第120話 異世界人的な妄想

「師匠とはどんな方なのでしょうか?」


「僕やシュウヘ先輩が通っている道場の師範だ」


 ミトさんの問いにナリマが返答。


「元教団筋士きしで上級使徒でごわす。ただ現在は公職についておらず、小さな道場を一人でやっているだけでござる」


 更にシュウヘが補足する。


 元筋士きしで上級使徒の道場主か。前世の漫画等に出てくるやたら強いジジイ枠だろうか。

 ならエロ的な食指は動かない。俺の嗜好は男女問わず比較的幅広いが老人までは含んでいないから。


 ただエロ的ではない方の興味はある。シュウヘやナリマの師匠ならどれだけ強いのだろう。そっち方向で。


「なら行くか。この合宿所の中には外部の者は入りにくいだろう」


「そうですね」


 サダハルの言葉に頷いて、そして全員で合宿所の東門方向へ。途中で南門側へ向かうコウイチとアキノブとすれ違う。


「よっ、揃って何処へ行くんだ?」


「ちょっと客人を出迎えにです。そちらは?」


 コウイチもアキノブもニヤリという感じの笑みを浮かべた。


「指導員は出るなと言っていたけれどさ。結構皆外へ出ているようだから、ちょっとだけ観光をしてこようかと思ってさ」


「折角だからちょっと南へ行ってみるつもりだ。今回は邪魔者も出ないだろうから」


 俺は悟った。こいつら、絶対ヤリモクビーチを目指す気だと。カズヨシといいうらやましい限りだ。

 ああ、俺もそっちへ行きたい! 状況的にそう言えないけれど。


「わかりました。成功を祈ります」


 心の中で血涙を流しつつエールを送る。


「ああ。そっちも無茶するなよ」


「気をつけます」


 俺も無茶はしたくない、なんて本音は勿論言わない。


 別れて東門へ歩きつつ雑談。


「でも外って、観光出来る状態なのかな。筋肉争議だの聖戦呼びかけだので危険な状態なんでしょ」


「同意。考えている事は想像可能。でも対象になるような相手は多分いない。みんな安全な場所に逃げてる」


「さっきの人もそうだけれど、こんな時によくそんな事を考えられるよね」


 つまりフローラさんとエレインさん、カズヨシ達が南を目指す理由がわかっているという事だろう。


「そんな事って、何でしょうか」


 一方でヴィヴィアンさんはわからないようだ。なおミトさんは何も言わない。


「その辺は言わぬが花ってとこ」


 フローラさんはそう返答。

 うん、余分な事を言わないで良かった。ミトさん達にそっち側の人間と思われるとまずいから。

 心からそう思ったところで東門に到着。


 街に近いのは南門だ。こっちは旧街道に接しているだけ。だからか他に人はいない。そして旧街道の先、東側からあの強そうな筋配けはいが近づいてきている。

 

 速い! 人間が出せるのが不思議な速度で接近してきている。あの速度、どう見ても時速300キロ以上だ。

 あの速度で走るのには何馬力必要なのだろう。体重を60キロとしてエネルギーは速度の二乗と体重の半分を……


 思わず計算したくなるが暗算では無理だ。なんて考えている間にも近づいてきて、そして目の前へ。


「出迎えありがとうでいいのかな、これは」


 老人ではなかった。二十代半ば位の青年だ。見事な細マッチョで上下作業服っぽい青色つなぎを袖まくりして着装している。

 思わず『ウホッ、いい男』と言いそうになった位だ。口に出る前に止めたけれど。


「ええ。古い神と名乗る存在が言っていましたから。案内する者が揃うのを待てと。師匠がその案内する者ですよね」


 いい男、いや師匠は頷く。


「ああ。まさかこんなに早くこの事態が起きるとは思わなかったが」


 この男とナリマの会話が耳に入ってこない。

 うむ、これなら道下正樹君もホイホイついていってしまいそうだ。アナボリックこの世界の人間にはわからない感想が頭の中に出てきてしまった。

 ヤバい。これは恋かも……


「師匠。出来れば状況を詳しく説明していただけるでござるか。先程の主神とやらは思わせぶりな事ばかり言って、何がどうなっているのかいまいちわからぬのでごわる」


「わかった。もう一人の案内人が来るまでまだ時間があるだろう。その時間で少し説明をしておこう。ただその前に」


 師匠氏はそう言って、そして俺達に向かって一礼する。


「お初にお目にかかる。僕はミーツ・グア・キモト。元堕神エストロゲン教会騎士団上級筋士きしで上級使徒、現在はしがない道場主だ。

 以降宜しく頼む」


 ミーツ氏が頭を下げたので、こちらも慌てて頭を下げる。


「さて、それでは今回の件について説明と質疑応答としよう。場所は合宿所の会議室でいいだろう。中に入る際に警戒されてはまずいから、入る時だけ少し筋配けはいを落とさせて貰うけれど気にしないでくれ」


 ミーツ氏の言葉とともに彼の筋配けはいが一気に下がって普通人並みになる。


「さあ、こっちだ」


 うん、つなぎの上からでも尻の筋肉の引き締まり具合がわかる。間違いない。これはウホッな案件だ。

 シュウヘやナリマはこの尻を見て欲情しなかったのだろうか。そう思いつつ少しだけ気になった事をシュウヘに聞いてみる。


「あの上下一緒になった服、アナボリックこの世界では他で見た事がないのですが、レプチンか堕神エストロゲン教団では普通なのでしょうか?」


「あれは師匠が特注したものでごわす。ナリマの前世の記憶にある服を再現したもので、一着で上下全てをカバーできるのですこぶる便利。そう言って師匠は常にあれを着用しているのでござる」


「あれと同じ服を10着くらい持っているんですよ、師匠は。夏だろうと冬だろうと下着も上着も全部あれだけですからね。簡単な服がないかと相談された僕もびっくりです」


 下着も兼用ということは、つまりあの下は全裸という事か。どこぞのウホッいい男と同じだ。つまりホックを外せば、やらないかモードになる。


 まさか行き先は会議室で無く公衆便所という事は……

 そしてこの後、『よかったのか、ホイホイついてきて。俺はノンケだってかまわないで食っちまう人間なんだぜ』なんて事が……


 まあそんな事態にはならないだろう。女子もいるから。それでも妄想でちょっとばかり下半身が元気になってしまう。


※ 道下正樹君、ウホッいい男、やらないか……

  わからない人はこっそりググって下さい。あえて解説は入れません。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る