第72話 第二回戦

 翌日の午前11時、王立学校初等部校庭に設けられた第7会場の第5試合。

 今回も俺の初期位置は中央だ。作戦も同じ。まずは襲ってくる奴を叩くというだけ。


 ただし今回は第一回戦の時とは違う。すぐわかるのはかなり強い筋配けはいを放っている生徒トレーニー3人。


 そしてその三人より更に強そうな生徒トレーニーも1人いる。外見は中肉中背で一見普通っぽい。放っている筋配けはい量もこの中では弱い方だ。


 しかしこの放っている筋配けはいは本来の筋配けはいではない。筋配けはいの質でそうとわかる。実際はずっと大きい筋配けはいを持っているのに隠している。


 何人がその筋配けはい隠匿に気づいているかはわからない。同等以上に筋配けはい操作ができる者でないとわからないだろうから。

 しかし少なくとも俺は気づいた。だからそれなりに気になるし注意したほうがいいと感じる。

 

 いずれにせよ第一回戦と比べれば大分まともに戦えそうだ。もう期待しかない。


「カウントダウン開始。10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、試合開始」


 速攻で俺を攻めようとダッシュをかけた奴が3人、いずれも俺の背後方向から。


 事前に共謀した訳ではないだろう。中心の襲いやすい場所に俺がいた。筋配けはいの大きさでは無く動きから強そうだと感じた。周囲の筋配けはいの動きを確認して、あと2人同じことを考えてそうだと察した。そんなところだろう。


 強そうな奴を複数で叩く。上手く倒せれば自分が勝ち上がれる可能性が上がる。合理的で正しい作戦だ。第一回戦の時の連中のように様子見をしたまま動かないよりよっぽどまし。


 振り向きつつ右真横へ超加速。更にU字ターンして俺を襲撃してきた連中に向き直る。

 これは3人に同時に攻められるのを防ぐための間合い調整。流石に俺でも同時に対処すれば隙が生じるから。


 向かってくる最初の奴のパンチを上に逸らし、腕を掴み背後に投げる。投げっぱなしのまま放置して2番目の奴の蹴りを左へ腕で弾き、右足で蹴り上げて倒す。

 

 3番目、長身の生徒トレーニーがなかなか上手い間合いで横蹴りを放ってきた。今の俺の体勢では完全には躱せない。


 左足で無理矢理地を蹴り右へ。蹴りそのものは避けられず左腕で受ける。しかし蹴りの方向に動いているからダメージはない。


 ただ無理な姿勢で飛んだのできれいに着地できない。全身を丸め手をついて半回転、姿勢を立て直すと同時に地を蹴って空中へ。

 追撃してくる長身生徒トレーニーをエアバレットで迎撃。奴は両手で受けて軽く下がった。


 ここまでの攻防の動きは派手。しかし誰も大したダメージを食っていない。最初に投げられた奴ももう立ち上がっている。


 そうだ。これくらいで倒れてしまうようではつまらない。まだまだこれから。


 俺だってわかっている。こんな派手に戦うのは効率が悪いと。しかしどうも俺にはバトルジャンキー的な指向もあるようだ。明らかにこの状況、楽しいし楽しんでいる。


 他の場所でも状況は動いている。例えば最初に俺が向いていた方の端近くにいた生徒トレーニー、隣2名をほぼ瞬殺で倒した。俺を中心に戦いが始まって意識がそっちへ向いた瞬間に狩ったようだ。


 奴こそ俺が筋配けはいを隠していると感じていた生徒トレーニーだ。やはり強い。


 それ以外でも戦っている筋配けはいを感じる。しかし全てをじっくり確認する余裕はない。まだ俺は狙われている状況だ。


 先ほど俺に蹴りを当た長身の生徒トレーニーが正拳で攻撃してきた。それほど速い攻撃ではない。しかし腰を落として低い姿勢で打ってきたので腕を取って投げるのは難しい。


 俺は放たれた拳を力で左に張り飛ばす。奴は右拳を先へと引っ張られ腕から背中を向ける形になった。俺はそこに足を引っかけ背後から倒そうと狙う。しかし奴は前方へ飛んで逃げる。

 やはりこいつ、悪くない。それなりに戦い慣れている。 


 後は追わない。次の奴が死角である背後から攻撃を仕掛けようとしているから。見えなくても筋配けはいでわかるのだ。今はこちらを避けて対処するのが先。


 前方に飛びつつ方向転換。これで背後からの奴と向かい合う形になった。襲撃してこようとしたのは2番目に俺を襲ったやや身長低めの男子生徒トレーニー。俺が正面を向いたからか動きを止める。


 現在俺を狙っているのはこいつと長身生徒トレーニーの2人。

 最初に俺に仕掛けた奴は2人を相手にしている間に離脱し、別の奴と戦っている。そういう見切りの良さも実力のうちだろう。少なくともバトルロイヤルでは。


 今度は俺から仕掛けよう。狙うのは長身の方だ。こっちの方が明らかに強い。だから隙を見せる訳にいかない。


 俺は姿勢を低くして正面から超加速をかけ突っ込んだ。

 奴はさっと左に飛んで俺の攻撃を避けようとする。だがその程度の移動、俺の対応範囲内だ。


 3歩目で追いついた。奴は俺の攻撃を払おうと不用意に右腕を出した。チャンスだ。

 俺はその腕を掴んだまま身体をひねって背中側から奴に密着。腕を引きつつ腰を曲げて一気に投げる。名前は忘れたが元は柔道の投げ技だ。今ではミトさんの得意技だが当然俺も使える。


 長身の生徒トレーニーは床にたたきつけられて倒れた。次に攻撃を仕掛けようとした小柄な生徒トレーニーの足が止まる。奴と俺の間に倒れた生徒トレーニーという障害物が出来たから。


 甘い。動きを止めた状態はただの的。なぜなら俺には遠隔攻撃技がある。

 エアバレット3発、体勢を崩した所で強力なエアシェル1発。奴はあっさり床へ崩れ倒れた。これでもう試合中は立ち上がれないだろう。


 周囲の筋配けはいを確認。まだ半数以上の生徒トレーニーが残っている。中ににはうまく位置取りをする事で戦いを避けているなんて輩も結構いる。


 ならそういう輩は俺から攻撃させて貰おう。一番近い右前の奴へと超加速で近づき投げ飛ばす。ミトさん程に上手くは無いが、この程度の相手なら怖くない。


 次はその先試合場端付近の2名。エアバレットで体勢を崩した後、エアシェルで場外で叩き出す。そして更に……


 ◇◇◇


「……1、2、3、4……」


 7人目を倒した所でカウントが始まった。俺は試合場内の筋配けはいの数を探る。俺を含めて5人ちょうどだ。

 カウントは10まで止まらなかった。カンカンカンカンカンカーン。終了を告げる鐘の音が響く。

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