第83話 昼食の時間⑵

 一方フローラさんの感想は俺達と違うようだ。


「私の場合は特に怖くは感じなかったけれどな。割とあっさり倒せたし」


 ミトさん、更には普段割と表情が読みにくいエレインさんも苦笑といった表情を浮かべる。


「あれはどうこういうレベルじゃない。フローラの攻撃が容赦なさ過ぎるだけ」


「どういう試合だったんだ?」


 サダハルが尋ねた。俺も気になる。


「超高速移動で相手の背後に移動して正拳突き3連発、2発目と3発目は超加速で前進しながら。相手は場外に飛んで試合終了」


 何だその容赦なさ過ぎる攻撃は。


「あれは相手が弱かっただけだと思うよ。ここにいる皆なら一発目をたたき込む前に逃げられるもの」


「フローラの超高速移動を知っているから出来るだけ」


 フローラさんの超高速移動や超加速はこの5人中でも最高にして最強。初見での対応はまず不可能だ。

 それにしても背後から正拳突き、それも超加速で前進しながら3発か。


「申し訳無いがそれは相手の方に同情したくなる。あれを何度も見た筈の1組の連中でも、避けられるのはそういないしさ」


 全くもってサダハルと同意だ。なので思い切り頷かせて貰った。


「それよりスグル君の空中戦というのが気になります。空中移動はリサさんに教わりました。ですが空中戦となると、野外学習の時に相手が仕掛けてきたものしか知りません。筋士きし団の戦闘記録にもほとんど無かったと思います」

 

 ミトさん、筋士きし団の戦闘記録なんて物まで読んで研究しているようだ。この辺りの努力は何というか、俺の想像を超える部分がある。

 その辺がきっと学習面でも出ているのだろう。期末試練の学習側の試練で失点1カ所だけという成績とか。


「あの時の敵の技とほぼ同じだと思っていい。宙に浮いた状態で自在に移動しながら遠距離攻撃を撃ってくる。

 イストミア学園の1人は迎撃しようと跳躍して、スグルのエアシェルを食らった。僕の場合は下からエアバレットと高筋圧こうきあつで迎撃した結果、お互い相殺し合って時間切れになった。

 悪夢を思い出すような気分になった位だ。僕としては」


「追い詰められて苦し紛れにやっただけです。野外学習の時の戦いで相手のやり方を見ていたので、それを思い出しながら上昇気流を掴んで高度を稼いで。あとは空中移動と遠距離攻撃を使っただけです」


 シュウヘの技とはレベルが大分違う。そのことを一番わかっているのは俺自身だ。

 称号の航空力士はサダハルとの試合で幕下級から十両級に進化したけれど。


「その試合を見てみたかったです。せめて後でいいので実際の技を見せてくれませんか。勿論無理にとはいいません」


「それは大丈夫です。ただ上昇気流が出ていないと使えないので時間と状況によっては使えないかもしれません」


「僕との戦いの時は動きとエアシェルで上昇気流を作っていただろう。あと僕との対戦後、更に称号が少し変化した。僕には意味がわからないが、きっと空中戦でより上級の称号になったのだろう」


 バレていたか。流石サダハルだ。ちなみに航空力士(幕下級)から航空力士(十両級)へと進化している。


「実はそうです」


「僕も飛ばれるまで気づかなかった。飛んだ後にああそういう事だったのかとやっとわかった」


 これでサダハル相手にはもう同じ技は使えなくなった。戦抜ではもう直接対決はないけれど。


「いずれにせよ、イストミア聖学院の生徒トレーニーの上位層は、筋配けはい筋愛きあい操作、そして遠隔攻撃が使えるようです。そういう意味で間違いなく難敵だと思います。

 ただ戦抜でここまで残った生徒トレーニーは誰もそれなりに強い筈です。そういう意味では気を抜ける相手などというのはいないのでしょうけれど」


 まあそうなんだよなと俺も思う。


「午前中の4試合だけでも充分大変だったのに、今日この後にはあと5試合残っているんですよね」


「試合数的には今日が一番大変ですから」


「女子だと順当に行けば明日は8試合、明後日はあっても4~5試合程度だしね。男子はもう少し多いけれど」


 女子は第3回戦開始時点で20人まで絞られている。だから明日の4回戦で勝ち残った全員との組み合わせはほぼ終了するのだ。

 だから5回戦は残った未対戦者同士の戦いと、合宿参加ぎりぎりの同順位による順位決定戦がメインとなる。


 男子は第3回戦開始時点で40人。このうち8名が第三回戦で脱落し第4回戦開始時点で32人。ここでの脱落者はやはり8名。

 つまり第5回戦開始時点で24名いるわけだ。ここで残っているうち、まだ戦った事がない人間相手に試合。


 残った全員、全組み合わせが終わった後、男子の場合同率10位程度の生徒トレーニーによる総当たり戦。例年6人くらい同順位で固まっているので、これが結構熾烈な戦いとなる。

 ただし……


「圧倒的な順位で勝ち残ればいいだけだろう。そうすれば10位決定戦も関係ないから最終日は楽が出来る」


 サダハルの論理、間違ってはいない。しかし普通の人にとっては正しくもない。本人はきっと気付いていないけれど。


「それが出来れば楽なんだけれどね。狙ってそれが出来ないから決定戦なんてのがある訳でしょ」


 フローラさんの言うとおりだ。圧倒的な順位なんて狙えればそもそも苦労はしない。


「とりあえず一戦一戦油断せずに戦うしかないでしょう。私達の方も今は順調ですが、今日明日にはお互いに戦う事になります。他にもまた戦っていない強そうな相手はいますから」


「実のところミトちゃんとエレインが最大の難敵なんだよね。無茶苦茶強いし手の内知られているし」


「お互い様」


 確かにそうなんだよなと納得する。何せ女子の枠はおそらく5名。この中に3人全員入るというのはなかなか厳しい。

 まあ残り人数に対する割合は男子も同じではあるのだけれど。

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