第131話 次の敵

 今回の回復は結構時間がかかっている。そしてまたナリマがのたうち回っている。


「スグル殿は割と平気そうでござるな」


 シュウヘも結講耐えている様子だ。サダハルも同様。


「平気ではないですけれど、何とか耐えています」


 おしよせる苦痛かいかんに耐えている。もう勃起ものだ。だから嘘ではない。

 それにこのマゾの呼吸は人に教えられる性質のものではない。だから言及する必要はないだろう。


 それより気になることがあるので聞いてみる。


「この連中、ステータス上は無茶苦茶強い筈です。ですが今回は随分とあっさり倒れた気がします。攻撃も単調でしたし。何故でしょうか?」


「元となった本人達の戦闘経験が活かされていないようだ。罪天使ネフェリム化した際、記憶その他のほとんどを失ってしまったのだろう」


「それでもかすかにですが自意識は残っていたようです。そして戦闘前には罪天使ネフェリム化して得た圧倒的な力を信じていた。

 ですがおそらくは、フィジークの一斉捜索に抗し得ず逮捕されたという敗北の記憶が衝撃として残っていたのでしょう」


堕神エストロゲン教団こそ至高で最強、フィジークなど所詮俗世の存在。実務にうとい世襲聖職者家出身の高級幹部はそういった思い込みが強い。

 故にフィジーク当局の強硬姿勢と各拠点に対する迅速な捜索という名の制圧は想定以上の打撃を与えたのだろう」


 つまりは。


「戦闘方法等はほとんど忘れていたけれど、直近の心理的ダメージは残っていて打たれ弱くなっていた。そういう事でしょうか」


「そうなります。結果、筋愛きあいを集中させ防護するといった基本的な技すら使わず大ダメージを受けた。その結果、罪天使ネフェリム化する直前に受けた失敗を思い起こしてしまった。あとはこんな少年達に、という衝撃もあったのでしょうね」


「ただこういった敵ばかりではない。自分の意思を持ったまま神に強化された者や悪魔カタボリック、そして神自身の顕現はこのようにはいかないだろう」


「まあそうでしょうね」


 納得だ。つまり筋肉神テストステロン教団や堕神エストロゲン教団の罪天使ネフェリムみたいなのを相手にガシガシ戦えば簡単に成長できる訳だな。


「それにしてもだ。スグルはこの治療痛や回復痛、成長痛が平気なように見える。本来は最も年若い故、最も厳しい成長痛に襲われる筈なのだが」


「スグル殿はおそらくとんでもない前世経験を積んでおるのでごわすよ」


 うーむ。このシュウヘの言葉、いい意味に取っていいのだろうか。

 シュウヘには彼自身に一回、その後ムナール相手に道具を使用した実践を一回と、合計二回アレな方法論を見られている。内容に直接触れないのは優しさなのか、それとも……


 なおナリマが痛みにのたうち回りつつも頷いているのも、ついでにリサまで頷いているのもなかなか微妙。

 うむ、その辺あわせて見なかった事にしよう。今後必要に応じて使う可能性は否定しないけれど。


 なんて考えられるという事は、つまりは俺も苦痛かいかんが弱まってきたという事だ。ナリマもようやく立ち上がった。服が汚れているけれどまあそれは仕方ない。


「よし、皆、治療が終わったようだ。では急ごう」


 更に強烈な加速、そして無茶苦茶な巡航速度での走行が始まった。かなりパワーアップした筈の俺でもギリギリ位の速度まで。


 必死になってついていきつつも思う。リサやミーツ氏、いったい限界はどのくらいなのだろうかと。


 ◇◇◇


 15分程走っただろうか。前方にそこそこに大きい気配を感じた。

 先程の罪天使ネフェリム程ではない。現在の俺達とそう変わらない程度。


 そしてうち三人分の筋配けはいに覚えがある。これは……


「ピューティア、の、四人、で、ござ、る」


 この速度で喋れるだけシュウヘは強いと思う。俺はまだ無理だ。

 そう、四人のうちニエベス、ロドニー、メグナの筋配けはいは俺にもわかる。俺達初等部には三人だけだったから、一人は中等部の生徒トレーニーなのだろう。


 四人の速度が落ちて、止まった。直後に急激に筋配けはいが上昇する。


「こちらを倒せと神から命を受けたのだろう。力も授与されたようだ」


「今度の四名は自分達の意識を持ったまま神力で強化されています。先程と違って激しい戦いになるでしょう」


 なるほど、それなら確かに強いだろう。ニエベスやロドニーの強さはブートキャンプでわかっている。それが神力でパワーアップしたのだ。本気で戦わなければ勝ち目はない。


「即死以外は我らの神力で治療・回復は可能。敗れたと自覚すれば神命も聞こえなくなる筈」


 つまり即死さえさせなければ全力で戦っていいようだ。


 走る速度が落ちる。敵が待ち受けている地点手前で無理なく立ち止まれるように。


「あの中ではメグナ殿がおそらく一番強いでござる。故にここは最年長である我が引き受け申そう」


 シュウヘがそう宣言。


「実はメグナとはいえ女子をスグルと本気で戦わせるのは不安だからじゃないですか、先輩」


 それはどういう意味だ、ナリマ。そう言いたいがあえて口にはださない。


 言いたい事はわかっている。男子相手にナニしても精神的なもの以外に後に残るものは少ない。しかし女子相手だと下手すれば出来てしまうのだ。


 シュウヘは返答しない。これはきっとシュウヘの優しさという奴だろう。なにせシュウヘはかつての俺の犠牲者でもある。心配もまあするだろう。

 しかしナリマ、お前は許さん! というのはまあおいておいて。


「わかりました。メグナは先輩にお任せしましょう」


 残り三名も肉体的には悪くない。ショタ喰い属性は田常呂たどころ浩治こうじには無かったが、趣味を広げても問題はないだろう。

 

 そこまで考えて俺は気づいた。何か脱線しかけている事に。

 まずは普通に戦って勝つことを考えよう。お楽しみはまあ、今は考えないことにして。

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