第87話 対ソウ戦

「始め!」


 試合開始。どの方向にも動けるよう左足を軽く出し膝を軽く曲げた姿勢でソウの動きを伺う。

 ソウも同じように構えた後、俺から見て左へと動いた。更に俺のエアバレットに相当する軽くて速い遠距離攻撃を俺めがけて連射する。


 俺はあえて筋愛きあいで防御せず右へ動いてかわす。おそらくこれは防御その他で俺の体勢を崩す為の呼び水だと思うから。


 試合場の中心を軸に互いに90度回転した形になったところでソウは向きを変え、正面から突っ込んできた。俺はエアシェルを即時出せるよう腕を回して構える。


 慌てて技を出す必要はない。遠隔攻撃を撃たれても焦って防御する必要もない。

 むしろ撃とうとしたならチャンスだ。この体勢なら動きを見てからでも俺の方が早く撃てる。俺から動いて逃げられない距離に詰めてエアシェルを放つのみ。

 つまりは昨日ヤスシに使用したのと同じ後の先戦法だ。


 しかしソウ、俺が仕掛けるつもりのラインぎりぎりで左方向へと動きを変えた。俺の作戦は把握済みという事だろう。


 なら追撃だ。俺は超加速でソウが今いる方向へ。クロソイド曲線を意識した軌道でソウが進む方向へ追い詰める事を狙う。

 技はぎりぎりまで放たない。多少の攻撃ならあえて受けてもかまわない。エアシェルが決まれば損得勘定的には遥かにプラスだから。


 人間の身体は前に移動しやすく出来ている。このままでは後退しながら俺に対処する事になると不利だ。その事をソウも察したのだろう。動きを途中で止め俺と同じような遠隔攻撃の構えを取る。


 甘い、それなら俺のほうが早い!

 距離1mで俺はエアシェルを放つ。だがソウに届く直前、奴も遠隔攻撃を放った。威力は弱いが速いモーションの遠隔攻撃だ。俺の攻撃の完全相殺を諦める代わりに速度を重視したのだろう。


 いい判断だ。それならば! 相殺しきれなかった俺のエアシェル攻撃に被せるように俺は正拳突きを放つ。当たったがソウは後方へ飛んで威力を軽減。更に超加速で追撃しようかと思ったがやめておく。ソウが後方へ飛びつつも姿勢を整えているのが見えたから。


 5mの距離で向かい合う形となる。今の攻防である程度のダメージは与えただろう。しかし勝負が決まる程ではない。

 やはり強い。俺は感じる。ハツヒコやヤスシより明らかに上だ。ステータスがという事ではない。あの2人より戦闘を読めている、そう感じるのだ。


 ならば。今度は俺から攻める。超加速で接近しつつエアバレットを放つ。ソウはすっと左に動いて避けた。更に遠隔攻撃の構えを取ろうとする。

 しかし左に避けるのは想定どおり。俺は超加速の二段階目で右へと余分に一歩踏み出す。このさきの軌道でクロソイド曲線を意識しつつ更に加速する。

 

 速い遠隔攻撃が飛んできた。俺はさらなる加速で躱す。そこから3歩でソウの背面側に回り込み、エアシェルを放った。つまりはフローラさんやエレインさんが得意とする高速で背面から攻撃する技だ。あの2人ほどの超加速と急転回を使えないから軌道はクロソイド曲線になるけれど。


