第90話 対マサユキ戦(2)
マサユキ、構えたままじりじりと前に動いてくる。これ以上間合いを詰められるとリーチの差で俺が不利。マサユキの攻撃が届くが俺の攻撃は届かない範囲に入るのだ。
かと言ってマサユキから攻撃しにくいよう右方向に動けばマサユキも横へと動く。間合いは変わらず試合場内の端近くへ追い詰められるだけ。
なるほど、俺は前にダッシュして仕掛ける以外の方法を封じられている訳か。やはりマサユキ、上手い。試合場という限定された状況を上手く使っている。
俺が出来るチートな動きを制限しなければ、打開策を2つ考えられる。上空へ飛んで上から攻めるか、超加速で回り込むか。
ただ今回はぎりぎりまでチートは使用しないつもりだ。残り1分でも勝ちが見えないなら使うかもしれない。しかし身体の大きさ以外ではステータス的に俺のほうが上なのだ。だからきっと何処かに打開策がある。
更に言うとマサユキ、俺のチートな動きにも対応策をとっている気がする。これらを考えると最適な次の攻撃は……
よし、ここは回り込みとかをあえて考えず、正面から最速の攻めを狙ってみよう。俺自身の小ささを活かすなら低さ、速さで攻めるべきだろうから。つまりはまあ王道の正攻法だ。
俺は目一杯低い姿勢で前方にダッシュをかける。マサユキは正面からの蹴りで応戦するようだ。上等だ! 本来なら圧倒的に不利な蹴り対正拳を意識して
マサユキは俺から見て右に一歩踏み出した。俺を横へと避けつつ回し蹴りで攻撃する事を選んだようだ。蹴りは拳より間合いを必要とする。横へ避けるのはその間合いを稼ぐ意味合いもある訳だ。
こうやってみるとマサユキの戦法はどれもこれも理にかなっている。そこまで考えて動いているのか、それとも考えなくても動けるまで鍛えたのか。
おそらく両方だろう。そして今やっとこの事に気づいた俺ではこの方向でマサユキを超えるのは無理。
だからここは俺の長所を使って戦うべきだろう。身体の小ささと、チートなしでも充分以上に高いステータスとを。
マサユキの回転蹴りを右拳で迎撃する。拳と腕にかなりの衝撃。蹴りを拳で迎撃するなんて無茶をしたのだから当然だ。しかし俺の方が圧倒的に筋力も
マサユキの姿勢が崩れる。チャンスだ。出した右足で強引に地を蹴って左へと向きを変える。体勢を崩しつつも残した左足で地を蹴って後方に逃れるマサユキを追う。
崩れた姿勢から背面跳び的な回転で立ち直ろうとするマサユキ。身体が伸びているので微妙に攻撃をしにくい。本来は足技で攻めるべき姿勢だが俺は方向転換で足を使った為に前のめり体勢。
追撃は無理だ。俺は次の足で逆に踏み込んで間合いを取る。次の二歩でマサユキの方へと構え直す。
マサユキもほぼ同時にこちらへ構え直した。ただし今回の正対、先程と試合場での位置が変化している。今の位置はやや俺のほうが後ろが広い。マサユキが正方形の一辺に向けて押されている形だ。
そして俺は今の一連の攻防で理解した。間合いの不利は速度と筋力で殺せるという事を。
なら今度は更なる正攻法といこう。俺はマサユキを試合場の角へ追い詰めるよう右やや前方へと進む。マサユキは構えたまま向きだけ少し変える。
俺は更にじわじわ右前方へと回り込むよう動いていく。最初のマサユキの動きの真似だ。
俺のほうがリーチが短い。だからマサユキはある程度の間合いを取った方が有利だ。逆に言うと間合いをある程度以上詰めると俺にとって有利となる。
だから合理的に考えてマサユキは自分に有利な間合いのうちに攻撃してくるだろう。今度はそこを狙う。
しかしマサユキ、動かない。右にも左にも、そしてこちらへも。
次の次のステップで俺の蹴りが届く間合いになる。それでも動かない。何か策があるのだろうか。それともただの時間稼ぎ、それともブラフか。
マサユキの体勢は崩れていないし隙も見えない。しかしここはあえて力で押し通させて貰おう。中段への蹴りを放つべく前に一歩踏み出す。
だが次の瞬間、マサユキも前へと動いた。まずい、蹴りには近すぎる。しかし動き出した足は急には止められない。ただまっすぐ拳を突き出すだけでも当たりそうな距離だが体勢的に正拳を放つのも無理。
マサユキの膝蹴りが襲ってきた。両手で咄嗟に防御する。だが威力を完全には殺しきれない。なおかつ後方へのけぞるような姿勢になってしまった。蹴りを放ちかけた不安定な姿勢だったせいだ。
残った左足で地を蹴って後方へ逃れる。つい先程とは逆のパターンだ。ただ俺は身体が軽くて筋力が高い。だからついた腕の力で更に後方へと身体を飛ばせる。
ただ今回は立ち上がって構えるなんて事はしない。着地と同時にダッシュをかける。試合場の端の線ぎりぎりだったからだ。
マサユキは追ってこない。無理矢理追うと自分の体勢が崩れて隙が出来るからだろう。
なるほど。俺は理解した。マサユキは強い。俺のステータスを持ってしても通常技では攻めきれない。
「3分経過」
思った以上に時間が経っている。そして試合の流れそのものは俺の方が劣勢だ。
今のマサユキは強い。学校での模擬試合以上だ。試合場の狭さまで最大限に活用して常に自分に有利になるよう動いている。攻撃も的確。
これがマサユキの実力なのだろう。今のままでは勝てない。
仕方ない。制限撤廃だ。俺もここからは本気で行こう。チートだと思う技も全て解禁する。
そうしなければ倒せそうに無い相手だ。そう俺の全感覚が認識したから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます