第94話 事前の注意
「さて、それはそれとしてさ。イストミア聖学園の一部の上位陣について、少しだけ注意した方がいいことがあるらしい。特にスグルには。
この辺はソウ、頼む」
特に俺が注意した方がいい事か。何だろう。
「イストミアが出来たきっかけは
この破壊者を倒し教団と神を守るために、教団は最強の筋肉兵士を育成する事を計画した。破壊者と同世代の優秀な者に筋肉英才教育を行い、教団の盾となる者を育成する計画。
イストミア聖学園はこの計画の元に作られた組織だ」
「ここで少し注釈をして貰った方がいいかな。何故そんな事を一介の
マサユキの言う通りだ。そんな内容はソウ自身が黒幕、教団側でなければ知り得ないだろう。ソウの立場を確認する為にも聞いておいた方がいい。
「わかった。ただ方法そのものは大した事はない。元々怪しい組織だと子供ながらに感じていた。だから十分な能力がついたと思った頃から学園長の司教補のデスク等を漁って情報収集をしていただけだ」
なるほど。ソウのステータスは既に大人の
「話を戻そう。イストミア聖学園の母体となる孤児院が出来たのは今から十年程度前になる。そこに教団の各孤児院等から優秀な子供が集められた。
その中には教団の暗部による破壊者狩りによって攫われてきた子供も含まれていた。今回の大会に出ていたニール、ヤスシ、ハツヒコ、女子ではナタリアがそうだ」
強者ばかりだ。
「破壊者狩りとは、将来破壊者として育ちそうな芽を早いうちに摘んでおく為のものだ。該当年齢で優秀な子供を攫い、教団の敵にならないよう洗脳する。
攫われた者はもっと大勢いた。ただ優先的に洗脳や実験で使われたからほとんどは廃人化した。10人以上いた筈だが残ったのは4人だけ。その分能力は高いし洗脳も強力にされている。
更に攫われた者以外でも実験の追試等を行った。この犠牲になった者も少なくない筈だ。知っているだけで5人は消えた」
なるほど。ステータスで感じた予感は概ね正しかった訳だ。教団による人体実験施設という。
あとステータスにあった破壊者疑惑という称号の意味も理解した。おそらくは破壊者の可能性を疑われ、狩られて来た者についた称号なのだろう。
そこで俺はふと気づく。そう言えば他にも怪しい称号があったなと。今のうちに聞いておこう。
「ひとつ質問していいでしょうか?」
「ああ」
「勇者という言葉、あるいは称号は何処かで使われていませんでしたか?」
サダハルが反応するかと思ったが、少なくとも表面上は何の反応も見せない。うまくポーカーフェイス出来ているようだ。
「イストミアでは勇者とは破壊者を倒す聖なる使いと教えられていた。元々の教団用語では神によって選ばれた最強の戦士の事らしいが。
しかし勇者という言葉は教団用語で一般では使わない筈だ。何故それを知っている」
ちょうどいい言い訳は思いついている。
「先月、僕自身が破壊者として疑われ襲われました。その際に破壊者という言葉と教団について調べた結果、勇者という言葉も知ったんです」
さて、どう反応するか。
「それなら理解出来る。そこまで隠すような用語では無いから。
さて、先日の総司教逮捕とその後の捜査で教団上層部が根こそぎ倒れた。イストミアも教団の実験の成果とともに大手商会傘下の私立学校に買われて教団の手を離れた。
それでも教団の影響が完全に無くなった訳では無い。ニールら破壊者狩りの被害者は薬物と特殊な施術によって強固な洗脳を受けている。それ以外も小さい頃から教団の論理を教え込まれている状態だ。
最初からイストミアに疑いを持ち続けていた僕やヴィヴィアンはむしろ少数派と言っていい」
なるほど。ありうる話だ。
「そして今ではほぼ全員が、総司教から教団上層部までが逮捕された事、それらがどういうきっかけで起きたかという事を知っている。散々ニュースとして流れたし自分達の扱いが変わった直接の理由だから当然だ」
まあそれはそうだろう。しかしこの話の流れだと……
「つまり僕を敵視している可能性が高いという事ですか」
ソウは頷いた。
「ああ。更に言えばこの5人は以前、
更にはこの接触がその後の総司教逮捕にも繋がっているのでは無いかと邪推する者もいる。イストミアの牧師にも少なからずいた。イストミア聖学園となった今は排除されているが、その影響を受けた
なるほど。
「つまり僕は教団の敵扱いな訳ですね」
「スグルに限らない。
そして今度の合宿に参加するだろうイストミアの
もちろんいきなり襲ってくるという事は無いだろう。通常の意識を保っている間は常識から外れる事はしないと思う。しかし洗脳の影響がどう出るかはわからない。突如精神が壊れる者を何人も見てきた。
だから合宿の間は出来るだけ注意して欲しい。僕からは以上だ」
なるほど、理解した。そう思ったところでミトさんが口を開く。
「わかりました。私達も出来るだけ注意しましょう。
ところで今のイストミア聖学園は大丈夫なのでしょうか。現在の
「それは大丈夫だと思います、多分ですが」
ヴィヴィアンさんのそんな言葉の後、ソウが口を開く。
「シャイロック商会に渡された教団の資産たる実験結果の書類は
「更に言うとその前に私とソウとでも確認しています。その上で本当に危険だと思われる方法については抹消させていただきました。
ですので紙としての資料で残っているという事はない筈です。実験に携わった教団聖職者の知識や記憶までは処理できていませんが、その辺りの者はほとんどが国に収監されています。
ですからそう問題は無いはずです」
なるほど。
◇◇◇
戦抜大会、ビルダー帝国南部ブロックでは結局俺が男子一位で通過した。これはニールやソウに勝てたおかげだ。
ただし一位通過の特典とか表彰とかは特にない。戦抜はあくまで後期のブートキャンプ参加者を選ぶだけの行事だから。
なおブートキャンプ参加者は男子が俺、サダハル、ニール、ソウ、ハツヒコ、ヤスシ、マサユキ、コウイチ、アキノブ、帝立スレオニン校のオマリー。
女子は既に確定していた順位通り、ミトさんとナタリアさん、フローラさん、エレインさん、ヴィヴィアンさんの5名。
表彰式とかはない。受付で成績証明書と、あとブートキャンプ参加者はその関係の資料を貰うだけ。
そこでチョージ達と一緒になった。
「いいよなスグル達は。俺も最終決定戦までは残れたんだけれどなあ」
「ドンマイ、来年があるさ」
チョージは最後の参加者1名を決める10位決定戦まではには残っていた。しかしそこに残った4名のうち3名がチョージ、ケンジロー、ユタカと1組勢。
結果、互いの戦い方を知っていて実力伯仲なこの3名間の試合が白熱しすぎて消耗戦となった。結果としてオマリーが残ったという形だ。
「それにしてもコウイチ、マサユキに順位で負けたんだ」
「うるせえ。無事ブートキャンプへ行けるんだから問題ねえ!」
教室での休み時間と同じような会話をしつつ受付に並び、順位証明書とブートキャンプの資料がはいった封筒を受け取る。
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