第82話 昼食の時間⑴

 試合後、待機所ですぐにサダハルと合流。


「結局は空中戦になったな」


「ええ。まさかあのポージングが空中戦用だとは思いませんでした」


 サダハルの『わが生涯に一片の悔いなし!!』。あれは間違いなく上空にいる敵を想定したポージングだ。

 空中から戦ってみてよくわかった。筋愛きあいを真上方向へ放つのに最適な構成をしている。


「ああ、前の試合で使ったのは威力確認みたいなものだ。本来は野外学習の時のような敵の攻撃に対抗するために考えた。まさかスグル相手に使うとは思わなかったけれどさ」


 どうやらシュウヘ対策だったようだ。あれはサダハルにとって数少ない一方的な敗戦だったのだろう。そして次こそは勝利するために考えたのが上方へ筋愛きあいを放つのに最適化したあのポージングというわけだ。


 サダハルはただでさえ筋力を含めた圧倒的なステータスと強力な恩恵を持っている。実年齢で三歳上の同級生をほぼ圧倒できる位に。

 その上でより強くなるため、こうやって対策を考えてきたりする。厄介なことこの上ない。


 それだからこそライバルとして張り合い甲斐がある。なんて思ったりもするのだけれど。


「よし、午前中は単独3位だ!」


 午前中最後の第20試合、私立ジストロフィン学園のヒロマサに勝ったアキノブが戻ってきてガッツポーズ。


「ただアキノブ、まだサダハルともスグルともやっていないからな」

 

「チョージだってそうだろ。あと俺との直接対決もある」


「そこで勝負がつくわけだ」


 チョージとアキノブのそんな雑談が聞こえる。

 今のところこの第1ブロックの成績は、

  ○ 俺とサダハルが3勝1分で並んでいて、

  ○ 次がアキノブの3勝1敗

  ○ その次がチョージとハツヒコの2勝1分1敗

となっている。


 しかしまだ試合は半分も終わっていない。組み合わせ上の有利不利もあるので、順番はどう入れ替わるかわからない状態だ。


 カーン、カーンと鐘が鳴るのが聞こえた。試験監視員がこちらを向いて口を開く。


「それでは昼食休憩に入ります。午後の試合は12時40分から開始です。10分前の12時30分までにはここの待機所に戻ってきて下さい。以上です。では解散」

 

 これで昼食休憩だ。 

 なお休憩の後すぐに第21試合でサダハルはノリヒロと対戦、次の第22試合で俺がチョージと対戦。何と言うかすぐに次の試合がやってくるという感じだが仕方ない。


「それじゃ昼飯といくか。皆はどうする?」


「僕とスグルは元野外学習の班5人で一緒に食べる約束をしているからさ」


「いいよな、女子と一緒で。怖いのばっかだけれど」


「それじゃこっちは寂しく他の班の男も誘って食べるとするか」


「じゃあな」


 アキノブやチョージと別れ、サダノブと2人へミトさん達と待ち合わせている大会本部前へ向かう。


「それにしても授業以上に大変ですね、戦抜の試合は」


 サダハルやハツヒコだけではない。午前中に対戦した残り2人、ヒロマサとムネノリもかなり強かった。ミトさんやサダハル程ではないけれど。


 このレベルならうちの1組の中でも結構強い部類に入るだろう。そんな相手と4戦もしたのだ。

 しかもそのうち2戦がサダハルとハツヒコ。どう考えても初等部レベルを超えている。大変としか言いようがない。


「南部全体から生徒トレーニーを集めているから仕方ない。まさか遠距離攻撃だの筋愛きあい筋配けはい操作だのを駆使することになるとは思わなかったけれどさ」


 サダハルも俺と似たような感想を持ったようだ。そんな雑談しながらミトさん達との待ち合わせ場所へと向かう。


 大会事務所前はそこそこ混んでいた。此処に全試合の結果がわかる大掲示板があるからだろう。

 ただミトさん達を探すのは難しくない。知っている筋配けはいをたどればすぐだ。


「あ、来た来た。調子良さそうじゃない、2人とも」


 フローラさん達は既にこっちの試合結果を確認済みのようだ。


「戦績としてはそうだけれどさ。予想以上に厳しい」


「こっちも今のところ4戦全勝だけれどね、3人とも。でも昼からは厳しいかな。エレインとの試合もあるし。

 まあとりあえずは場所をキープしてご飯を食べようよ。冷房が効いたところで」


 会場は勝手知ったる帝立学園初等部。何処に何があるかは把握済みだ。


 休日でも開いている自主勉強トレ室の休憩所へ。うちの学内から戦抜に参加した連中の半数以上が同じことを考えていた ようだ。そこそこ生徒トレーニーが陣取って昼食なり休憩なりしている。


 それでも奥の方にある空いていたテーブルに陣取って、昼食を開始。


「それでそっちはどうだった、イストミア聖学園?」


「こちらのブロックは2人。僕とスグルがそれぞれ戦ったがどちらもかなり強かった。僕は遠距離攻撃を中心に戦わざるを得なかったし、スグルに至っては何処かで見たような空中戦を仕掛けるなんて位に。


 更に言うと2人とも、体力ぎりぎりから一時的に復活出来るスキルを持っている。倒したと思った次の瞬間、前以上の動きで攻撃を再開してきた。一時強化と疑似回復というスキルらしい。あれは注意した方がいい」


 サダハルと俺にステータス閲覧能力がある事についてはミトさん達に既に話している。だからスキルについて話しても問題はない。


「なるほど。一度倒したと思ったのに立ち上がってきたのはそのスキルだった訳ですか」


「そう言えばミトも既にイストミアの生徒トレーニーと戦って勝っているよね」


「ええ。遠隔攻撃や筋配けはい操作による高速移動を使う強敵でした。ですが実戦経験には欠けていたようです。隙が多くてエレインよりは戦いやすい相手でした」


 何というかミトさんだなと感じる。ただ実戦経験に欠けているというのは頷けた。


「実戦経験に欠けるというのは僕も感じました。サダハルの試合でですけれど。想定外に対して弱いという感じです。サダハルの遠距離攻撃の避け方に工夫が無かったり、接近して攻撃しようとする際に反撃を考慮にいれていなかったりしましたから」


「わかる。私の第二試合も同じ。フェイントに弱い」


「スグルの試合でもそれは感じたな。スグルが空中戦に出た時点で引き分け狙いに徹しても良かった筈だ」


 確かにその通りだと俺も感じる。今更ではあるけれど。あの時点で引き分け狙いに徹して筋愛きあいによる防護に専念されたら俺も打つ手は無かった筈だから。


 あとは上昇気流に気づかれて遠距離攻撃や高筋圧きあつで試合場内の空気を攪拌されたら……。

 気づかれなかったから何とかなったものの、我ながら反省点が多い。

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