第91話 俺なりの戦い方

 先程の攻防で理解した。隙が無ければマサユキを攻めきる事は出来ない。むしろ反撃に遭ってしまうだろうという事を。


 しかし今のマサユキを見るに待っているだけで隙が出来るとは思えない。

 ここは強引に隙を作るしかないだろう。まずはこの技からだ。


 超加速でダッシュ。最初はマサユキを正面に見て真横方向。正確にはマサユキを中心にした3mの円の円周方向、反時計回り。


 マサユキは向きを変えて対応しようとする。しかし少しだけ反応が遅れた。

 俺は左足の踏み込みでマサユキ側を向いて更なる加速。反応が遅れたマサユキを拳で狙う。フローラさんが得意とする急襲技だ。


 背中に拳を当てた。しかし思ったより手応えはない。なるほど、当たる寸前に前へと飛んで威力を殺したようだ。


 それでもそこそこのダメージはあった筈。更に言うと追撃も可能な距離。だから更に前進して次の攻撃を行おうか。思ったところでマサユキの身体がやや回転している事に気づく。


 奴め、何とか飛び退いたように見えて、それでもこちらを向けるよう蹴りの方向を調節していた。しかも追撃してきたら蹴りで迎撃できるよう右足を軽く曲げている。わざとらしく振り回している腕で気づきにくいけれど。

 近くの動きに惑わされず敵の動き全体を見る事か。なるほど、理解した。


 俺は接近しての攻撃を諦め、エアバレットのモーションへと移る。足を止めて速めのエアバレットの連射。

 今の体勢ではマサユキも避けきれない。後方へつんのめるようにしてひっくり返る。


 俺は更にエアバレットを連射。マサユキは試合場に踏みとどまれず場外へ。立ち上がれないようエアバレット連射を続ける。

 

「……6、7、8、9、10! 場外!」


 決まった。予想以上にあっさりと。

 なるほど、この攻撃方法はそれだけチートだった訳か。そんな事を考えながら礼をして待機場に戻る。


 すぐにマサユキもやってきた。


「いや、やられた」


 どうやら怪我等は無いようだ。そのことに少しほっとする。


「普通に戦っても不利になるばかりでしたから。あれを使わないと勝てそうにないと思ったんです」


「最初はあの高速攻撃や遠隔攻撃を警戒していたんだけれどさ。使う様子が無いからつい警戒を解いてしまった。そこが今回の敗因だ」


「マサユキでも気を抜くという事があるんですね」


 これは俺の本音だ。実際さっきの試合も超加速を使うまでは俺の方が不利だった。


「相手の動きを予測して手を打っているつもりだけどさ。正直なところ筋力が並以下だし、読み負けると割と弱いんだよな、僕は。


 今回のスグルの戦い方がいつもと違ったのが誤算だった。いつもならもっとガンガン前に出てくるのに今回は一歩引いて全体を見ようとしているような感じで。

 そこに警戒しすぎた結果、途中であの速い攻撃への注意がおろそかになってしまった」


「自分の試合を振り返って思ったんです。僕の試合は行き当たりばったりのことが多かったなって。だから戦い方を見直そう、そう思って最初は戦ったんですけれど」


「なるほど」


 マサユキは頷く。


「確かに考え方としてはありだ。ただ僕から見ればスグルの一番怖い攻撃はそういった待ちや観察による攻撃じゃない。ひたすら速い先手必勝攻撃だ。完全に来ると予想していないと僕では対応出来ないから。


 あとスグルが敵として嫌なのはタフさ。それなりの攻撃を何発か当てても動きが鈍らない。身体の大きさはまるで違うのにサダハル並だ」


 なるほど、下手に待ちに出るより速度を活かして先制攻撃に出た方が俺の長所を活かせると。そしてタフさもまた武器なのかと。


「ありがとう。参考になった」


「次の次の試合の参考になればいいけれどな。その戦いはどっちが勝っても僕に影響ないから」


 対ニール戦に向けてのエールという訳か。若干ひねくれた言い方だけれど。とりあえずはありがたい。

 ただそこを素直にありがとうと言えないのが俺の性格だったりする。


「とりあえずは次のコウイチ戦で試してみます」


「僕としてはその試合、コウイチに勝って欲しいんだけどな。戦抜の順位的な問題で。多分無理だと思うけれどさ」


 さらっと返されてしまった。

 なおそのコウイチは現在、第二試合場でイストミア聖学園のサトシと戦っている。サトシは同じイストミア聖学園のニールやソウ、ヤスシやハツヒコほどは強くない。勇者何とかと言う怪しい称号もない、1組の中位くらいと同等レベルの生徒トレーニーだ。


「あの程度の相手ならコウイチなら勝つと思う。ただコウイチはもっと敵の動きをしっかり見て戦えばもっと強くなると思うんだよな。あとはサダハルも。


 まあその辺は1組の他の生徒トレーニーも同じだけれどさ。ミトさんと最近のエレインさん位かな。相手を観察して手持ちの最適な手を出してくるのは。

 絶対筋力がないとそれが出来なければ勝てないからさ。その辺は僕も同じだけれど」


 なるほど。言われてみれば確かにエレインさんもそっちのタイプかもしれない。高速で引っかき回し遠隔攻撃で揺さぶりつつ隙を見つけて攻撃するタイプ。


 何か俺なりの戦い方が少し見えてきた気がする。高速を活かした先制攻撃。そして高速と遠隔攻撃を併用した揺さぶり攻撃。あとは多少の攻撃には耐えきれる耐久力。

 きっとその辺に活路があるのだろう。取り敢えずは次のコウイチ戦で試してみよう。

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