第22章 堕神の申し子⑴

第99話 ごっつあんです

 ビーチレスリングのルールは看板に大書してあった。


『1 2チーム4名が試合場内の指定位置についたところで試合開始

 2 選手個人が負けとなる場合は下の通り。

  ○ 武器の使用。砂による目潰しも武器攻撃と判断する

  ○ キック及び拳によるパンチを使用

  ○ 3秒以上砂地に肩を押しつけられる

  ○ 10秒以上立ち上がれない

  ○ 試合場外に落ちる

 3 負けた選手は速やかに試合場外へ離脱する。なお負けた選手による攻撃、攻撃補助行為等はチーム全員の反則負けとする。

 4 チーム2名両方が負けた時点で相手方の勝利とする。

 5 その他は審判の判定にに従うこと』


 なお年齢や身長による参加制限は無いようだ。参加しているのは大柄なマッチョが多いけれど。


 参戦申込みをする前に試合をすこしばかり観戦。

 試合場は砂を50cm位の高さに盛った6m四方のリング。試合終了時に崩れたり凹凸が出来た部分をスタッフが修正する。


 そして試合場の砂は平らにはされているが固めれておらずふかふか。力を入れすぎると足が砂にめり込むし倒れると起き上がりにくい。端の方だと崩れて場外へ落ちたりもする。


 足場が弱い為、試合は中央付近で組み合って倒したり投げたりなんてのが中心。背中側から倒れた状態で上から組み付かれればまず立ち上がれない。

 あとは張り手はOKだ。拳では無いから。実際牽制等で結構使っている。


「よく考えられたルールですね。これなら怪我の心配も少ないですし、それなりに見応えがある試合になります。身体が大きい方が圧倒的に有利ですけれど」


「その通り。されど気流を掴める航空力士なら、崩れやすい砂も堅固な足場とする事は可能。違い申すか?」


「確かにその通りです」


 規則には筋愛きあい操作が反則とは書いていない。無論遠距離攻撃技なんてのはブーイングものだろう。しかし足場を筋愛きあいで保持するなんてのはバレにくいだろうからOKだ、多分。


 俺はレスリング場受付にあるもう一つの看板を見る。

『参加費1チーム100レップス1,000円。勝ち続けた場合5戦まで有効。

 連勝賞金:1勝につき50レップス500円。5戦連勝でプラスボーナス250レップス2,500円


 つまり2戦勝ち抜けば参加費チャラで、5連勝すれば400レップス4,000円の儲け。別に小遣いに困ってはいないけれど、これはこれで面白い。


「だいたいわかりました。行きましょうか」


「その前にその腕章を外しておいた方がいい。あとチーム名はどうするで候?」


 確かにブートキャンプ参加者用と明らかにわかるのはまずいだろう。

 もっとも俺の服装でバレそうな気はするけれど。

 このビーチでビルダー帝国標準の体操服上下なんて着ているのは他にいないだろうから。


 でもまあ、それくらいはいいか、腕章で公にしないという程度で。

 腕章を外してポケットにしまう。

 あとチーム名なんて言われても急には思いつかない。


「チーム名はお任せします」


「了解にて候」


 シュウヘとともに受付へ。


「今日は少年の部は無いんだが、いいのかい」


「一般で結構で候」


 俺とシュウヘで50レップス500円ずつ出す。


「現在は2チーム待ちだ。此処にチーム名を書いてくれ」


「了承」


 シュウヘはささっとチームを記載。書いたチーム名を見ておいおいと思うが、係員の手前ここでは突っ込まない。


「ゴール・ツアンティ・イルか。聞き慣れない言葉だが、どこの言葉でどういう意味だい?」


「中東部や東の一部で使われている古い挨拶でごわす」


 正確には中東とか東の日出る国とかだ。ここから見て異世界の。


「そうか、不思議な響きだな。それじゃ3チーム目で呼ぶからその辺で待っていてくれ」


 受付から離れたところでシュウヘに突っ込ませて貰う。


「あれ、この世界じゃ通じないだろう。確か元の意味は『ゴール王に栄光あれ』だっけか」


「航空力士共通の挨拶にて候。日本の「ごっつあんです」と同じ程度の言葉でござる」


 何だかなと思いつつ、とりあえず順番待ちついでに観戦。どうやら連勝は難しいようだ。崩れやすい砂の上での格闘技、かなり消耗する模様。


 ただ俺もシュウヘも回復と持久を特殊能力として持っている。しかも体重が大人のマッチョよりは軽い。更には筋愛きあいを使って面で体重を支えるなんて事も出来る。

 だから砂の上で動いてもそこまで消耗はしないだろう。


 2試合目が終わった。試合場を係員3名が慣れた感じで馴らしている。これが終われば俺達の出番だ。


「では次、アップス&ダウンズ対ゴール・ツアンティ・イル」


 ついに俺達の番になった。2勝目をかけたアップス&ダウンズが東西の位置に、シュウヘが南、俺が北の位置に陣取る。


 相手のアップス&ダウンズはいかにもという感じのサーフ系マッチョだ。2人とも典型的な逆三角形の体型に、やや筋肉弱めの脚。どちらも20代前半といったところか。

 ビルダー帝国風のマッチョ美学では腰と足が細すぎる。でもまあ、フィジーク的にはきっと正しいのだろう。


「はじめ!」


 敵2人が動き始めた。ゆっくりなのは試合場の砂を崩さないように慎重に歩いているのだろう。

 そしてどうやら右の男が俺の相手をするつもりのようだ。こちらへ向かってくる。


 ならば遠慮無く行かせて貰おう。俺は筋愛きあいを空中移動をする時と同様に使いつつ足場を確かめる。問題ない。ジャンプだって出来そうだ。


 ならば。軽くダッシュをかけ、敵の背後に回る。奴はこっちへ向き直ろうとして姿勢を崩しかけた。不用意に足に力を入れてしまった結果、右足が埋まりかけたのだ。

 

 勿論そんな隙は見逃さない。埋まりかけた足のすぐ後ろに俺の右足を引っかけ倒させて貰う。首に手をかけていないけれど河津掛けと同じ要領だ。


 倒れたらあとは首と片腕を固めるだけ。この辺の寝技は俺の得意とするところだ。体重差・体格差ともかなりあるが足場の悪い砂の上では起き上がれまい。

 更に言うと下が砂で柔らかいからこれでも両肩がついた状態になる。さあどうだ!


「1、2、3! 勝負あり!」


 より倒した。俺は固めていた腕を外し起き上がる。


 さてシュウヘはどうだ。見るとちょうど技を決めたところだった。どうやったかはわからないが、敵はパイルドライバーが決まったかのように頭を下にして固められている。ついでに言うと頭部は完全に首まで埋まっているので、肩が砂についた状態だ。

 あれでは息が出来ないだろう。そう思いつつ状況を見守る。


「1、2、3! 勝負あり!」


 あっさり勝負が決まった。声援かブーイングかなにかが周囲から巻き起こる。


「ゴール・ツアンティ・イルの勝利。それでは試合場を整備するので一度下へ降りて下さい」


 試合場から降りて、そして思わず言ってしまう。


「面白いですね。このビーチレスリング」


「それならよかったでござる」


 さて次はどんな相手だろう。楽しみだ。

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