第73話 新勢力の影

 第3回戦は明日だ。会場は今日と同じ帝立学校初等部校庭で、朝10時から。

 順調にいけば今日は9試合、明日に7試合、明後日に5試合やることになる。何気にハードなスケジュールだ。その辺の体力管理も選考基準の一つなのだろうか。


 でもその前に元五班の皆様がどうなっているかが気になる。第二回戦までは突破出来るだろうとは思うけれど。

 そんな訳で昼食、基礎トレ、昼夜食を終えた16時、待ち合わせ場所のミトさん宅へ。


 筋配けはいを確認。どうやら俺以外は全員到着済みのようだ。時間調整しすぎたなと思いつつ、ちょい小走りで向かう。


「こんにちは、スグルです。失礼します」


 門扉を開けてくれた顔なじみのメイドさんに挨拶し、中へ。


「結果はどうだった?」


 真っ先に聞いてみる。


「ここにいる5人は全員第3回戦進出よ。あと1組の他の皆も半分くらいは3回戦進出しているわ。今日の14時以降の試合の情報はまだ入っていないけれど」


 1組の皆さんはそれなりに選ばれたエリートではある。でも半分くらいとなると、誰が残ったかが気になる。

 察してくれたのかエレインさんがメモ紙2枚を渡してくれた。


「1回戦勝ち残りと2回戦勝ち残りのメモ。フローラ作」


 ありがたい。早速見てみる。うんうん、アキノブとかコウイチとかは2回戦突破している。大丈夫だろうとは思っていたのだけれどちょいほっとした。

 ただちょっと疑問がある。


「これ、どうやって知ったんですか?」


「本部会場がある中央公園の大掲示板に、報道用にそれぞれの選抜結果が速報として出るのよ。だからそこをざっと見て知っている名前を確認する訳」


 報道用の掲示板、という事は……


「中に潜り込んで見たんですか?」


「塀の高さ、3mしかないからね。掲示板の場所がわかればジャンプして確認なんてわけないよ。それくらいは大会本部も大目に見てくれるし」


 ジャンプしながら遠くの掲示板を見て記載内容を確認するのか。それはそれで高度過ぎて誰もが出来る方法ではない気がする。


「それにしてもスグル、第一回戦ではずいぶんと派手にやったよね。自分以外全滅させるって、何でまたそうなったの?」


 そこまで知っているのか、フローラさん。でも今言った方法で戦抜結果を見ているのなら当然かもしれない。

 ここは本音ベースの方で説明しておこう。


「あまりに試合が様子見で動かなくて。遠隔攻撃等で場を荒らしてみたのですがそれでも動かず、更に他の人を盾にして僕から逃げようとする奴ばかりだったので、公平に滅しました」


「苛烈だね。まあ気持ちはわかるけど」


「そうですね。私の方の第一回戦も誰も動かないままでしたので、エアシェルで全周囲を攻撃して全員一度場外へ落としました」


 これはミトさんだ。俺と似たような事をやった訳か。気持ちは良くわかる。


「誰もが漁夫の利を狙っているといらっとしますよね」


「ええ。ただ私の攻撃でそういう人達の中で損得が出るのは嫌でしたので、全員エアシェルで同じ力をかけて落としました。それで場外や試合場端で戦いが始まったのですが、私に対しては誰も攻撃を仕掛けてこなかったのでそのまま試合場中央で待っていたら試合が終わってしまいました」


「そりゃ明らかに強い相手とは戦わないよ。第2回戦まではバトルロイヤルだから全員倒さなくても5人の中に残ればいいし。

 実際私の方、第一回戦も第二回戦も1人ずつ要注意と感じる生徒がいたよ。第一回戦の方は女子で第二回戦は男子だったけれど」


「第二回戦の時はいた。筋配けはい隠蔽使ってた」


「僕の方も第二回戦の時にいたな、筋配けはい隠蔽を使っている生徒トレーニーが。女子だったからエレインさんが第一回戦で一緒だったのと同じ生徒トレーニーかもしれないな」 


「私も第二回戦の時にはいました。男子生徒トレーニーです」


 そういえばこっちにもいたなと思い出す。


「僕の方の第二回戦にもいました。男子ですけれど」


「なら最低でも4人はいる訳ですか。初等部生で私達以外に筋配けはい隠蔽を使える生徒トレーニーが」


 ミトさんの言うとおりだ。ただし…… 


筋配けはい隠蔽は1組の授業でもまだ習っていない技術だ。副読本にも無かった筈だろう」


「高等部以降の技です。それも高レベルな所でしか教えません」


 サダハルとミトさんの言うとおりだ。俺達はリサのおかげで使える様になっているけれど、それはごく例外。

 基本的には隠蔽を含めた筋愛きあい筋配けはい操作は筋士団きしだん員クラスの強者でないと使わない技だったりする。


「1人2人ならともかく僕達だけで4人出会ったとなると、それなりの数が参加しているんだろう」


「王立学校以上の教育機関? 個人道場?」


 サダハルやエレインさんの言うとおりだ。しかし従来の学校の評判等でそういう話を聞いた事はない。個人道場等もそこまでの場所は一般には知られていない筈だ。


 そうなると、この中で少しでも情報を持っていそうなのは……全員の視線が自然とフローラさんに集まる。


「フローラ、何処か今年からブートキャンプに参加した学校か道場で、それらしい所ってありますか?」


「今年からとなるとイストミア聖学園かなあ。元イストミア少年修道院で、筋肉神テストステロン教団が孤児院を兼ねて運営していた施設。

 教団幹部がごっそり逮捕されて運営が入れ替わって運営方針が変わった結果、出場する事になったみたい。男子女子あわせて30人くらいだったかな、今回出場したのは」


「少年修道院って名前なのに女子もいるんですね」


 ミトさんだけでなく俺もそう思った。

 フローラさんは頷いて続ける。


「元々の実態は孤児院だからね。外の学校に通わず、内部で教育をしていたって話だけれど。

 だから外部との交流がほとんど全く無くて、実力はわからないんだけれどね」


 筋肉神テストステロン教団関連か。正直教団にいいイメージはない。何せ暗殺されかかった身だから仕方ない。

 それでも教団、孤児院なんてちゃんとした福祉施設を運営はしていた訳か。少しだけ見直した。

 

 ただ、それはそれで疑問がある。

 

「孤児院? それがあんなに強い?」


 エレインさんも俺と同じ疑問を持ったようだ。


「新勢力がイストミア聖学園というのはあくまで推測だよ、私の。でも今年から参加したとなるとあそこくらいしか無いからね。それに内部で教団独自のエリート教育をやっていたという噂もあるし」


 教団独自のエリート教育か。そう聞くと途端に嫌な予感がしてしまう。ドーピングとか。

 でも今はその辺をここで話しても収穫はないだろう。


 流石にこの辺についてはリサに聞いてもわからないだろうなとは思う。でもダメ元だ。家に帰ったら聞いてみよう。

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