第115話 俺の独自行動
正午前。俺達三人はやっと事情聴取から開放された。揃ってアメイワの
「それにしてもよくあの方法が有効だとわかったでござる」
「ですよね。僕から見たらあれ、苦痛にしか思えないのですけれど」
シュウヘとナリマにそんな事を聞かれた。特に隠すことはないので素直に答える。
「ああいうタイプは実は責められたい、責められて苦痛を感じたいという欲望を持っている事が多いんです。そういった欲望が満たされない結果が他人への攻撃という形で現れていたりします」
「我には理解不能でごわす」
「僕もだ」
そういうものなのだ、シュウヘ、ナリマ。この世界ではまだその需要に応えられる方法論が広まっていないだけで。
きっとこの世界にはマルキ・ド・サドとかマゾッホのような存在と、そういう趣向の方がプレイ出来るようなサロン文化が無かったのだろう。健康的でマッスルな文化ばかり進展した結果。
さて、とりあえず本件は解決した。しかし個人的な問題は解消していない。聴取でそこそこすっきりさせて貰ったがまだまだ。俺は自分の欲求を十分に解消できていない。
「それじゃちょっと個人的な要件がありますから、ここで失礼します」
「了解でござる。それではまた」
2人と別れ、俺は街の中心街へ。
これから目指すのは勿論ヤリモクビーチだ。いやクヒオビーチだったかな、名称は。
素直に南下しても突破できない事はわかった。だから一度内陸部、アメイワ方向を目指す。こちら方向には行っても問題ないと一昨日、図書館へ行った時の経験で判明済みだ。
東、アメイワ側へ向かう街道へ向かい、アメイワ近くから今度は南西、ワイマナロへ向かう街道を進む。
ここを一気に20km進めば今度はビーチブレイク方向へ北上する街道とぶつかる。そこを北上。ビーチブレイクに近づき過ぎない地点で海岸側に出て、あとは
合計50km近く走る事になる。しかし俺の脚なら全力で走れば20分かかるまい。このルートなら見張りもいないだろう。ビーチブレイクに近づき過ぎない時点で海岸に抜け、あとは
良し、完璧な計画だ。しかも今持ち歩いているバックには着替えも入っている。此処へ来てから買った半袖のラッシュガードとそのまま海で泳げるハーフパンツ。
それではヤリモクビーチまでロングランと行こう。
◇◇◇
そして30分後の午後1時近く。俺はワイマナロから北上する街道を左に逸れた。
ここから目的地のクヒオビーチまでまだ10km位ある。しかしビーチブレイクの街に近づいたら見張りに見つかりかねない。安全の為にやや早めに海側に向かったのだ。
それにここのビーチ、南へ行くほど風紀が悪くなるという情報がある。ならさらに南のこの辺は、エロエロでムンムンな無法地帯となっているかもしれない。
街道から海へ向かう小道の途中、林の中でささっと着替える。体操服をぎちぎちに畳んでバックにしまえば準備完了。
青い空、白い砂浜、そしてエメラルド色の海。うむ、いかにもリゾートっぱい海だ。ただし人は全然いない。
どうやら南過ぎたようだ。人がいるビーチはもっと北の模様。
かまわない。ここから北へ向かえばいずれクヒオビーチに出る。それにひょっとしたらもっと南側にもっとドエロで無法地帯なビーチがあるかもしれない。
前方に人の
ついに人がぽつぽついるようになった。しかし残念ながら美味しそうな男女はいない。ガリガリに痩せ細ったようなのとか、目がとろんとして焦点あわない状態とか、死んでいるようにビーチで横になっているのばかり。
何だこの食指が動かない連中は。俺は周囲を見回す。
海と反対側、林の中にテントっぽいものが幾つか見える。洗濯物を干しているところを見るに、ここに住み着いている輩がいるようだ。
周囲はゾンビっぽい輩ばかり。一応魔物では無く人間ではあるけれど。そして何か臭う。微妙に漂う腐臭というか死臭っぽい匂いと、あと微妙に甘い香り。
何なんだ此処は。俺は手近な1人のステータスを見てみる。
『ピガスス・イッピー 38歳 身長175.9cm 体重50.3kg
筋力42 最大50
特殊能力:白昼夢(5) 称号:ヒッピー ヘイトアシュベリービーチの専任
うわっ、何だこれは。
周囲の人間のステータスを称号だけささっと確認する。
『生きる死体
『社会不適合者
『社会不適合者
……
状況はわかった。つまりここは街の警備
まさかこういう方向で治安が悪いというのは予想外だった。流石の俺もこんな所には用はない。
ヤリモクの世界へ急ごう。足を早めたその前方向にゾンビのような男女が立ち塞がる。
「ねええ、お金ないかい。あったら少し貸してくれ」
「気持ちのいいお薬、どうかしらあ」
「やらないか?」
やらない。此処の麻薬は
本気でダッシュ出来たらこんなゾンビ共、一瞬で置き去りに出来る。しかし今は
それでも体重が軽く怪しい麻薬に犯されていない分、俺の方が身軽だ。波がひいた瞬間を狙って海側へ逃れる。
そのまま北へ逃げようとした時だった。
前方海側に突如、大きな
『クラ-ケン レベル5 体長11m 体重1,350kg』
ステータスを確認。まぎれもなく魔物のクラ-ケンだ。そう言えばたまに出ると聞いた気がする。まさか出遭うとは思わなかったけれど。
どうする、戦うか。しかし戦うと
とりあえず安全策で海から離れる方向へ。ビーチ内に響く悲鳴。どうやらゾンビ連中も
クラ-ケンの足がこちらへと伸びる。避けた横をぶっとい足が伸びて、砂浜を削りつつ戻っていく。当たれば恐怖だが動きそのものは遅い。麻薬中毒者のゾンビも避けられる程度だ。
そこで新たな
しかし何故海上にいるのだろう。船で移動しているのだろうか。
船ではなかった。ボードだ。サーフボードに乗って移動している。しかもかなり速い。時速90kmは出ている。
そう言えば……。俺は思い出した。指導員の2人の特殊能力に『波乗り』があった事に。
なるほど、此処の
なら俺が取る行動はひとつ、撤退だ。このままヤリモクビーチを目指そうとしてもクラ-ケン対
そしてこんなアウトなビーチに7歳程度の少年がいるなんてのはどうしても目立つ。保護という名の下に捕まって事情聴取されたら面倒だ。
俺は防風林に入り街道を目指す。街道に出たら南へ向かい、此処から完全離脱を図る。
今日は運が無かった。もうすぐヤリモクビーチだというのに届かなかった。しかし捕まってはたまらない。残念ながらここは逃げるが勝ち。
明日以降の自由時間に全てを賭けるとしよう。アイシャルリターン!
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