第19章 戦抜最終日開始

第85話 本日は平穏?

 翌日の第4回戦も会場と開始時間は第3回戦と同じだ。

 受付開始10分前の朝8時50分にいつもの5人で集合。一緒に受付に行って、組み合わせ票や案内を受け取る。


「男子の今日は上位対戦はなしか」


「そんな感じですね。昨日の戦績で各ブロックの強さが均等になるようにわけた感じです」


 今日は午前と午後でブロックの入れ替えがある。しかし昨日8勝した俺やサダハル、あと第4ブロックの2人は午前・午後とも別のブロックだ。

 そして昨日の戦績を見る限り、今日俺と戦う生徒トレーニーに怖そうな奴はいない。


「女子の方は2ブロックしかないから容赦ないよ」


 フローラさんは昨日ミトさんと分けたナタリアさんとの試合がある。エレインさんは午前中はミトさんとの試合が、午後はナタリアさんとの試合が待っている。


「でも勝ち抜けば結局全員と当たる。順序の違い」


 女子はこの時点で16人、第5回戦では12人しか残らない。だから第5回戦まで残っている生徒トレーニーは間違いなく全員と戦う事になる。

 男子は人数が多いので戦わない生徒トレーニーが2~3人出る可能性があるけれど。


 予鈴が鳴ったので皆と別れ午前中の会場である第二ブロックの試合場へ。今日は午前が4人の総当たり戦、午後も4人の総当たり戦だから合計12試合。試合数でみると昨日の3割以下だ。


 ただ昨日と同じ時間で進行すると休憩時間が減る。だから試合と試合の間の時間が第3回戦よりかなり開いている。


 この休憩時間の確保は、怪我人対策という側面がある。

 戦抜第3回戦から超一流の医療スタッフと設備が待機している。骨折でもよほどのものでなければ40分程度で試合復帰が可能だ。筋力は多少落ちるけれど次の試合に間に合う位で治療出来てしまう。

 

 この世界、医学的措置の即効性は21世紀日本よりずっと上だ。人間そのものが頑丈で自然治癒能力が高いなんてこともあるけれど。


 ただし怪我等を高速で治療するとすごく痛いらしい。怪我の痛覚に成長痛が混じり合って。

 5月に自主勉強トレ中に肉離れを起こし半日治療で治療したアキノブがそう言っていた。


「身体を拘束布で動けなくされた上で猿轡をかまされてから治療されるんだぜ。治療措置中は麻酔あるけれど高速修復薬浸透治療は麻酔があると効きが遅いらしいからさあ。

 麻酔が切れたら痛さでもう頭の中ぷっつんよ。確かに半日でどんな怪我でもなおるけれどよ。あんなに痛いなら普通に2週間くらいかけて治したほうがよっぽどましだぜ」


 半日治療でもこれだ。40分治療となると、きっと更に……

 だからまあ、お世話にならないことが一番ではある。もちろん意図的に怪我をするなんて事は普通はないのだけれど。


 そして何もなければこの休憩時間で休んだり食事を取ったりするだけだ。本日このブロックにはそれほど仲が良い奴はいない。だからぼっちでバナナや蒸し鶏、ブロッコリーをつまみながら試合を見たり筋トレしたりする事になる。


 ◇◇◇


 順調に3試合を全勝で消化。そして昼休み。昨日と同様、五班で集まって昼食をとりつつ情報交換だ。


「スグル君やサダハル君は楽そうだよね、今日は」


 フローラさんがそう言ってため息をつく。


「楽という事はないけれどな。模擬試合だけなら1組の中に入ってもそれなりの成績が取れそうな生徒トレーニーばかりだから」


「でもその程度でしょ。こっちは午前中の3試合、結構ギリギリよ。まだ本日の山場が残っているのに」


 それでもフローラさんは3勝している。ミトさんも3勝。エレインさんは2勝1敗だけれど、これは相手が悪い。


「私はミトに負けて1敗。あと午後の最後にナタリア戦」


 いずれにせよ今日は女子の方は大変そうだ。まあ男子の方も明日に厳しい戦いがある可能性はあるのだけれど。


「ミトさんの方はどうですか?」


 何も言わないので聞いてみる。


「ここまで残った生徒トレーニーなので当然それなりに強いです。ただエレインを除けばそう怖くなかったです」


 なるほど。つまり今日は割と余裕という事らしい。まあ女子ではミトさんの強さ、1組でも突出している。並ぶような相手はそういないという事か。

 でも、そうなると……


「昨日ミトさんと引き分けたナタリアさん、相当強かったんですね」


「本来は私より強いでしょう。ただこういった試合に慣れていないようでした。それで何とか引き分けに持ち込めた形です」


「お昼休憩が終わったら対戦よ。一応ミトちゃんに対策を聞いたし午前中の試合で動きを観察して作戦も立てたけれど、正直勝てる自信はないわあ」


「フローラやエレインの場合、この試合場では狭いですよね。速度と持久力を活かしきれませんから」


 フローラさんやエレインさんの速度を活かせる試合場なんてどう考えても無理だろう。特にエレインさんは本来、長距離の高速域で力を発揮するタイプ。だから本領を発揮するには10km以上の距離が必要だ。


 昼食を食べて更に雑談していると12時10分の予鈴が鳴った。


「それじゃまた夕方」


「頑張れよ」


「そっちはあまり頑張らなくても大丈夫そうだけれどね」


 校舎を出るまでは一緒で、そこからはそれぞれの試合場へ別れる。俺も第二ブロックの試合場へ最短ルートで向かう。


 何処かで見たような生徒トレーニーとすれ違った。うちの学校では無いし誰だっけ……すぐに思い出す。第二回戦で同じ試合場にいた、筋配けはい隠蔽を使う生徒トレーニーだ。


 やはり勝ち残っていたか。振り返って、そしてなんの気無しにステータス閲覧をかけてみる。


『 ニール・ムンツァー 筋力95 最大128 筋配けはい90 持久55 柔軟75 回復59 速度75 燃費45

 特殊能力:一時強化5+ 疑似回復5+ ステータス確認

 称号:勇者(完成体) 破壊者疑惑』

  

 こいつだ! 第3回戦、第4ブロックで全勝したのは。名前もそうだがステータスが圧倒的だ。堕神エストロゲンの勇者であるシュウヘ並。

 俺やサダハルより明らかに上だ。持久と回復はやや弱いけれど。


 そして称号が勇者(完成体)。ヤスシやハツヒコは勇者(実験体)だった。何と言うか、称号からして不穏な気がする。


 この戦抜はともかくとして、近い将来サダハルと対決する事になるのだろうか。それとも教団総司祭派が解体した今はそういった心配はしなくていいのか。


 あまり長くふりむいたまま立ち止まっているのも変だ。だから俺は再び試合場に向けて歩き出す。

 いずれにせよどんな風に戦うのか、明日にはしっかり見ておきたい。明日は男子全員が同一ブロック扱いで、同じ試合場での戦いになるから。

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