第98話 思わぬ遭遇

 皆と別れ、俺は海岸沿いを南方向へ。ヤリモクビーチ、いやクヒオビーチを目指して歩いて行く。


 クヒオビーチは街の南端より更に南。街壁の外側にある。


 普通は街門の警備筋士きし、僕みたいな外見お子様を魔物が出る外へ出してくれないだろう。


 しかし浜辺までは街壁は続いていない。この辺の海岸は観光地でかなり先まで一般人が入るからだ。海の直近は潮風のせいか一般的な魔物が出にくい為、街壁の必要性が薄いというのもある。


 なので浜辺側からなら街の外だろうと街壁突破可能。最悪の場合は全速力で浜辺を走り抜けるまで。


 俺自身の外見はお子様だ。実年齢でもうすぐ七歳なのだから仕方ない。でもだからこそ何も知らない純真な少年を装ってヤリモクなビーチに入り込めるのではないかと思っている。


 そこまで行ければしめたものだ。俺にはステータス閲覧能力がある。つまりビッチ属性もショタ属性もおそらくは判別可能。


 希望に胸と股間を膨らませ、海岸沿いの道を歩いて行く。先程の店はビーチブレイクこのまちの北部、だから少し距離がある。全力で走れば簡単に着くだろうけれど、人通りがそこそこあるので危険。だから大人しく歩いて行く。


 この道はビーチ沿いだ。水着姿の開放的な皆さんが右に左にうようよいる。いい尻をしている男も可愛い女の子も結構いる。あの辺はもう誰かに食われているのだろうか。なら俺も是非……


 見とれる物が多くて気づくのが遅れた。気がつくともう逃げられない距離に危険な筋配けはい。これは間違いない。一回しか出遭っていないが危険と快楽の記憶が刻み込まれている。


「久しぶりだ。やはりブートキャンプに来ていたか」


 そう、シュウヘだ。ラッシュガードにサーフパンツなんて姿で思い切り街に溶け込んでいるが間違いない。


『シュウヘ・イナ・ガオ 13歳

 筋力99 最大136 筋配けはい96 持久75 柔軟75 回復95 速度76 燃費25

 特殊能力:回復5+ 持久5+ ステータス閲覧 前世記憶

 称号:堕神エストロゲンの勇者、中級使徒メタボリック、航空力士(関脇級)』


『スグル・セルジオ・オリバ 6歳11ヶ月

 筋力76 最大108 筋配けはい81 持久75 柔軟75 回復92 速度76 燃費36

 特殊能力:回復5+ 持久5+ ステータス閲覧 前世記憶

 称号:不信心者インフィデル、破壊者、恐怖の取調官(男性専門)、航空力士(十両級)』


 速度と持久だけかろうじて対等。他は全て負けている。その上シュウヘ、航空力士の番付が関脇に上がっている。


 ここは堕神エストロゲン教会すらあるフィジーク公国。だから戦闘になる可能性はほとんど無い。それでももし戦ったらと思うと……どうやっても勝てる筋が見つからない。


「お久しぶりです。貴殿は何故此処へ」


「此処ではシュウヘと呼んでほしい。ブートキャンプの下見で候。アナボリック大陸西岸中部ブロック中級学校1年の部にて戦抜通過でござる」


 シュウヘ、確かに年齢は中級学校の1年だ。使徒メタボリックであっても学校に通っていておかしくない。ただかつての経緯から街中で普通の格好をしていると違和感を覚えてしまうだけの事だ。


「それにしてもスグルも航空力士でしかもすでに幕内。これはこの度のブートキャンプで一番所望したいでごわす」


 ちょっと待って欲しい。流石にどう考えても勝てない相手と戦うのは厳しい。

 それに今のシュウヘの服装に疑問がある。


「ブートキャンプにはその格好で行くんですか?」


 ブートキャンプの服装は各国指定の体操服上下だった筈だ。


「本日は下見でごわす。中一の部の集合は三日後の夕刻故」


 そう言えば年齢的に学年が上だった。でも下見か。


「プロリン平原からは240km位ありますよね、此処まで。その距離から下見ですか」


「どうせスグルやサダハルはブートキャンプに来るであろう。だから確認を兼ねて今日来たので候。あと我が本拠はレプチン。あの日プロリンにいたのは別用故」


 なるほど、それなら……いや、あまり納得できない。

 堕神エストロゲン教団の本拠地でもある山岳都市国家レプチンは確かビーチブレイクの北東100kmちょいの所だった筈だ。しかもスパイン山脈の西斜面に位置していては標高1,500mを超える。

 

「レプチンですと高低差がある分、往来が大変では?」


「行きも帰りも飛空移動にて候。ただし手荷物をあまり持てないのが欠点」


 そう言えばシュウヘ、強力な航空力士だった。飛空移動、うまく風を掴めば走る以上に速いのだろう。


「ところでこの後、スグルは何か予定がおありか?」


 まさかヤリモクビーチ見学、あわよくば×××だなんて言えない。


「いえ、前泊の集合時間に間に合うよう戻るだけですけれど」


「ならアレに挑戦はいかがでござるか?」


 シュウヘが指さしたのは海の方。そこにはこんな看板がある。


『飛び入り歓迎、ビーチレスリング大会! 勝ち抜き3回以上は賞品・賞金有り!』


 面白そうだが知らない競技だ。


「ビーチレスリングって何ですか?」


「2人タッグ制格闘技。参加してみたいと思ったがパートナーがいない故、諦めていたで候。

 1試合が10分故、最高の5連勝でも1時間かからぬでござる」


 なるほど。


「面白そうですね」


 勿論ヤリモクビーチは気になる。しかしこれもなかなか面白そうだ。それに何か新しい戦い方を見つけられるかもしれない。


「ただビーチレスリングはやった事がないので、何試合か観戦してからでもいいですか?」


「勿論」


 俺とシュウヘは海岸の方へと歩き出す。

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