第66話 更なる勉強と期末試練の結果

 街壁外での高速走行勉強トレは割と筋肉を追い込む。だから3日おきで3回ほどしか出来ない。


 そして期末試練には他にも対策した方がいい科目が幾つか存在する。

 代表的なものは戦闘科目だ。平均台上戦闘、通常戦闘、班別対抗バトルロイヤルの3科目。それぞれの評点も結構高い。


 もちろんリサによる特訓、いや試練対策勉強にはこの対策も入っていた。


「期末試練の戦闘科目3つのうち、対策を取りやすいのは平均台上戦闘です。

 この競技は本来、体重が重い程有利です。ほとんどの場合、押し相撲のように押し合いで勝負が決まってしまいますから」


 つまりこの5人ではサダハル以外は圧倒的に不利という事だ。

 リサの説明は更に続く。


「ですが押し合いとならずに攻撃をかけられる技が幾つか存在します。その一つが筋愛きあいと空気を利用した遠隔攻撃技です」


 遠隔攻撃技か。シュウヘやサトウリアス男爵が使っていた技だ。しかしあれは……


「遠隔攻撃技については聞いた事があります。ですが高い筋愛きあいが必要で発動が難しいとも聞きました」


 実際には元五班なら全員、シュウヘとの戦いで見ている。俺とサダハルは攻撃を受けた経験すらある。

 

「ええ。ですがここにいる皆さんでしたら最低限の筋愛きあいは出せるでしょう。それに平均台戦闘ではそこまでの威力は必要ありません。相手のバランスを崩すのに必要な威力があれば充分です。足下を狙えば避けるのは難しいでしょう」


 確かに使えれば、少なくとも平均台戦闘では圧倒的に有利になるだろう。ただ問題は使えるかどうかだ。


「これから試練までの間に覚えられますか」


「平均台戦闘で使える程度までなら、2時間程度でなんとかなるでしょう。

 今日の解散まであと1時間。これで全員が技を出せるようになるまで勉強トレします。大丈夫です。技を出すことはそこまで難しくはないですから」


 嫌な予感がビシバシ。リサの特訓、かなりスパルタなのだ。しかし皆さん気づいていない様子。昨日はあの高速走行勉強トレをやったばかりだというのにだ。


「まずは平均台の上ではなく、普通の状態で技を出す練習からはじめましょう。両足を肩幅くらいに広げて、正面はあの塀の方を向いて下さい……」


 特訓が始まってしまった。


 ◇◇◇


 筋愛きあいで空気を包み込んで圧縮する訓練。

 その圧縮した空気を掌底でコントロールしながら押し出す訓練。

 更にはこんな訓練もおまけでついた。


「相手が圧縮空気を利用して攻撃をしてきた場合、一般的な対処方法は主に3通り、圧縮空気を利用した攻撃で相手の攻撃を相殺するか、避けるか、防御を固めて受けるかです。

 ただ平均台の上で避ける事は難しいでしょう。前後方向に移動するか跳躍して空中に逃れるかしか出来ませんから。


 ですので跳躍で空中に逃れた際に、ある程度自由に動けるようにします。筋愛きあいで空気を圧縮する方法の応用で、空中を移動する方法も勉強トレしておきましょう」


 そこまでやったらシュウヘのような航空力士じゃないか。なんて思ったが流石にそこまではリサもやらなかった。

 せいぜいジャンプした後落下速度を上げ下げしたり、前後左右に動いたり、姿勢を整えたりする程度まで。それでも初等部生徒トレーニーには論外な技だけれど。


 ただリサの教え方、俺1人の時よりは丁寧かつ親切だ。俺1人の場合はやり方を説明する部分があまりなく即実戦訓練という場合が多い。しかし今回の場合は過程の説明も割と親切。


 なので結果的には5人全員、

  ○ 遠隔攻撃の三連射までが可能で

  ○ ジャンプ後の空中でもそこそこ姿勢や位置移動が可能

なんて状態に仕上がってしまった。


 本来はこんな技、初等部どころか中等部、高等部でも使う人が少ない、筋士団きしだん員レベルの難易度の技であるにも関わらず。


 期末試練前の10日間、3回あった休養日の午前中に更なる高速走行勉強トレとか空中起動戦闘の練習なんてものまでやって追い込みをかけて……


 ◇◇◇


 期末試練の結果、サダハルはミトさんにトップの座を奪われた。

 そして残念ながら俺はサダハルやミトさんを抜かす事が出来ずに第3位。これは学習側の成績の差が結構大きい。


 俺もそれなりに努力したつもりだった。しかしペーパーテストで全教科あわせて5問しかミスをしなかったサダハルとか、1問だけケアレスミスで落としてしまったというミトさんには勝てない。


 勿論1組と言えど他の皆さんはそこまで化物では無い。だから1科目1~2問落としただけの俺でも勝てる。というかミトさんとサダハルが圧倒的に飛び抜けているだけだ。学習科目では。

 

 そして期末試練の総合順位、俺のすぐ後ろはフローラさんとエレインさんだった。ペーパーテストでもそれなりに頑張ったのだがそれだけではない。実技の成績がとんでもなかったのだ。


 フローラさんとエレインさん、50km走とシャトルランは俺やサダハルより上。そしてそれ以外もほぼトップクラス。平均台はかろうじて俺とミトさん、サダハルには及ばず4位と5位。そして班別バトルロイヤルは優勝。


 班別バトルロイヤルでは、俺、サダハル、ミトさんはそれぞれ別の班だった。一応はこれまでの成績優秀者上位3名だから仕方ない。

 しかしフローラさんとエレインさんの2人は同じ班だった。その結果が悪夢だった。


 フローラさんとエレインさん、同じ班であるのをいい事に2人で組んで超高速戦闘で荒らしまくったのだ。高速で走り回る、空中機動、更には遠隔攻撃による牽制といった感じで。


 まさにやりたい放題だった。跳躍と空中機動、そして高速走行を使用して200km/hを超える速度で動き回るのだ。普通の動きでは対応出来ない。俺ですら狙われたら本気で対応しないと危ない状態だ。


 流石にヤバイと感じた俺は2人の班の残り3人を狙おうとした。しかしその3人を落とすより先に俺の班のうち3人が落とされてしまい試合終了。


 俺と同じく残り3人狙いをしたサダハルの班も、防衛に徹して何とかしようとしたミトさんの班もほぼ同時に陥落。


 他の班員を倒した数も評点になるのでそれぞれ2位、3位、4位にはなれた。けれど勝ち残ったフローラさん達の班とは評点がかなり変わる。


 結果、フローラさんとエレインさんの成績が爆上がりしたという訳だ。


 俺の学年第3位の地位が危なくなってきた。成績が上がった事だし2学期の試練で2人が組むという事は無いだろう。しかし万が一また2人に組まれたら、もしくは2人のどちらかがミトさんかサダハルと組んだら……


 そうなると3位の座は薄氷状態だ。ミトさんやサダハルを倒して1位2位を狙うなんて余裕は無くなる。

 こうなったらリサ式猛特訓をして一気に引き離すしかないだろうか。限界勉強トレと超回復を繰り返すあの極悪トレ。


 ただあれは流石に厳しすぎる。だから出来れば避けたいところではあるのだけれど……

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