第133話 目的にふさわしい補食?
考えてみれば当然だ。無茶苦茶な高速で走った上、三回も戦闘をしたのだ。
なおかつ成長だの治療だのでもエネルギーを使っているだろう。腹が減るのは当然。
「まもなくマルトースの街だ。そこで補食を取ろう」
どうやらその辺、ミーツ氏もわかっていたようだ。
五分もしないうちに街が見えてきた。リサとミーツ氏の速度が落ちる。
ふと疑問を生じた。俺達、街に入れるのだろうか。そんな素朴な疑問だ。
この付近はもうフィジーク国内ではないだろう。フィジークの北に広がる
ミーツ氏やシュウヘ、ナリマはともかくリサ、俺、サダハルは間違いなく敵国民だ。大丈夫なのだろうか。
ただその事を口に出して他に聞かれたら余計にまずい事になる気がする。だからあえて聞かない。
街門が見えた。警備兵が4人立っているのが見える。
速度が歩く速度まで落ちる。ミーツ氏が先頭という事以外、特に何も気にする様子はなく街門の警備兵の前へ。
「失礼します。身分証明の提示をお願い致します」
街門警備兵らしいお約束の言葉。
「ああ。これでいいかな。後ろの皆は僕の連れだ」
ミーツ氏はつなぎのポケットから何やらカード状のものを取り出した。警備兵がさっとフロントリラックスのポーズをとる。
「失礼しました。どうぞお通り下さい」
「こんな折だから警備も大変だと思うが、頑張ってくれ」
あっさり。よっぽどとんでもない何かの証明書だったようだ。
いいのだろうか、そう思いつつも俺は軽く頭を下げ、皆と一緒に街門の中へ。
「師匠、今のは何だったのでごわすか?」
少し歩いて街門から離れたところでシュウヘが尋ねる。
「
僕にとっては同僚や部下、先輩、そしてあの地域の住民を助けきれなかった罪の証明みたいなものなのだけれどさ。それでもこういう時には使える」
なるほど、理解した。
「さて、これから取る食事は普段の食事とはかなり異なったものにする。特に
しかしこれからの戦いで必要なエネルギーを考えると必要なのだ。そこを理解して欲しい」
ミーツ氏が何を言っているのかは前世の知識で理解出来た。
「脂質が多い食事という事ですか」
「そうだ」
ミーツ氏は頷いた。
「同じ分量でよりエネルギーを多く摂るには脂質が不可欠。ただしこの後の回復と成長を考えるとタンパク質もまた絶対必要。今回はそういった目的に沿った食事となる」
そう言えば以前外食をした際にリサが言っていたなと思い出す。
『カロリーが足りず筋肉が消耗しそうな時、疲労して消耗しきった時にも有用です』
同時に
歩いていると赤に白の派手な店が見えてきた。前には白髪白髭、白いスーツを着装した、それでいてスーツの下の筋肉肥大具合が隠せないという感じの人形が置かれている。
こ、これは……
「
「知っていたか、スグル」
「ああ」
それはともかく、何故そんな軍人の人形が店頭に立っているのだろう。
「
その時の教訓『もっと肉を! そしてカロリーを!』を元に退役後のサンダースがはじめたのがこの店、『拳焚鬼・普羅威怒遅筋』だ」
「拳焚鬼というのは
また経験から彼は速筋より継続的に力を発揮できる遅筋を重んじていた。その辺りの彼の教えを短縮したのが普羅威怒遅筋という言葉でござる」
店内に入る。むっと広がる油の香り。
ミーツ氏がカウンターで呪文を唱えた。
「オリジナル
あと持ち帰りでオリジナル
ざわっ。スタッフ間に緊張感が走ったのが俺にはわかった。
「オリジナル
「ああ。頼む」
「それでは番号札をお渡し致します。2階でお召し上がりになりますか」
「ああ。6人だからボックス席が空いていたらそちらで」
「わかりました。出来次第お持ち致します」
「頼む。支払いはこのカードで」
支払った後、昇降口でジャンプして二階へ。窓際のボックス席が空いていたので陣取る。
窓から外の風が流れてきた。おかげで油っぽい臭いが少し遠のく。
「しかし補食が此処でござるか。確かにこの後の消費カロリーを考えると正しいと思うのでごわすが、スグル殿やサダハル殿には少々きついのではないかと思うのでごわす」
「大丈夫です。以前の世界の記憶に思い当たる料理がありますから」
そう、
そして3分位経過後。店員3名がカート2台を押して現れた。
「3番のお客様、お待たせ致しました。ご注文の品です。確認をお願い致します」
バケツのような巨大紙コップ状の容器に入った
そしてサラダ容器と同じ位の迫力があるがこちらはより細く長い紙コップになみなみとつがれた茶が6つ。
「ああ。注文通りだ」
「ご注文ありがとうございました。ごゆっくりお召し上がり下さいませ」
テーブルの上にぎっちりと食物の山を配置した後、スタッフさん一同は去って行く。
「では食べよう。これからの戦いの為だ。ここで妥協は許されない」
そんなミーツ氏の言葉に悲壮な表情をしているサダハル。
確かにサダハルの気持ちはわかる。食べ物を油に浸して調理するなんて
しかし俺の中の
だから俺は躊躇せずバケツのような紙容器から
口の中に禁断の味が広がった。そう、旨いものは脂と糖、そして塩で出来ているのだ。
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