第112話 本日の訓練⑵

 サダハルとナリマ、ステータス的には割と似ている。


『サダハル・ジェイ・カトラー 筋力88 最大119 筋配けはい83 持久75 柔軟75 回復95 速度75 燃費33

 特殊能力:回復5+ 持久5+ ステータス閲覧 前世記憶

 称号:勇者(公認前)、鉄壁』

 

『ナリマ・ツシン・ヤー 筋力81 最大115 筋配けはい83 持久75 柔軟75 回復90 速度76 燃費38

 特殊能力:回復5+ 持久5+ 隠密+1 ステータス閲覧 前世記憶

 称号:異端者ハラティク、初級使徒メタボリック墜神エストロゲンの申し子、闇に潜む者』


 しかし戦い方は全く違った。

 今回、ナリマは先手を取って攻撃を仕掛るという作戦を徹底していた。攻撃は足技、それも跳躍して空中から連撃するという戦い方で。

 

 跳躍しての飛び蹴りや連脚技は通常なら一度崩した後はボロボロになりやすい。空中で位置や姿勢を変えるのは不可能だからだ。普通はだが。


 ナリマの場合は筋愛きあいを使って位置や方向を自在に変えられる。対空時間もある程度は延ばせる模様だ。航空力士が使う技と同じだろう。


 なるほど、航空力士の接近戦はこういう感じにやればいいのか。見ていてなかなか参考になる。

 飛行や姿勢維持に筋愛きあいを使うから、攻撃は基本的に手より威力が大きい足メイン。ただし攻撃する瞬間だけ筋愛きあいを攻撃に回して威力を増加させるようだ。


 俺には今のナリマのような技は無い。しかし少し訓練すれば出来そうだ。すぐに試してみよう。


 一方サダハルはどちらかというと待ち受けて反撃するというタイプだ。今回のナリマ戦でもそうだった。筋愛きあいを使用してほぼ完全に敵の攻撃を防御し、攻撃が止まった瞬間に攻めに出る形だ。


 攻撃の基本は筋愛きあいを込めた拳攻撃。そして時々遠距離攻撃。今回多用したのは遠距離攻撃はエアバレットより溜めが少なく速い、ボクシングのジャブに近いモーションで連射も出来るもの。一瞬の隙をつく攻撃としてかなり有効そうだ。


 ただ今回が練習試合でかつ見学者が多いからだろうか。二人とも大技は出していない気がする。少なくともサダハルはあの『わが生涯に一片の悔いなし!!』は使わなかった。空中戦を仕掛ける相手にはかなり有効な技なのだけれど。


 結局お互い決め手に欠けるまま時間切れで試合終了。


「それでは次、ロドニーとニール」


 二回戦が始まる。


 ◇◇◇


 二回戦のロドニーとニール、三回戦はニエベスとハツヒコ。『申し子疑惑』とイストミア勢の試合が続いた。


 ロドニーとニエベス、つまり『申し子疑惑』の二人はサダハルと同じ防御優先の持久戦戦法のようだ。そして今回のニールとハツヒコは遠距離攻撃を連続で放ち、相手を崩す事を狙う形。

 どちらも決定的な勝負は付かず引き分け。

 

 そしてソウと、この班で唯一筋肉神テストステロンとも墜神エストロゲンとも称号的に関係ないカズヨシの戦い。これはかなり独特の試合になった。


 試合開始後、カズヨシがいきなり隠蔽で姿をくらました。

 勿論隠蔽をかけても周囲を観察すれば居場所はわかる。しかも隠蔽中は筋配けはいを使用した技を使えない。


 だからやるべき事は落ち着いて周囲を観察する事。ソウも当然構えたまま周囲を確認しようとして、そして次の瞬間思い切り後方へと飛び退った。直後カズヨシの姿がソウが先程いた場所にちらつき、消える。

 

 試合は途中までこの繰り返しだ。ソウが隠蔽を見破る前にカズヨシが仕掛け、ソウが下がる。


 時々攻撃と防御が交差し双方の筋愛きあいが炸裂する。ただ基本はソウが引くだけ、カズヨシは攻撃を仕掛けた前後以外は見えないままという繰り返し。


 今は俺もある程度は隠蔽を見破る事が出来る。だからある程度はカズヨシの居場所も見える。

 しかしソウではなく俺だったら対応出来るかというとおそらくは否だ。


 カズヨシの隠蔽の目的は完全に隠れる事では無い。相手が攻撃に気づくのを遅らせる事だ。途中で見えても攻撃が決まれば良し。そんな感じに見える。


 ただソウもカズヨシもそれ以上の技は出さなかった。カズヨシに対しては高筋圧こうきあつで隠蔽を解除する、なんてのは有効そうに感じるのだけれど。


 ちなみに俺の最初の相手はヤスシ、二回目の相手はニールだった。なお今回はあくまで訓練。だから突撃戦法ではなく戦抜でマサユキが行った戦法を意識。相手側から見て左に位置するよう心がけつつ、フェイントを交えた攻撃を仕掛ける形。


 例えば左ジャブからの右ストレート、と見せて本命はそのストレートの腕を引っ込めた反動で出す前蹴り。これはヤスシに出した一回目だけは綺麗に決まった。二回目以降やニール相手の時は防がれたけれど。


 なおヤスシもニールも今回は遠隔攻撃の連射をメインに組み立てて来た。戦抜時より連射が速く威力も大きくなっていた。それが本当のメインなのか、まだ主力技や切り札を隠しているのかは不明。


 取り敢えず俺としては見る方も戦う方もそれなりに満足した。


 なお全試合が終了した後、整理運動はまたも30kmマラソンだ。今回も15分というハイペースで走って、本日の勉強トレは終了。


「明日は二対二形式の試合となる。組み合わせは試合直前に発表するから、それまでに自分が誰かと組んだ場合の戦い方をイメージトレーニングしておくように。では解散」


 疲れたが悪くない勉強トレだったと思う。そしてこれで飯を食べたら自由だ。


 まず街に出たら少し預金を下ろそう。手持ちのお金が無くなったから。この街にもロイシンやトリプトファンと同じアクチン銀行の支店がある。だから下ろせないという問題はない。


 そしてその金で準備して、クセオビーチ作戦第二弾だ。

 ただし本日はクセオビーチ直行ではない。指導員による警戒物偵察が主な目的だ。

 焦ってとっ捕まってはヤれる処ではない。最悪の場合合宿中止でトリプトファンに帰れなんて事になりかねないのだ。


 だから今日はじっくりと偵察にあてる。配備状況、配備の穴、安全な突入経路の把握と確認が目的。


「今日はスグルはどうするんだ?」


 そう聞いてきたサダハルにはこう返答。


「ちょっと個人的に調べたい事があるので」


 嘘は言っていない。何を調べるのか言っていないだけだ。


「残念だな。もし予定が無ければ合同で自主練をしようと思っていたんだけれどな」


 合同で自主練か。なかなか面白そうだ。確かにナリマがやった空中戦について試してみたい気はする。


「他に誰かに声をかけたんですか?」


「ナリマとソウ、ニール、そしてニエベスは参加してくれるそうだ。あとはミトさん達にも声をかけようと思っている」


 その面子、大丈夫だろうか。どう考えても食い合わせが悪そうな気がするのだけれど。

 まあサダハルにはステータスが見えている筈だ。だからその辺はそれなりに考えているのだろう。


 行きたいのはやまやまだ。しかし俺には此処フィジークでするべき事がある。だから今回は仕方ない。


「楽しそうですね。後でどうだったか、感想を聞かせて下さい」


 そう言うにとどめておく。

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