第97話 ビーチブレイク到着
サダハルが言った事は事実だった。
『問題はむしろ下りる方だ。上る時以上に筋肉の負荷が増えるらしい。登山トレーニングで筋肉痛を起こすのも大抵は下りだそうだ』
普通に下ったのならそれほど厳しい事にはならないだろう。しかしビーチブレイクまで休憩無し40分で走ってくるとなれば別だ。
グランドスウェルからビーチブレイクまでは標高差1,455m、水平距離100kmちょっと。もちろん傾斜が均等という事はない。グランドスウェルから20km程度で一気に標高100m程度まで降りきって、あとは比較的平坦という地形。
そこを飛ばせるだけ飛ばすというスタイル。
「速度の恩恵って、回復や持久の恩恵より遙かにレベルが上という気がしてきました」
「筋肉汎用ではなく速度だけの恩恵だ。走る事にかけては勇者の恩恵より上でも仕方ないだろう。
あと筋肉が痛い時に
どうやら既に試したようだ。サダハルの表情と雰囲気でわかる。
「わかりました。今と同じ程度までにしておきます」
なおこのやりとりでわかると思うが消耗しているのは5人のうち俺とサダハルだけ。女子3名は元気だ。
「ついにビーチブレイク到着! だよね。うーん、街も楽しそう」
「集合まで4時間以上」
「着替えて軽く観光しましょうか。ビーチ側に行けばシャワーを浴びて着替えられるお店が結構あるようです」
着替えられる店の情報なんて合宿のパンフレットには載っていない。そして合宿開始になってからなら宿泊している施設で着替えられる。
つまりそんな店を知っている
「なら行くか」
サダハルも諦めたようだ。仕方ないので俺も気分を入れ替えるとしよう。
それにムフフな相手を探す為の下見だと思えば悪くない。もちろんその辺は皆には内緒だが。
「ではこちらです。食事を頼めば着替え場所とシャワーを貸してくれる店があります」
「ワイメア? サンセット? パイプライン?」
「ワイメアの方だよね、ミトの好み的に」
「ええ」
どうやら女子3名とも予習は完全な模様。わからないままに俺とサダハルはついていく……
◇◇◇
注文して、シャワーを浴びて服を着替えて食事。なおシャワーと着替えは個室形式だったのが少しだけ不満。何せこの店は海辺で男女問わずいい感じの客が多かったから。
でもまあ、その辺は今後に期待だ。という事でそんな考えは表に出さず、指定されたテーブルへ戻る。
ミトさん達はまだだ。女子の方が混んでいるようだし若干時間がかかるだろう。昼食は皆が揃ってから運ばれるシステムだ。だから俺は時間つぶしと情報収集を兼ねて周囲の様子を観察する。
盛夏だし店の外はビーチ。だから水着の上にTシャツ1枚という客も多い。なかなか開放的な雰囲気が今後を期待させる。
さしあたって必要なのは何処が俺の目的に適しているかだ。目的とは勿論ムフフな性欲解消。こういったのは向いている場所と向いていない場所がある。まずは向いていてそういう人種が集まる場所を選ぶのが正しい。
勿論図書館にあるような観光案内にはそういった情報は載っていない。つまり事前の情報収集は不可能だった。だから此処、現地に一番近い場所で聴力を最大に働かせて周囲で飛び交う言葉を拾う。
なるほど、クヒオと呼ばれる辺りのビーチがそっちの遊び目的の若い子が多いと。時間は午後3時以降から夕方、夜。岩場や林が多いから隠れていたす事も簡単でその方が多いと。
よしよし、いい事を聞いた。後でこっそり一人で行ってこよう。ブートキャンプもトレーニングは午前に集中していて午後は自由時間が多い。機会は結構ある筈だ。
なんて思っていたらサダハルが口を開いた。
「僕はこの後、少し別行動をしようかと思っている」
おっと、サダハルもヤリモク方面へ進出か! そういう方向性では無かったと思ったがここの開放的な雰囲気で変わった?
「どの辺へ行くつもりですか?」
共闘はしない。でも一応聞いておく。
「此処から10分程度走れば公都アメイワだ。そこの公立中央図書館で
しまった、サダハルらしい真面目な理由だった。
確かにそっち側についても調べたいのは確かだ。
「よかったら一緒に調べないか?」
どうしようか。確かにそれも重要な課題ではあるのだ。しかも調べる事が可能なのは
どうしようか。5秒程度真剣に考えて、そして決めた。
「僕も別行動をとりましょう。ただ僕で別の方法で調べてみます」
勿論調べる。ただし今日とは限らない。時間は限られている。だからまずは身体的優先課題からだ。
「わかった」
そこでミトさん達が戻ってきた。
「おまたせ」
「遅くなってしまいました」
「混んでいた」
着替えと言ってもブートキャンプ指定の服装は国指定の体操服。だからデザインは先程までと同じだ。しかし濡れた髪とか着替えた直後という感じの服とが、微妙にエロさを感じさせる。
だからと言ってここでがっついたりはしない。俺だってそのくらいの分別はあるのだ。
こちらが揃ったのを待っていたのか、すぐに料理がやってくる。
この店の看板メニューはタコスっぽい料理だ。平たく薄いパンにおかずを包んだり挟んだりして食べる形式。
そしておかずは魚と野菜がメイン。しかも魚は生だ。白身とほんのりピンクっぽい身、そしてカツオっぽい赤身魚がそれぞれ刺身っぽい形に切ってある。
野菜はアボカドっぽいもの、若いパパイアみたいなもの、青バナナを蒸したもの、トマト、キュウリ等。
そしてソースはトマトベースの赤いもの、マヨネーズっぽいもの、香草と煮て匂いを消した魚醤ベースのものの3種類。
「今日は結構動いたから油分ありのドレッシングでも大丈夫だよね」
「ある程度は取らないと不健全」
刺身に醤油ならぬ臭い消し処理をした魚醤、美味しくない訳はない。しかしタコスに挟むなら魚とアボカド、あと他の野菜少々でマヨネーズっぽいソースもいい。
なお赤いソースはトマトの他に唐辛子も多めのようだ。タバスコや豆板醤よりマシだが俺の舌には今ひとつあわない。子供舌と言われそうだが実際に子供なのだから仕方ない。
一人前あたりタコス風5枚とおかず平皿山盛り。ボリュームも充分だ。
「美味しいよね、これ」
「ええ。この店を選んで良かったです」
「確かにいいな。これなら必要な栄養素をある程度自由に選べる」
タコスだけでなくご飯が欲しい。出来れば酢飯があれば最高だ。なんて思っても此処には無さそうだから潔く諦める。
そういったメニューがありそうな店は後で自分一人で動いている時に探してみよう。食堂ではなく惣菜店辺りならそういった組合わせを作れそうな気がする。
ただタコスも悪くは無い。三大欲求のうち食についてはとりあえず満足出来そうだ。
それでは次の欲を満たす為に動くとしよう。今日はあくまで下調べ程度のつもりだけれど。
まずは皆さんに別行動する旨を告げよう。
「この後、僕とサダハルはそれぞれ別行動をしようと思っています。此処で少し調べたいことがありますから……」
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