第74話 第三回戦前

 イストミア聖学園についてはリサに聞いてもわからなかった。

でもまあ問題はない。俺が勝ち抜けばいいだけの話だ。そういった事を知っていても知らなくても。


 さて第三回戦だ。ここからは南部ブロックは全員同じ会場で戦抜大会を戦うことになる。

 既に60人まで人数は絞られた。ここから上位15人だから上位4分の1に入ればブートキャンプ参加が決定だ。


 勿論ぎりぎりで勝ち抜けを狙うつもりはない。全勝で通過するつもりだ。しかし……


 今日からは全員同じ日程だ。だから受付開始10分前の朝8時50分に元五班の5人で集合。一緒に受付に行って、組み合わせ票や案内を受け取る。

 

 受付から近い待機所の椅子に座って渡された案内等を確認。これは……

 サダハルがなんとも言えない顔をして口を開く。


「今年は男子4ブロック、女子2ブロックか。

 それにしても今日戦う相手の3割ちょいは同じ1組だな。第1ブロックはスグルの他にチョージ、アキノブ」


 サダハルが言う通り、俺の戦うブロックはサダハルやアキノブ、チョージを含む10人だ。


「第5ブロックも私とエレインが一緒よ。あとレベッカも。女子だけの組み合わせなのはいいけれど厳しいかも」


「私もニッキーやレイチェル、ニコールと同ブロックです」


 サダハルやフローラさん、そしてミトさんが言う通り、1組の連中と同士討ちしまくる事となった。でもまあ仕方ない。理由は明白だ。


「60人しか残っていないのに1組だけで19人も残っているんだから。組み合わせ上仕方ないよね」


 そう、フローラさんの言う通り。


 さて、組み合わせ票には自分のブロック以外も載っている。ついでにいうと各出場生徒トレーニー欄には名前と性別、年齢の他に出身校も記載。


 圧倒的に多いのは勿論帝立トリプトファン校。なにせ1組だけで19人勝ち抜いているから。しかし1組を除くと他は7名。2組4名と、筋肉専門職コースの7組から3名。

 そして出場生徒トレーニーの学校名を見ると明らかな第二勢力がいる。


「フローラの言う通りだったな。イストミア聖学園、14人も残っている」


「確かにそう」


「私もここまでとは思わなかったわ。単に今年から参加という事と、この南部ブロックはそう強い学校がない事から予想しただけだし」


 他の学校を数えてみる。帝立スレオニン校が7人、帝立ヒスチジン校が5人、あとの学校は1人か2人だ。だからイストミア聖学園、かなり目立っている。


「元が孤児院だったとは思えない選手層」


 エレインさんの言う通りだろう。

 帝立トリプトファン校が多いのは納得できる。何せ最優秀校として全国から優秀な生徒トレーニーを集めているのだから。その中でも最優秀な生徒トレーニーを集めたのが1組。だから人数が多いのはある意味当然。


 イストミア聖学園の14人とはそれに次ぐ実績となる。しかし元が孤児院ならそうやって生徒トレーニーを集めているという事はない。

 となると考えられる要因は独自教育だ。どんな教育をしているのだろう。宗教的熱意の元に他では許されないようなスパルタとか、あるいはドーピングとか。


 スパルタ式と言って俺が思い出してしまうのはリサ式特訓。しかしきっとそれとは別の、もっと苦しく残酷なものだろう。なんて想像するのはしょうもない小説の読み過ぎだろうか。


「確かに気になるけれどね。教団が運営に関与していたというのも気になるし。

 でもまず今日は戦って勝ち抜くしかないかな。あとは新聞なり何なり、調べて明日には発表してくれるでしょ。これだけ明らかな実績が出ているのなら」


 フローラさんの言う通りだろう。これ以上考えるには材料が不足している。正しい推理とか思考ではなく単なる妄想になってしまうから。


「そうですね」


 話していると教室で顔見知りの皆さんがやってくる。何せ1組の半数近くが来る筈なのだから仕方ない。


「よお、今日は宜しく。今日も宜しくと言うべきか」


「何というか皆、残りすぎだよな」


 一気に賑やかになる。顔見知りが多すぎるせいか、ほとんど学校の休憩時間のノリに近い状態だ。

 ただやっぱりうちの1組は優秀なのだろう。1クラスでここまでの人数が残るなんてのは他では考えられないから。


「よ、調子はどうだい?」


 マサユキが声をかけてきた。


「いつもと変わらずってところだな。そっちは?」


「サダハルやお前と違うブロックなのはいいけれど、やっぱり1組同士のつぶし合いだな。ただ戦い方がわかる奴が多いのは、考えようによっては悪くない。作戦を立てられる分だけ全くわからない相手よりマシだろう」


 マサユキは筋力はそこまで大きくない。1組男子としては、だけれども。しかし戦闘系の成績は俺やサダハルに次ぐ。


 何というか、戦い方が巧いのだ。戦闘相手にするととにかく戦いにくい。こちらの攻撃が微妙に通らず、逆にマサユキからの攻撃は通りやすいという状態にされてしまう。


 速度も力もそれほどではない。しかしちょっとでも気をぬくと何故か不利な体勢になってしまうのだ。ミトさんとはまた違った形で油断出来ない相手である。


マサユキおまえにしてみれば普段よく知っている相手の方が戦いやすいって事か」


「まあね。ただ戦った事がない相手でも、帝立校の連中はまだましかな。大体においてセオリー通りの戦い方を基本として教え込まれているから。スグルおまえやミトさんのようなのは例外として。

 ただ今回はそうでない相手が結構いるからさ。そこが僕としては不確定要素として気になる訳だ」


 つまりイストミア聖学園の生徒トレーニーが気になるという事だろう。しかし普段一緒の1組の連中相手の方が戦いやすいなんてのは、何というか容赦が無い。


「マサユキらしいよな、その考え方」


「まあ戦いやすい相手と勝てる相手はまた違うんだけれどさ。例えばサダハル、動きが読みやすいし戦いの形に持って行くのは楽だけれど、だからと言って勝てる訳じゃない」


 そんな雑談をしている時だった。

 カーン、カーン。鐘の音が鳴り響く。


「試合開始10分前になります。出場生徒トレーニーの皆さんは案内に従って各ブロックの待機所まで移動して下さい」


「それじゃな」


「ああ」


 俺は立ち上がり、所々に出ている案内に従って歩いて行く。

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