第136話 怒り
回復しつつ周囲を確認。10km位先で
動いている
行くか。今回は両腕両手以外は無事なので走る事は可能だ。もちろん走ると傷が無茶苦茶痛むが
治療回復に
よく知っている、しかし知っているのより遙かに大きい
サダハルだ。
無事合流。例によって三人とも治療と回復、成長痛に苦しんでいるようだ。
「スグル殿も無事勝てたでござるか」
座り込んでいるシュウヘが声をかけてきた。
「ぎりぎりです。地形のおかげですね、今回は」
「地形を活かせるのも実力でござるよ。それにしても何故スグル殿は成長や修復が平気そうなのでござるか。今も走って来たけれど、拙者、会話こそ出来るものの動ける余裕は無いでござる」
ちなみにサダハルは無言で必死に痛みを堪えている。ナリマは路面でのたうち回っていて時々奇声を上げている状態だ。
「結構ぎりぎりですよ、これでも」
そう、ぎりぎりなのだ。
「スグルさんは器用過ぎるのでしょう。最初の判断ミスで不利な状況で戦いが始まったのにも関わらず、結果的にはそれさえ利用して勝ってしまいましたから。地形と風とを使って」
「今回の戦い、本当は筋力や
「ただそうやって戦ったのはサダハルさんだけでしたね。シュウヘさんは地力と戦闘経験で圧倒して、ナリマさんは隠蔽を最大限に使って勝負を決めましたから」
なるほど、本来はそういうシナリオだった訳か。
「ただこれは悪いことではない。既に天使と戦えるという実力があるという事だから。
この先、更に敵は強力になる。天使または罪天使と化した元聖職者、強硬派の
「勿論味方も大勢います。この付近ですと聖戦を望んでいない各国
ただその大多数は治安維持に追われているでしょう。それでもある程度の部隊はステルム、またはケハヤザへ向かっていると思われます」
「大悪魔襲来事案はわずか3年前の出来事だ。各国
なるほど。確かに大人の時間で考えれば3年前なんてほんの少し前なのだろう。
しかし何故、こんな話をするのだろう。そう思って気づく。これは、つまり……
「私達の予想より早く戦闘が始まっています。ここから20分も走れば既に戦闘が始まっている地帯に入ります」
「障害は排除して進む。しかしこの先は
何を言おうとしているのか。一呼吸分おいて俺は理解した。
そして俺より先にシュウヘが口を開く。
「助けられるとわかりつつ味方を見捨てざるを得ない場合がある。そういう事でござるな」
「その通りです」
リサは頷いた。
「これは間違いなく私達のミスです。大悪魔襲来事案と今回の件を結びつけて即座に行動した者達がここまで多いとは思いませんでした」
「各国は記録を消した筈だった。また僅かに正気を取り戻した神も忘却を促した筈だ。
それでも忘れていない者がいた。思い出せた者がいた」
「被害を食い止めるには神々を正気に戻すしかありません。その為にこの全員でできる限り早く
そう言っている2人こそがこの場で最も辛いのだろう。それくらいは俺でも察する事が出来る。
リサもミーツ氏も3年前の戦いで知人を多数失っている。今度もまた失う事になるのだろう。そう思うだけでもう気分はブルーなんてものじゃない。
考えてみればリサとミーツ、そうでなくとも辛い立場の筈だ。自分達で解決する事は出来ない。自分達よりずっと弱い弟子達に託すしかない。
そしておそらく最終局面ではそんな俺達と戦うしか無い。神に憑依された上で。
個々の思いを踏みにじって発生する事態、どうにもならない不条理。
俺の中に何かが芽を出して伸びていく。
これは怒りだ、おそらくは。
どうにもならない状況を、それを生み出した存在への。
この世界で俺はそれなりに多くの人間と戦ってきたと思う。自分の手で直接戦った以外も含めて。
ただ敵に怒りを持つというところまでは至らなかった。
武装盗賊団、名前は忘れたけれど入学当日に絡まれた3人、ケーリー先生、
しょうもないとは思ったりした。駄目駄目だなと主言ったりもした。倒さないと仕方ないとは思った。
でも相手に本気で怒るというところまでは行かなかった。
しかし今回は間違いない。俺は本気で怒っている。この事態を招いた、そして814年の事案を引き起こした、神に。
神の側にも事情がある事は承知だ。病気という事も、まともな判断が出来なくなっているという事も理解している。
そしてこの怒りが意図的なものかもしれないとも感じる。俺を本気で神と戦わせる為、神自身が用意した状況設定という可能性。
いいだろう。これが意図的なものだとしても構わない。用意した怒りに載ってやろう。
俺は神を許さない。
「すみません。もう大丈夫です」
ナリマがのたうち回りモードから復帰した。
「スグルは大丈夫か?」
治療も回復も完了している。怒りとともに若干成長に
「大丈夫です」
「では行きましょう。ここからは山道で速度が出せません。ですので走りながら補食をとって下さい。今まで消費した分のエネルギーを補填し、今後の戦いを戦い抜くために」
ミーツ氏とリサから巨大紙コップがそれぞれ渡される。そう、テイクアウトした揚げ鶏だ。
走りながらこんな物を食べたら消化不良を起こさないだろうか。カロリー爆弾なのは事実だけれど。
俺達は走り出す。
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