第17章 ブートキャンプ戦抜⑵
第71話 結果的には……
土嚢積みの壁が切れている角部分から中へ。他は全て土嚢で囲まれているから風通しが悪く暑い。気候的に日本ほど蒸し暑くないから我慢できるけれど。
試合場は20m四方の正方形。その外側に場外エリアが5m程儲けられていて、その先は土嚢の壁。地面は第二運動場のラバー舗装そのままで、赤いテープで試合場の内側外側を区切っっている。
列は試合場の中心部分まで行って、そこで停止した。ここまで引率してきた大人が俺達の列の中央へと移動し、口を開く。
「まずは自己紹介をさせていただきます。この試合の審判長を務めるヒデキ・ラリー・スコットです。宜しくお願いします。
それでは試合前、最後の確認です。
第一戦抜試合はバトルロイヤル方式です。30人が同一試合場で戦い、5人が勝ち残ります。
審判は試合場内に立っている者が5人以下となった際、カウントを開始します。立っている者が6人以上になった場合はカウントを中止。中止とならずカウント10となった時点で試合終了です。このカウント10の段階で試合場内で立っている者が勝ち残りとなります。
また勝ち残りにはカウント開始からカウント10まで継続して立っているという条件はありません。カウント10の時点で立っていれば勝ち残りとなります。ただしこの時点で立っている者が6人以上になった場合は、カウント中止として試合は続行となります。
また立っているという定義は事前にお配りした資料の通りです。立っているという定義は足首より足先方向以外の場所が床に
その他の事項についても事前に送付した資料の通りです。宜しいでしょうか」
俺達は頷く。試験官も頷いて、説明を再開する。
「以降、開始の合図まで他
それでは各自、自分が戦いやすいと判断した場所へ移動を開始して下さい。3分後に試合を開始します」
全員が動き始める。どうやら端を開始位置とする者が多いようだ。
ここまで引率してきて諸注意をした審判は入場してきた壁の切れ目直近の櫓へと飛び上がった。そこから試合を監視して審判するのだろう。
なお他の四隅の3カ所にも既に審判がついている。
さて、俺以外の
動かなかった俺がいるのは試合場の中心。ここは前後左右どこからでも敵が攻撃してくる可能性がある。すくなくともそう感じる位には全方向に
だからここがいい。そう俺は判断した。正々堂々、何も考えずにひたすら攻撃してきた者を倒す。それにふさわしい場所だ。
正直あまり強そうなのはいない。だから俺が狙ったか狙わないかで勝ち残りが決まるなんてのは何か申し訳ない。そんな説明しにくい感覚的な理由もある。
目を閉じて周囲の
やはりあまり強そうな
「第15会場、試合開始まであと30秒です。10秒からカウントダウンを開始します」
「第15会場試合開始までのカウントダウン開始。10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、試合開始」
試合開始だ。しかし誰も動かない。下手に動いて隙を作る事を恐れているようだ。
俺から動いて波乱を作るべきだろうか。しかしそうなると俺に襲われた
だから俺も動かない。
「1分経過」
審判が時間経過を告げる。それでもだれも動く様子がない。膠着状態だ。
もういいだろう。俺は少し波乱を作って試合を進める事にする。とりあえずの目標は俺の右前方向にいる6人だ。
「誰も動かないようだから仕掛けさせて貰う。エア・バレット!」
わざとらしく技名を宣言し、6人全員に3撃ずつ高速遠隔攻撃を放つ。
このエアバレット、威力はあまりない。しかも今回はあえて弱めに出した。だから当たっても打ち身にすらならない程度。
それでもそれなりの衝撃は感じる。それに近づかなくとも攻撃をかけることが可能とわかればそれなりに脅威に感じるだろう。
さあ、俺を狙ってこい!
そう思うのだが……何というか、やはり動かない。探り合いに徹していて、自分から仕掛ける気はないようだ。
どうもこの試合場の
ならば片付けてしまおう。他の会場から出てくる有望な
バトルロイヤルは延長戦その他の規定はない。10秒後に立っていなければ即敗退だ。
そして俺以外全員敗退なら、ある意味この会場内では公平だろう。無論見所がありそうならば残してもいいけれど。
それでは殲滅作戦開始だ。右前方向は先程攻撃したから、次は左前方向の5人だ。
俺はわざとらしい動きで向きを変え、ゆっくりとかまえて、そして先程よりやや強い威力でエアバレットを放つ。
今回はそこそこ痛い筈だ。さてどう出る。そして他の方向は?
駄目だ、動く様子はない。ここはもう本当に殲滅するしか無さそうだ。
最初に立っていた側から見て左後ろ方向へと向きなおる。あえて隙たっぷりに歩いて、まずは一番近い1人の方へ狙いがわかるように向かう。
ここでやっと、俺に狙われた1人が動いた。俺から逃げる方向へ。おい何だそれ、向かって来いよ! そう思うのだけれど。
なら仕方ない。エアバレットではなくエアシェルを放つ。後ろ方向から重く強い一撃を受けた
逃げても無駄だ、だからかかってこい! 全員に対してそういうメッセージを送ったつもりだ。
さて通じただろうか。通じていない。むしろ俺から離れる方向へ皆、少しずつ移動している。
ならばだ。俺は明らかに逃げている2人にエアシェルを放つ。
ここでやっと1人俺に向かってくる奴が出た。前からではない。後ろからだ。真後ろからなら
それでも向かってくるだけ見所がある。なので襲ってきた奴に対しては超高加速で躱すだけ。そして他の奴らには無差別にエアバレットを撃ちまくる。先程のエアシェルに近い威力で。
やっと乱戦がはじまった。しかし残念ながら俺対それ以外という形ではない。無論俺を狙ってくる者もいる。しかし俺の攻撃に乗じて隙が出来た奴を倒してという、漁夫の利的な戦法の方が多い。
そういう戦法は気にくわない。もちろん戦場で生死がかかっている場合なら仕方ないだろう。しかしこれはあくまで戦抜試合。
だからそういった漁夫の利戦法を取る奴はまっさきに気絶撃の対象とさせて貰う……
◇◇◇
「……7、8、9、10!」
カンカンカンカンカンカーン。鐘の音が響く。
試合場に立っている
どいつもこいつも五十歩百歩。だから全員気絶撃でおねんねして貰った訳だ。
俺は溜め息をついて思った。次の試合はもう少しましな相手がいるといいなと。
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