第93話 怪しい組み合わせ

 試合場から戻ると待機場に女子が来ていた。どうやら女子の方の試合は終わったようだ。ミトさんやフローラさん、エレインさんもいる。

 そして戻ってすぐミトさん達にこう言われてしまった。


「今の戦い方はかなり危険に感じます。攻撃にあえて無防備で飛び込んだように見えたのですけれど、私の気のせいでしょうか」


「同意」


「隙が無いのに正面から直線的に攻撃したりもしていたよね」


 確かにミトさん達が言う通りだ。


「今回は相手が充分に準備できる前に攻め尽くす事を徹底しました。正面からあえて遠距離攻撃を避けずに攻めたのも、最短時間で最大の攻撃を通すためです。


 途中遠距離攻撃をあえて避けずに受けましたけれど、あの時間ではそう重い攻撃は放てませんし、込められた筋愛きあいもそれほどでもなかったので大丈夫だろうと判断しました」


「確かにそうだけれどさ。特殊能力の回復はそう使うものでは無い気がする。

 でもまあ今回に関しては、今までの戦況から威力は判断可能か」


「ええ。流石に未知の敵に今の戦法は使えません。それよりさっきのサダハルの試合、らしくないじゃないですか」


 サダハルは苦笑いを浮かべた。


「してやられた感じだ。こちらの攻撃を相殺するとともに徹底して近接戦にならない距離を保つなんて戦い方をされた。スグルの今回の戦法とは逆だな。どことなくマサユキっぽい、攻撃より隙を見せない方を優先した戦い方だ。特殊能力を使用した結果、まだ能力が戻りきっていないというのもあるんだろうけれど」


 これで男子も上位陣はほぼ順位が確定した。具体的には俺、サダハル、ニール、ソウ、ヤスシ、ハツヒコ、マサユキ、コウイチ、アキノブといった形だ。


 しかしそれ以下は激戦だ。残りの17人のうち3人が並んでいる。しかもあと4試合残っていて、その試合のうち3人は勝てば3人と並ぶ状態。


 間違いなく順位決定戦が入るだろう。だから結果がどうなるかはわからない。とりあえずチョージやケンジロー達には頑張って欲しいけれど。


 まずは決まったらしい女子の方から聞いてみよう。


「女子の方は順位、確定したんですか?」


「12位まで確定。こんな感じよ」


 手書きのメモをフローラさんから貰う。上位陣は5位、つまり合宿参加ラインまで午前中終了時と同じだ。


 つまりミトさんとイストミア聖学園のナタリアさんが同率1位、直接対戦は引き分けなのでこのままらしい。なので次は3位でフローラさん。4位がエレインさん。そして5位がイストミア聖学園のヴィヴィアンさんとなる。


 他の学校だってあるのに完全に帝立トリプトファン校うちとイストミア聖学園で2分してしまった形だ。


 でも男子も状況は変わらない。何せ上位7位までは女子と同様帝立トリプトファン校うちとイストミア聖学園。それ以外で10位までに入れそうな生徒トレーニーは8名。


 この8名の内訳は帝立トリプトファン校うち4名とイストミア聖学園3名。つまりこの2校以外で残っているのは帝立スレオニン校の1人だけ。


「イストミア聖学園、有名になるでしょうね。もちろん既に話題には上っていますけれど、結果が出るとまた違うでしょうから」


「だね。でも孤児院なんだよね。ここで有名になって何かいい事ってあるのかな。寄付金が増えるとか効果があればいいけれど」


 確かにフローラさんの言う通りだ。確かに有名にはなるだろう。しかしその結果寄付金が増えるかどうかは微妙だと感じる。この国には大きな街なら大抵何処でも孤児院があるし、寄付は資金が足りて無さそうな場所にするだろうと思うから。


 なんて思った時、筋配けはいが3つ近づいてくるのを関知した。

 1つはお馴染みの筋配けはい、1組のマサユキだ。そしてもう1つも知っている筋配けはい。もう1つは知らないけれどかなり強そうな筋配けはいだ。


「とりあえず5人とも合宿参加決定おめでとう」


 マサユキ、そしてイストミア聖学園のソウ、更にはヴィヴィアンさんという組み合わせだ。何でこの3人が一緒なんだろう。何処かで接点があったのだろうか。


「ありがとうございます。でもそちらも3名ともに合宿はほぼ決定ですよえ。おめでとうございます」


 ミトさんの返答にマサユキが軽く頭を下げる。


「ありがとう。まあ僕はぎりぎりだけれどさ。皆強すぎて容赦ないから。

 さて本題。まあもう知っていると思うけれど、イストミア聖学園のソウとヴィヴィアンさん。合宿で一緒になるだろうからという事で、とりあえずの挨拶」

  

「よろしくお願いします」


「こちらこそよろしくお願いします」 

 

 とりあえず双方で頭を下げて、そして。


「ところでマサユキ、2人と前から知り合いだったのか?」


 サダハルの質問にマサユキは首を横に振る。


「いいや、知り合いになったのは一昨日。イストミア聖学園がどんなところか情報交換をしたくてさ。様子を観察した結果、一番話しがしやすそうなソウに声をかけたんだ」


 しれっとそういう事が出来るのがマサユキの長所というか怖さだったりする。


イストミア聖学園うちは閉鎖的な環境で外の情報に疎い。だから僕としてもマサユキが話しかけてきてくれたのは渡りに船だった」


 今のやりとりで何となく理解した。ソウ、どうやらマサユキと同じような考え方をするタイプのようだと。そう思えば雰囲気も似ているように感じる。話し方は違うが。

 更に言えばサダハルとの戦い方も。

 待てよ、まさかとは思うけれど……


「マサユキ、ひょっとしてその情報交換って、お互いの学校の生徒との戦い方だったりしないか?」


 俺とほぼ同時にサダハルがその可能性に気づいたようだ。マサユキはにやりと悪そうに笑う。


「僕としてはうちの2強との差をあまり広げたくなかったからさ。それに僕としてももイストミア聖学園の生徒との戦い方の情報が欲しかったしさ。

 だからスグルとサダハルについては少しばかり。具体的にはサダハル相手には手数と遠距離攻撃で攻めて近接戦をするなとか、スグル相手は逆にオーソドックスな近接戦の方がいいとか。

 

 ただ実際は全部活かされた訳じゃない。例えばスグルの空中戦、ああいった真似はするなと言っておいたんだ。スグルはアドリブでとんでもない事をするけれど、あれはあれで体験に基づくもので、他には真似できないだろうし対策も考えてあるだろうからやめておけって」


「新しい戦い方を試してみたかった。しかし結果的には失敗だった」


 どうやら図星のようだ。何というか、油断も隙も無い奴だと思う。

 ただきっとそれがマサユキの戦い方なのだ。筋力や速度に劣る分をありとあらゆる方法で補完するという。だからまあ、そんなものだと思うしかないのだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る