 ソウ、前に跳躍して一撃目を躱す。だが躱す事と距離を取ることを重視した結果、こちらへの転回は間に合わない。

 チャンスだ。後追いしつつエアバレットを連射。ソウは更に前方へ逃げるが何発かは命中する。更に狭い試合場の端が迫る。左右ともに狭まった角部分が。


 逃げ場はない。しかし場外に出たらこちらのものだ。場内に戻れないよう移動しつつエアバレット連射で攻撃するまで。

 かといって場内に残るべく速度を落としたら俺のエアバレット連射の餌食だ。一発の威力は弱いが連打されればそれなりに消耗する。


 決まった。普通の相手ならば。しかし奴らにはまだ奥の手がある。特殊能力の一時強化と疑似回復が。だから俺は油断しない。エアバレット連射で徹底的に追い詰める。


 予想通りソウの気配が膨れ上がる。そして次の瞬間、奴は上方へと跳躍した。

 そう来たか! しかしその手は俺がハツヒコ戦で使った方法だ。だから当然、俺も欠点はわかっている。


 まずはエアバレット連射で牽制。通常の遠隔攻撃は空中では筋愛きあい操作による風圧移動でダメージを受けにくい。それはわかっている。


 攻撃を避けている間は筋愛きあい操作による移動は難しい。だからエアバレット連射を避けているうちは思い通りの位置取りはしにくいし遠隔攻撃も出来ない。


 連射しつつ場内の気流を確認。弱い上昇気流が起きているのは試合場の中央ではなく北側の境界線先、第一試合場の境との間部分。2つの試合場を繋げているから上昇気流の位置が昨日と変わっている。


 そして今いる場所は南西側の端に近い部分。だからエアバレット連射に対応している間は上昇気流を掴みに行くことが出来ない。


 ソウもそれを認識したのだろう。筋愛きあい操作を移動に向け、防御は身体で物理的にやる事にしたようだ。

 しかしもう遅い。上昇速度が落ちている。上への速度が残っているうちに上昇気流を掴まないとさらなる上へ飛ぶ事は出来ない。


 俺はソウへのエアバレット連射を止める。少しでも上昇力を与えるのを防ぐためだ。

 ソウは自分の置かれた状況に気づいたようだ。空中で姿勢をこちらに向け、遠隔攻撃の姿勢になる。

 空中からなら遠隔攻撃の攻撃範囲を目一杯活かす事が可能だ。下にいる敵は攻撃を避けにくい。だから目一杯強力な遠隔攻撃技で攻撃する。正しい方法だ。俺もハツヒコ相手に使っている。


 サダハルにはこの攻撃を破られた。上方へ向けた高筋圧こうきあつで。しかしサダハルの方法はまだ甘い。

 空中にいる敵に向けた攻撃技、俺も当然考えている。実は昨晩考えたのだけれど方法論的には完璧だ。ある程度家で練習もして来た。


 それでは異世界の対空中戦技を披露しよう。俺は右拳を固め、そしてソウめがけて思い切り跳躍した。


「昇龍拳!」


 ストリートファイターシリーズでお馴染みの必殺技だ。あれはまあ、ゲームだけれど。

 対空技といえばやはりこれだろう。跳躍時に足に筋愛きあいを込め、あとは少しの筋愛きあい操作で軌道を修正しながら拳を固める。


 ソウの遠隔攻撃が来た。しかし俺の筋愛きあいを込めた拳で相殺。そして俺の拳は更にその先にいるソウを襲……わない。3m程度横を通過。

 遠隔攻撃を放ったばかりのソウはすぐには俺を攻撃できない。その隙に俺はソウより5m上の高みへと到達。


 そこから俺はエアシェルを放つ。ほぼ同時にソウも遠隔攻撃を放った。中間地点でそれぞれの遠隔攻撃が相殺され爆発する。

 爆発の威力は俺達に更なる力を与える。俺に対しては上向きの力を、ソウに対しては下向きの力を。

 2発目、3発目。俺とソウの遠距離攻撃技の発動速度はほぼ同じ。俺があわせているのだが。放つごとにソウは地上に近づき、俺は高度を維持。


 ソウが着地の為に姿勢制御をかける。それが致命的な隙となった。

 ソウもそれはわかっていただろう。しかし上空に向けて遠距離攻撃を放つ姿勢で着地は出来ない。背骨その他が逝ってしまう。

 姿勢制御が終わるまでは待って、そして俺はエアシェルを放つ。


 決まった。着地直後にソウが倒れる。俺はエアシェルをすぐに撃てる姿勢を維持しながらゆっくり落下。


「1、2、3、4、5。勝負あり!」


 カウントが終わった事を確認しつつ、俺は試合場に降下する。

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