第30章 立ち塞がる敵

第129話 対・罪天使戦

 敵六体が立ち止まり、こちらを向いた。全員が左足を前に半身に構え、胸の前で両手を合わせる。

 合わせた両掌の間に強力な筋愛きあい。これは!


「遠距離攻撃だ」


「ああ」


 奴らの動きが遅く見える。構えて、そして狙うところまでスローモーションを見ているかのようにわかる。なら怖くない。

 どこぞの赤い人も言っていた、当たらなければどうということはない!


 姿勢を低くして放たれた攻撃をくぐり抜ける。まだ筋愛きあいは使わない。奴に高速で接近するだけ。

 

 距離は五〇メートルというところだろうか。こちら全員が遠距離攻撃を避けた事に気づいた奴らは再び同じ動作をはじめた。遠距離攻撃をもう一度放つつもりのようだ。


 やはり奴らの動きはわかりやすく見える。遅く見える。速度の恩恵の為だけではない気がする。何故だろう。そう思いつつ右拳を軽く握り攻撃準備。

 まだ強くは握らない。筋愛きあいを溜めるだけだ。


 奴を注視しつつ全速力で走る。もう奴の身体の細部が見える。形状としては全裸の禿げマッチョだ。アドンとかサムソンとか呼ばれそうな感じ。

 しかし体色が黒に近い灰色。そして股間に竿も玉も穴も無いようだ。


 うむ、つまらない。いや、あのムキムキの太ももで挟むプレイはワンチャン有りか。ただ絵面的に美しくない。ならお前の事情聴取はどうだったんだというツッコミは無しで。


 二発目の遠距離攻撃は低く放たれた。先程くぐり抜けたから今度はそう出来ないようにだろう。問題ない。左上に跳んで躱す。

 

 着地したのは奴の一〇メートル手前。今の速度ならあと三歩。奴は構えを解いて俺に対応しようとする。だが遅い。俺の足の方が速い。


 俺の筋愛きあいを込めた拳が奴の腹に突き刺さった。筋愛きあいと俺の体重、そして速度が奴の腹を貫く。


 俺の右腕もただじゃすまない衝撃。だが筋愛きあいで押し通す。拳が灰色の身体にめり込む。そのまま更に腕まで、そして肩、俺の身体ごと奴の身体を突き抜けて。


 ぶち抜いた。そのまま足に力をかけ、前へと走り抜け距離を取る。


 五〇メートル距離を取った。背後の筋配けはいは動かない。奴は、そして他はどうなった!


 ムナールの腹から下に大穴が開いていた。ぶち抜いた穴から猛烈に黒い煙が出ている。まさか再生するのか。そう思ったが煙とともに穴は広がっているようだ。


 他の罪天使ネフェリムも動きを止め、黒い煙を上げている。煙とともに灰色の肉体が消失していく。


「流石だ。速度恩恵ありとはいえ、全員罪天使ネフェリムを一撃で倒すとは」


「これくらい出来なければ神と戦う事は無理でしょう。ただ今の罪天使ネフェリムは本来筋士きし団1個分隊で1体を相手にして、やっと倒せるかどうかの相手です。


 油断は禁物ですが、それだけの力がある事は誇って良いでしょう。それでは次の敵と戦う前に身体を治療回復して下さい。皆さんが最初から持つ恩恵を使えば出来るでしょう」


 言われて気がついた。右腕が酷い事になっている。ハイになっていたからか気づかなかったがボロボロだ。右手は多分複雑骨折なんてものじゃない状態。腕は間違いなく骨も関節も逝っている。


 ただリサは恩恵で治療回復できるような事を言っていた。だから筋愛きあいを回復に回るよう意識してやる。


「ウギャッ!!!」


 途端に襲ってくる強烈な痛みに変な声が出てしまった。いや、猛烈に痛い。何だこれは新種の拷問かという位……あううう……


「厳しいでごわす、これは」


 シュウヘはまともな言葉を出せる程度にはましな模様。サダハルは目を瞑って動かないが脂汗が出ているのがわかる。ナリマに至ってはのたうち回っている状態。


 というか俺も動かずに耐えるなんてのは無理な状態だ。腕だけじゃない。全身がもうこれでもかという拷問状態。


 これを耐える方法は何かないだろうか。俺は前世、田常呂たどころ浩治こうじの記憶を辿る。必死で。


 思い出した。イカせ隊に攻めまくられた時、最終的に達した境地の事を。


 性的な刺激の過剰摂取。それもまた苦痛だ。その極限まで攻められた結果、俺はある境地に達した。

 苦痛こそが快感であり福音、そう信じ込めるという境地。通称マゾの呼吸を。


 俺はマゾの呼吸を発動する。右手から、右腕から。更には酷使した両足の筋肉から快感が押し寄せた。


 お、おお! こ、これは射○しそうだ。全身これ快感! 快感過ぎてもっとと言えない位。ああ、人間駄目になりそう……


「回復の恩恵により治療と成長が同時に為されています。これで更に身体が強くなるでしょう。

 ただその結果、治療痛と成長痛が重なってしまうのです。回復しきるまで耐えて下さい」


 いや、快感で駄目になりそうだ。これはまずい。しかし筋愛きあいを回復に廻すのはやめるわけにはいかない。


 他に気を逸らす何かは無いか。周囲を探る。罪天使ネフェリムがいた場所が目に入った。


 もう煙は消えている。あの灰色の姿もない。代わりに人が倒れている。合計六人、いずれもそれなりに屈強な肉体の男、それも服がボロボロでほとんど全裸といっていい状態。


 ウホッ! こ、これは……掘りたいカラダの詰め合わせ! ヤりたい! 両足を思い切り広げて一気にズッポリと!


 しかし勿論そんな事は出来ない。身体治療中で動けないし、他の皆さんの目だってある。

 ああ、掘りたいのに掘れない。すぐそこに楽園が転がっているというのに……


 俺はそんな苦悩? で、何とか俺は押し寄せる快感げきつうを耐えたのだった。

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