第16章 ブートキャンプ戦抜(1)

第67話 夏休み最大のイベント

 世間ではまだまだ教団や第一筋士団きしだん関係のニュースが騒がれている。

 国や筋士きし団、そして教団も組織内調査だの再発防止だの人事だので大変な事になっているようだ。


 ただしその辺、一介の児童である俺には関係ない。

 なので面倒な事は責任ある大人にお任せだ。


 ただ政治が面倒だからと田舎に逃げてしまった駄目な大人もいるようだ。

 その分ミトさんの父の仕事が増えているらしかったりもするらしい。

 息子としてはミトさんやミトさんの家族に大変申し訳ない。

 俺が謝るのは筋違いだからしないけれど。


 さて、期末試練は無事終わった。

 次に生徒トレーニーである俺が気になる事と言えば夏休みだ。

 正確に言うと夏休みを利用して行われるとある行事。

 これが現在の1組における話題の中心となっている。


「国は大変らしいけれどさ。ブートキャンプは実施するらしいぜ」


 休み時間、コウイチがそう言って机上に広げたのは菊8切くらいのパンフレット。


「そりゃそうですよ。あれはビルダー帝国ではない、フィジーク公国、フィットネス連合等を含めたアナボリック全体の行事ですから」


「楽しみだな。昨年は参加資格が無かったから」


 パンフレットを取り囲んでいるのはコウイチの他に俺、サダハル、アキノブ、マサユキという面々。

 俺達における現時点で最大の話題。それは夏休みに開催される『アナボリック大陸合同・生徒トレーニー・ブートキャンプ』である。


 これは前半部が各地区における出場者を抜する予会で、後半が勝ち抜いた生徒トレーニーによる合同鍛錬合宿。


 後半に行われる合宿はビルダー帝国ではなく、アナボリック大陸中部西海岸にあるフィジーク公国で行われる。そして勝ち抜いた生徒トレーニーについては交通費や宿泊費は一切かからない。大会運営持ちだ。


「夏のフィジーク海岸は可愛い女の子が多いみたいだしな。何としても勝ち抜いて参加権を獲得してやるぜ」


「ああ、無料で複雑な申請なしでフィジーク公国へ行ける訳だ。楽しみだな」


 サダハルがフィジーク公国に行きたがっている理由はコウイチとは異なる。

 サダハルはこの世界について、ビルダー帝国では得られない知識を欲している。此処の図書館でも様々な資料を確認したが、満足がいくものではなかったようだ。


『やはり筋肉神テストステロン堕神エストロゲン以外についての神の情報はほとんど存在していない。しかも教団によってかなりの資料が闇に葬られている事も明らかになったしさ。

 ただ、それでもかつては他の神が存在していたような感触はある。国外へ行けば資料が残っているかもしれない。


 この世界の神とその立場、役割について本当の事を知っておきたい。勇者としてどう正義を執行すべきか、本当のところを知らないと』


 勇者とか使命とか、色々面倒だなと思う。ただサダハルのこういう真面目さは嫌いではない。いつもは割と脳筋的に行動して問題を起こしたりするのだけれど。


「ええ、僕も楽しみです」


 俺は使命とか関係ない。

 俺が楽しみなのはミトさんも行くつもりのようだからだ。だから一緒に行って、あわよくばもう少し距離を縮めたいというのがある。

 なおあわよくばヤってしまおうとまでは考えていない。その辺の情勢は焦らず育めばいいのだ。


 ただフィジークに行ったついでに性欲的な方の問題解決なんてのも考えてはいる。リサの管理下では色々エロエロな事が出来ない。事件・事案がなく平穏だと俺の性欲を発散する機会が無いのだ。


 この合宿は公的組織の下、安全に行われる事が保証されている。しかも国外で実施されるのだ。まさかリサもついてくる事はないだろう。


 そして夏のフィジークは開放的だと聞いている。ならば相手を探すのもそこまで難しくはないだろう。

 つまりはコウイチと似たような目的ではある。なんてまとめると頭悪そうで嫌なのだけれど。


「完全に行く気だな、スグルは。でもそう簡単じゃないぞ。1組でも例年6人くらいしか勝ち残れないようだしさ」


「トリプトファンのあるブロックはビルダー帝国南部でいいんだよな。戦抜生徒トレーニー枠は初等部15人」


「要は全部勝てばいいだけだろう」


 サダハルの脳筋的発想にコウイチは苦笑する。


「そりゃそうだけれどさ。これが結構難しい。東岸中南部ブロックだけで2,000人は基礎能力テストをパスして参加するんだぜ。しかも戦抜2回戦まではバトルロイヤルだ。一番強い奴がそのまま勝ち残れるとは限らない」


 そう、参加人数が多すぎるので第2回戦まではバトルロイヤル形式なのだ。昨年は一試合30人参加で5人勝ち抜きと聞いた。

 なおバトルロイヤルの勝利基準はシンプルだ。


『試合場に立っている者が5人以下という状態が10秒継続した時点で立っている者を勝者と決定する』


 倒れてもカウント終了直前に立ち上がれば問題ない。場外にはじき出されてもカウント終了直前までに試合場に戻れば問題ない。

 ただし試合場内で立っている者が6人以上となった場合はカウントは終了。また5人以内になった時に10秒数え直すというシステムだ。


「それでも同じ学校の参加者は2回戦までは戦わないようになっているらしいからさ。そこだけは気分が楽だな」


 つまりこいつらやミトさん達とバトルロイヤルで戦う可能性は無い。


 第3回戦は幾つかのブロックにわかれ、同ブロックの他の生徒トレーニーと1対1の総当たり戦となる。ここからは同じ学校出身者も戦う可能性がある。ただし第3回戦以降は男女別だ。だからミトさん達と戦う可能性はない。


 第3回戦のブロック内総当たり戦で各ブロック下位4分の1が脱落。第4回戦でまたブロックを組み替えて総当たり戦をして、やはり下位4分の1が脱落。


 そして第5回戦は同性でまだ戦っていない相手を中心に戦う。終了後、第3回戦以降の試合の成績によって上位15人にブートキャンプ出場権が与えられるのだ。


 なお4分の1計算をした場合の人数繰り上げ繰り下げとか、勝率が同じ場合の決定方法とかも決まっている。ただしこの辺は複雑なので省略。


● 菊8切サイズ 

  318mm×234mm。何故かアナボリック世界では、A版やB版ではなく菊判サイズで紙が流通している。何故菊判なのか。きっと意味はない……多分……

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