第117話 状況把握

 本当なら一刻も早く状況を知りたい所だ。しかし実際は何も出来る状況に無い。外出禁止で外からの情報も入ってこない。


 一応外から号外紙が持ち込まれているらしい。ただ生徒トレーニー200人弱に数紙なので手に取れる状況ではないだろう。


 あと気になる事は他にもある。サダハルの調子だ。


「サダハル、大丈夫か? 何か体調が悪いとか」


「すまない。ただ今は皆と状況を共有しておきたい」


 なのでとりあえずは元五班のいつもの皆さんと昼食を食べながら、いつも通りの話し合いだ。

 例によって最初に口を開くのはフローラさん。


「きっかけになるような事件はあったみたいよ。

 昨日、急に午前中の勉強トレが中止になったじゃない。生徒トレーニーには発表されていないけれど、実は殺人未遂事件が原因らしいよ」


 フローラさん、いつもと同様にどこからか情報を仕入れてきたようだ。

 殺人未遂事件とは間違いなくナリマの件だろう。ならあの件は合宿所内でもそれなりには知られているのだろうか?


「殺人事件!?」


「そうなんですか?」


 エレインさんとミトさんの反応を見る限り、少なくとも一般の生徒トレーニーは知らなかった模様だ。


「号外にはそう書いてあったよ。未遂で犯人も逮捕されているようだけれどね。

 それで犯人の供述から犯行は堕神エストロゲン教団による組織的なものだったと判明したようでね。今朝からフィジーク国内の堕神エストロゲン教団主要拠点の強制捜索をやっていたらしいの」


 なるほどと俺は思う。

 昨日ムナールから聴取した内容には教団の非合法活動に関する事も含まれている。フィジーク公国としてはその辺りの証拠を早急に押さえるべきと判断したのだろう。


 それにしても発覚が昨日で今朝捜索か。この早さにフィジーク当局の本気がうかがえる。


「それでレプチンがフィジークの大使に厳重抗議して、大使は逆にレプチン側に教団の犯行を明らかにする事に協力するよう申し入れて、結果こうなったという流れみたい」


 なるほど、一日半でここまでの動きになった訳か。流れそのものは理解出来る。しかし動きが早い。

 こうなる事をシュウヘやナリマは想定していたのだろうか。

 ただ此処ではとりあえず、フローラさんにこの事を聞いておこう。


「ところでフローラさんはどうやって今の情報を知ったのでしょうか? 外からの情報が入る経路が思いつかないのですけれど。」


 フローラさんも今日はまだ外出していない筈だ。なのに何故そこまで詳しい情報を知っているのだろう。


「さっきの集合が解散した直後、図書室の新聞閲覧場所まで本気ダッシュしたの。そうして他の生徒トレーニーが来る前に号外6紙を速読で全紙読んだ訳」


 ちょっと待って欲しい。それって超人的な技ではないだろうか。短距離ダッシュが無茶苦茶速いのは知っているけれど、まさか文字を読む方まで早いとは……


 そう思ってそして思い出す。そう言えばフローラさん、戦抜2回戦の時、ジャンプして3mの塀の上から報道用掲示板を盗み見て内容をほぼ全部把握していたよなと。


 おそらくは一瞬見ただけである程度の情報を読み取れるという技を持っているのだろう。念の為にステータス閲覧で確認して見る。


『特殊能力:速度4+ 超速読2+』


 特殊能力の速度が更に強化されている他、超速読なんてものまで追加されていた。


 ひょっとしたら速読の方は以前から存在していたのかもしれない。戦闘や体力に関係ないから俺も調べようと思わず、結果見えていなかっただけかもしれないけれど。

 ステータスには意識しないと見えない部分があったりするし。


「本当はここでスグル君に聞くべきなのでしょう。昨日の殺人未遂事件にどこまで関わっているのかを。無関係って事はないと思います。昨日は朝の集合時からずっといませんでしたから。

 ただ、今はそれより優先して聞くべき事があるようです。サダハル君、何を隠しているのでしょうか?」


 ミトさん、サダハルの様子がおかしい事に気づいていたようだ。そしてその理由は何かを隠しているからと判断しているらしい。


 サダハルとミトさんは幼なじみだ。だからミトさん、俺以上にサダハルについて理解しているのだろう。その辺ちょっと悔しいが仕方ない。


 サダハルは頷いた。


「ああ。ただ僕に起こっている事態は僕だけじゃない気がする。その事を確かめたい。皆、昼食を食べ終わったようだ。だから話すのは僕の疑念について確認してからでいいだろうか?」


 サダハルに何が起こっているのだろう。そして確認したい事とは何だ?

 少なくとも俺には何も起こっていない。


 ミトさんは頷いた。


「サダハルがそう言うなら、それはそれで意味がある事なのでそう。勿論かまいません。それでその確認とはどれくらいかかるのでしょうか?」


「会って話を聞くだけだ。一緒に話を聞いて貰ってかまわない。会うのはシュウヘ、中等部一年戦抜で西岸中等部から来た生徒トレーニー

 前にスグルも言ったが、シュウヘは野外学習で戦った中級使徒メタボリック当人だ。そして堕神エストロゲン側の勇者でもある」


「ってあの時の使徒! ひょっとして」


 フローラさんにサダハルは頷く。


「ああ。筋肉神テストステロンの勇者が僕で堕神エストロゲンの勇者がシュウヘだ。だから今、僕に起きている事が彼にも起きているのか確かめたい」


「わかりました。それでは行きましょうか。居場所は……中庭ですね。もう1人強い方と一緒のようですが」


 それが誰かは俺にはすぐわかる。


「ナリマですね。彼は堕神エストロゲン側で僕に当たる人間です。何故そういう存在がいるのか、僕には理由がわからないのですけれど」


 食器を片付けて食堂から出て中庭へ。あっさり2人を発見した。なので早速話を聞きに近づく。


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