第119話 追い詰められる俺の運命は?

 抜け駆けされたダメージでがっくりしているところで。


「ヴィヴィアンさんとソウさんはいます。ですがそれ以外のイストミアの皆さんは合宿所内にはいないようです」

 

 ミトさんの声。なるほど、洗脳度合いが高い4人は神の声に呼ばれたという事か。


「こっちもだ。ピューティアの連中がいなくなっている」


 ナリマの言葉に知らない単語があったので聞いてみる。


「ピューティアって何ですか?」


堕神エストロゲン教団青年部教育隊だ。孤児院から優秀な者を集めて将来の教団幹部として育成する機関。出来たのは五年前で最上級生が僕の一級上になる」


 つまりは堕神側のイストミアみたいな存在か。


「他にも抜け出た者はいるかもしれません。しかし全員を把握するのは無理でしょう。

 あとヴィヴィアンさんとソウさんはこちらに向かっています」


 確かに知っている筋配けはいが2つ、近づいてくる。


「ところでシュウヘ先輩とサダハルは大丈夫ですか。さっきから無言ですけれど」


「これくらいなら大丈夫でごわす。おそらく今日一日、明日の昼位までは問題ないで候」


「僕もだ。あとついでだから神のメッセージにどんな内容が含まれているか、分析している。今のところは近くの主要な教会へ集まる事と、神意に背く者を排除する事の二つが主な命令だ。

 この場合の神意に背く者とは対立する神の勢力ではない。国や政府、公安機関等の事だ」


 つまりは国に筋肉騒乱を起こせと行っている訳か。


「こちらも同じでござる。敵とする神の勢力と同等に人間の統治機構その他を破壊するよう指示しているでごわす」


 そこまで話したところでソウ達がやってきた。


「スグル、そっちは大丈夫か?」


「ええ。サダハルは少し苦しいようですけれど」


「つまりサダハルには神の命令が届いている訳か」


 つまりソウ達も神からメッセージが出ている事を知っている訳か。


「ソウは大丈夫か?」


 サダハルの問いかけにソウは頷く。


「ああ。僅かに聞こえる程度だ。ただニール達は出て行った。神の命令は絶対だと言い残して」


 ソウにも聞こえているのか。ならひょっとしたら俺にも……目を瞑って集中してみるが何も聞こえないし感じない。


「僕には何も聞こえないようです」


「僕やスグルはそういう位置づけなんだろう。神に力を与えられつつも、その神に反旗を翻す者。申し子や破壊者はそういう存在だ」


 これはナリマ。つまり俺は間違いなく破壊者だという事か。おかしい。何か間違っている。何でこうなったのだろう。


「僕自身は筋肉神テストステロン自身に言われたのですけれどね。間違って召喚したから使命は無いと」


「その時の神の言葉が正しいという保証はない。それにその時点の神は既に病に冒されていて、自分が召喚していた事をわからなくなっていたのかもしれない」


 ナリマの言う通りだ。確かにあの時点で筋肉神テストステロン、間違って召喚なんてしてしまう状態なのだ。少なくとも全能と言える状態では無いのは確かだろう。

 

「ナリマはどうなんですか?」


「僕も転生時に間違い召喚だという説明を受けた。しかし今では間違いではないのだろうと思っている。そもそも間違った相手に勇者と同じ能力を付与するなんて事はあり得ないだろう」


 言われてみれば確かにそうだ。生まれた家や環境、能力その他全て含め、勇者であるサダハルと同等かそれ以上。年齢が下だからステータス上はサダハルに及ばないけれど。


「召喚……異世界から来たりし者だったのか」


 呟いたのはソウだ。


「知っているのか。ソウは」


筋肉神テストステロン教の経典にある。神が他の神、あるいは自らと戦う為に異なる世界から人を喚ぶと。作られしものでは作りし者である神にあらがえないが故に」


 確かにその内容はまさに転生者だ。しかしちょっと待って欲しい。


「僕も筋肉神テストステロン教の経典はひととおり読んだつもりです。しかし転生者など何処にも記載は無かったように思えます」


「経典には一般に知られている正典の他、外典、偽典と呼ばれるものが存在する。転生者について書かれているのは外典とされるイストミア記。

 イストミア聖学園の元となったイストミア少年修道院はこの外典の名を取って作られた。異なる世界から喚ばれた、神と戦う者を見つけ、戦い、倒すために」


 なるほど。


「つまりイストミアは元々僕やサダハルのような転生者を倒すために作られた組織だった、という事ですか」


「その疑惑がある者を収容し、正常化という名の洗脳をする場所でもあった。無論教団下にあった時代の話だ」


 なんだか俺、どんどん追い詰められている。

 俺は間違ってこの世界に喚ばれて転生しただけの筈だった。チートは持っているが使命無しの気楽な立場だった筈だ。

 それがここに来て面倒臭い使命だの運命だのに包囲されはじめている。


「ピューティアも我が神テストステロンの経典名で、同じような意味をもつ命名でごわす」


 なるほど。


「ナリマはそのことを知っていたのでしょうか?」


「ああ。レプチンの教会図書館には正典も外典も偽典も普通に置いてある」


 どうやら堕神エストロゲン教団の方が筋肉神テストステロン教団より情報公開が進んでいる模様。


 さて、俺はこのままで行くと、神と戦う事になる訳だ。破壊者としてこの前筋肉神テストステロン教団を正常化しただけでなく。

 大丈夫だろうか、本当に。いくら何でも相手が大きすぎる気がするのだけれど。


 その時だ。感知圏内にかなり大きな筋配けはいが入ってきた。サダハルとかシュウヘ、更にはここの指導員よりずっと強力かつ強大な筋配けはいだ。

 これと同等クラスというと、父とかリサあたり。しかしそのどちらでもない。


「なるほど、案内する者とは師匠の事であったか」


「そのようです」


 シュウヘとナリマの師匠か。なら強そうだが敵ではないだろう。少しだけほっとして、そして慌てて思い直す。

 案内する者が来るという事は、カズヨシが言うとおりに進んでいるという事だ。つまり俺がますます追い詰められている事。


 俺の運命、本当に大丈夫なのだろうか。何というか不安で押しつぶされ……はしないけれど。まだ。

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