が遠くなりそうな悪魔カタボリックの大軍。それをたった六人で抑え、半数以上を蹴散らしている。

 騎士団の方へ行っているのはその残り。


 更にその先に親玉らしい筋配けはいを感じる。距離はせいぜい3km程度。

 だがその間の筋配けはいの数量に圧倒されそうになる。物量攻撃を通り越して飽和攻撃状態。抜けられる気がしない。


 それでも前進していく。親父達のいる所までは今の状態でも行けそうだ。


 近づくにつれ、異様な音が響くようになった。全体では形容しようのない音と振動だ。


 何かが叩きつけられた様な音、何影へしゃげたような音、人間のものとは違う低い地響きのようなうなり声、荒い息づかい。

 筋肉を駆使した戦いが放つ音だ。混ざり合って悪夢のような音と振動となっている。


「来たな」


 そんな悪夢のような音と振動の中。なのに不思議とはっきり聞こえた。親父は戦いながら振り向きもしないで放ったようなのに。


「はい」


 目の前の敵に蹴りを食らわしつつ何とか答える。


GLUグルコの息子もいるな。2年ぶりだが随分強そうになったものだ」


「恐れ入る」


 やはりもう1人の凶悪な筋配けはいGLUグルコのようだ。そして息子というのが誰かもすぐわかる。意識してみるとナリマとよく似ているのだ。


「遅くなりました」


 これはミーツ氏。GLUグルコに向けて言ったようだ。


「いや、充分早い。こちらが少し早く出た」


「3年前と同じ間違いはしない。だから今度は俺達自身で来た。結果としてここでGLUグルコらと合流した」


「旗は違う。だが思いは同じ」


 状況は何となく察した。それに聞き返せるような状態でもない。俺達自身、実際はとんでもない数の悪魔カタボリックに対応するだけで精一杯だ。


 それても、戦いつつあまり関係の無い事を思ったりもする。親父、こういう場では一人称が俺なんだなと。


「ここまで来れたという事は、今回の件を片付ける意思と実力がある。そうだな」 


 GLUグルコの声。


「ああ。神に話をつけてくる」 


 ナリマがそう返答。筋配けはいだけでなく姿を消しているので声だけ。


「なら道を拓こう」


「ああ。さっさと片付けてこい」


 親父とGLUグルコ筋愛きあいが更に上がった。今まででも充分凶悪だったのに、それ以上まで。


「レクタス、フォラム。後は頼む」


「AST、ALT。任せた」


 何をする気だ。そう言いたいがそんな余裕はない。俺達は目の前の敵を片付けるだけで手一杯だ。


「後について来い。敵親玉の前まで引っ張る」

 

「かたじけない。では皆、GLUグルコース殿の後についていく。タイミングを間違わないでくれ」


 ミーツ氏の言葉。何をする気だ親父共。この前進無理という感じをどう片付ける気だ。


「まずは俺が周りを開けよう」


 親父が何かするようだ。


「ヤッくん、モッくん、フッきん! 『肉食いねえ!!!!!』」


 何だ親父! そのその訳のわからないかけ声は!


 しかしアブドミナルアンドサイのポージングから放たれた筋愛きあいは絶大。

 前方120度に範囲にある道も樹木も岩も全てが吹っ飛んでいく。敵も同様だ。倒れる前に飛ばされて視界から消える。


 GLUグルコがすっとしゃがんだ。


「クラウチングスタート」


 筋愛きあいとともに走り出す。


「行きます!」

 

 ほぼ同時に走り始めたリサとミーツ氏について俺達も走り始めた。親父の筋愛きあいでただ土がえぐれただけ状態の場所を。

 速度はそれほどでもない。時速100km位だろう。


 あっという間に親父の筋愛きあいで崩れた範囲の外へ。前には倒れたり耐衝撃姿勢で耐えたりといった悪魔カタボリックの群れ。


「一粒300メートル、プラス!」


 GLUグルコの全身が筋愛きあいを纏う。走りつつ筋愛きあいの鎧で立ち塞がる悪魔カタボリックを弾いていく。


 敵親玉らしい筋配けはいが少し近くなってきた。あと2km位。


 悪魔の大群も先が見えてきた。あと1km位で終わる。その先は500位離れて今までの悪魔カタボリックよりずっと大きな筋配けはいが2体。そしてその先やはり500m位で、他を圧する大きな筋配けはい


 後方から筋配けはいが近づいてきた。これは敵ではない。親父だ。俺達の横を通り越してGLUグルコの横へ。


「とりあえず後に邪魔になりそうな敵を一掃しよう。走りながらの~肩にメロン!」


 高筋圧こうきあつの一撃で前方120度がむりやり開けた。木々も岩も俺、曲げ、破壊し、吹っ飛ばして。


 ただ今度は道までは壊していない。威力が弱いわけでは無く範囲を絞ったようだ。


 だったらさっきもそうしてくれ! そう言いたいところだが今はそういう状態では無い。


 あれほどいた筈の悪魔カタボリックの軍勢があらかた倒れた。それでも倒れずこちらを向いている姿が前方に2体。


 青黒い人型だが大型で尖った印象を持つ悪魔カタボリックと、赤黒い色の猫を巨大勝つ凶暴にしたような形の悪魔カタボリック


「直衛は魔人トリプシンと魔獅子エラスターゼ、親玉はやはり魔竜アポトーシスか。なら魔獅子エラスターゼは俺が引き受けよう」


「なら我は魔人トリプシンを」


「魔竜アポトーシスと神は任せる。振り返らずに前を征け。そしてさっさと倒して帰ってこい。俺からは以上だ」


「同じく。では参る」 


「ああ」


 GLUグルコと親父が加速した。道の左右に別れ、そして筋愛きあいを放つ。


「肩に不整地用人力車ジープ!」


「ウェーブ走!」


 前方左右が真っ平らになった。木々や草、岩等が吹き飛ばされたのだ。

 それでも敵2体は後退しない。立ったまま親父とGLUグリコの方にそれぞれ向きなおり、足を踏み出し、そしてダッシュ。


「加速します!」


 リサとミーツ氏は親父達や敵2体の間を加速して走り抜ける。俺達も後に続く。強烈な筋愛きあいのぶつかり合いで爆音、そして爆風。


 筋愛きあいの爆発の中を俺達は前へと走り抜けた。後は振り返らない。

 親父とGLUグルコ、あの2人はやっぱり化物だ。俺達が心配なんてする必要はないだろう。


 それより今は俺達が対峙すべき相手の方だ。

 目前にいるのは悪魔カタボリック側最強の敵、魔竜アポトーシス。

 そしてまだ姿を現していない神三柱。


 俺達はそれらを倒して帰らなければならないのだから。

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