第20章 予想外の強敵

第89話 対マサユキ戦(1)

 この後はマサユキ戦を戦って昼休憩だ。午後はコウイチ戦、そしてニール戦という予定になっている。強敵ばかりなのは昨日の第四回戦が楽だったせいが半分、そもそもここまで残ったのが強者ばかりというのが半分。


 さて、次のマサユキ戦は出来るだけチート系の攻撃無しで攻めるつもりだ。


 3回戦以降の試合を振り返って思ったのだ。大体において俺の此処での試合は行き当たりばったりだったと。

 勿論ある程度の作戦は考えてはいる。しかしそれが通用するのは自分より格下の相手だけ。


 ヤスシ戦とソウ戦は何とか当初の想定通り戦えた。しかしハツヒコ戦で勝てたのは運が良かっただけだ。上昇気流が無かったら負けていた。


 サダハル戦も攻め切れなかった。技そのものは俺の方が多いはずだ。しかも想定通り空中に位置出来たのだ。それでもサダハルの守りを崩せなかった。

 

 このままでは互角以上の相手には勝てない。例えば本日最後に戦う事になるだろうニールには。


 だから俺なりにここで戦い方の見直しをしよう。そう思った訳だ。そしてそ何かを試すにはマサユキ、最適な相手だ。


『マサユキ・ハングシート 筋力58 最大65 筋配けはい59 持久60 柔軟69 回復55 速度60 燃費52

 特殊能力:なし』


 マサユキ、ステータス的には大した事はない。1組でも中位レベルでチョージと互角かやや劣る程度。俺と比較した場合優れているのは燃費だけだ。


 しかし強い。現に俺とサダハルをのぞく1組勢では現在のところ最上位だ。そのマサユキの戦法を実戦で学ばせて貰おう。


 勿論負ける気も引き分ける気も無い。何としてでも勝つつもりだ。それでも当たり前の近接戦闘だけで、意味を考えつつ戦えばヒントは見えてくるだろう。

 ステータスで勝てないニールに対する打開策が。


 ただマサユキと戦う以外にもヒントはあるかもしれない。例えば他の生徒トレーニーの試合。互いのレベルが低くても参考になる部分はあるかもしれない。


 そう思ったので俺は他の生徒トレーニーの試合をじっくり観戦することにする。


 なるほど、最初は基本的に間合い取りの攻防がメインか。パンチやキックで先制するタイプとそうやって攻撃してきた相手を捕まえたりカウンターで攻める事を狙うタイプとあると。


 俺の場合は近接攻撃が届くか届かないかの間合い調整なんて事はまずやらない。年齢が下で身体が小さい分、どうしても間合いの長さで勝てないからだ。


 だから遠距離攻撃で様子を見るか、速度を利用して一気に突っ込む。遠距離攻撃なら身体の大小による間合いの差は関係なくなる。高速で突っ込めば多少の間合いの差など一瞬の誤差。

 なるほど、それはそれで合理的な方法論だったようだ。本能的にそうしていただけだけれど。


 あと技を上段や中段に決めようとする必要はない。当たり前なのだが俺の場合はつい狙ってしまいがちになる。空手のポイント制が頭の奥底にあるからだ。


 しかし此処での試合は当たり前だが空手ではない。実際は足とか腕を攻撃するのもなかなか有効だ。一時的でも相手の移動や攻撃を防いだり隙を作ったり出来るから。


 改めて他人の試合を見ているとそんな気づき、結構多い……


 ◇◇◇


 じっくり試合を見ていると時間が経つのはあっという間。気がつくともうマサユキ戦。


 今回の試合、最初はゆっくり間合いを詰め、近接戦での先手の取り合いに移行する予定だ。身体の小さい俺が不利になる戦法だが、あえてこうしてマサユキの出方を待つ。


 名前が呼ばれた。一礼して試合場に出て、今度は相手に礼をしてそして構える。


「始め!」


 マサユキの方から近づいてきた。ただ正面からまっすぐではない。俺から見て左側にさっとダッシュした後、更に左に回り込もうとしながらすり足で俺に近づいてくる。


 何故左に。ちょっと考えて理解した。右利きの俺は左前の半身に構えている。だからとっさの攻撃を出す場合、正面から右へは簡単に拳や蹴りを放てる。

 しかし正面から左方向には向きを変えるか一歩踏み出さないと攻撃しにくい。だから左側に回り込みつつ狙う訳か。


 なるほど、ならばと俺は向きを変えてそして気づく。この方向は良くない。背後が角だ。前から押された場合まっすぐ引くと逃げられなくなる。


 なるほど、たったこれだけの動きで既に俺は不利な状況に追い込まれている訳だ。そこまで考えていなかった。そこまで試合場での位置を気にしていなかった。


 さて、不利なままいる訳にはいくまい。俺はすり足で前に出て間合いを詰める。

 マサユキが膝を曲げ姿勢を低くして拳を放つ。近距離で避けにくい。掌で止めてあわよくば捕まえよう。そう思って右手を出そうとして気づいた。パンチにしては右拳の動きが妙だと。


 咄嗟に手を引っ込め後方へと飛ぶ。一瞬遅れて俺がいた位置を下からの蹴りが襲った。右拳を一気に引いて反動で蹴りを放ったのだ。


 拳に気を取られて足の動きに気づかなかった。今のを避けられたのは右拳の動きに違和感を覚えたからだ。避けられなければ結構なダメージだった。


 俺は三歩程度後ろで構え直す。蹴りが外れたマサユキは追撃してこない。


 それでも先程より更に不利な位置での相対となってしまった。仕方ない。こういったかけひきに関してはマサユキの方が俺より遙かに上手だ。


 ただ今の手前で別の技を放とうと見せかけ、見えない位置で別の攻撃を仕掛けるというテクニック、今後に使えそうだ。この試合が終わったら少し考えるとしよう。

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