第68話 スパルタな理由?
補習授業の後。ミトさん宅へ行っての
「そう言えば皆、もし第一次戦抜が昨年と同じなら、バトルロイヤルでどう戦うつもり? 私は基本最初は様子見で、密集場所になりそうならすぐ脱出、間合いをとる作戦を考えているけれど」
休憩中、フローラさんがそんな話を振ってきた。
「僕も基本は待ちだ。近づいてくる敵を倒す。それだけだ」
「私は小柄だからターゲットにされやすい。だから開始直後、近い敵の足元にエアバレットを飛ばして崩れた相手に速攻」
「私はサダハルと同じく基本は様子見で待ちです。ただしこちらに向かってきそうなら、敵のうち1人にエアバレットを集中させつつ急襲をかけます」
エアバレットとは空気の塊を圧縮して連射する技だ。卒業試練対策で覚えた遠隔攻撃技の上級技で、モーションが速く連射が出来る。その代わり威力そのものは軽いジャブ程度。
それでも相手の注意をそらしたり気を抜いている相手の姿勢を崩すきっかけにするには充分で、かなり有効な技となる。
勿論教えたのはリサだ。そして俺は戦抜について、リサからこう厳命されている。
『バトルロイヤル形式は確かに強い順番に勝ち抜けるとは限りません。ですが作戦を使ってやっと勝ち抜くなど、お坊ちゃまにはふさわしくありませんし私が許しません。
お坊ちゃまは正々堂々、何も考えずにひたすら戦って下さい。戦いの間に生じた隙や戦った後の疲労に乗じて攻撃してくる敵がいても、堂々戦って撃破すればいいだけです。
試合場にはたった30人しかいません。それに鍛えられたといってもたかが初等部生です。私はお坊ちゃまを全員同時に相手しても勝ち抜ける位には鍛えたつもりです。そのつもりで戦って下さい』
そう言った当人は俺の目の前にいる。だから俺はこう答えざるをえない。
「昨年と同じなら、最悪でも25人倒せば通過です。それくらいの間なら体力だって持つでしょう。だからあえて何も考えず、仕掛けてくる相手か近い相手と戦うだけです」
「うーん、微妙にスグル君らしくないよね」
フローラさんにそんな事を言われてしまった。確かにその通りかもしれない。でもここはちょっと確認しておきたい。
「参考までに僕らしい作戦とはどんな感じでしょうか?」
「うーん……例えば試合開始前から
「同意。効率重視」
確かにそうだろう。リサに言われなければ確かにそういった戦い方をしそうだ。自分でもそう思う。
そこでリサが口を開いた。
「皆さん気にしているように、バトルロイヤルでは必ずしも強い順に勝ち抜けるとは限りません。それに強い、あるいは弱いと判断された場合、周囲から集中攻撃を受ける可能性があります。
そういった場合にも対処出来るよう、この休憩が終わった後、集団相手に戦う場合に便利な応用動作について少し
リサが教える内容は高難易度の技が多い。初等部中等部通り抜けて
しかし元5班の皆さん、なかなか優秀だ。サダハルやミトさんだけでなく、フローラさんやエレインさんも。
なおリサ、皆相手に教える時はそれほどスパルタではない。説明も丁寧だ。
俺としてはこの辺微妙に理不尽に感じる。でもまあ、俺の場合は大体において必要に迫られて教えられる形だ。だから時間的余裕が無いなんてのはあるのだろうけれど。
◇◇◇
1時間半ほど
「あの4人はなかなか優秀です。お坊ちゃまも
確かにリサの言う通りだ。それにそもそも……
「サダハルはなんやかんや言って僕より筋力が上ですから」
奴は俺と同じ恩恵を持っていて、かつ2年先に生まれている。この年齢で2年差というのはかなり大きい。
「サダハルさんは確かにバランスが取れています。飛び級をした分年齢は同学年の他の
ただ私がお坊ちゃまに見習って欲しいのはサダハルさんではありません。ミトさんです」
「どういう事でしょう」
わかる気はする。しかしあくまで何となくで、はっきりとではない。だから此処はしっかり聞いておいた方がいいだろう。
「サダハルさん、それにお坊ちゃまは天才肌です。こちらが教えれば大抵の事は理解して出来る様になります。
ですが、だからこそ甘いと感じる事が多いのです。なまじ何でも出来る上、筋力も人並み以上。その分
あまり考えていない、か。そんな事はないと思う。俺としてはどうすれば上達するか、それなりに考えつつやっているつもりだから。
リサも俺がわかっていない事に気づいているのだろう。だから説明は更に続く。
「例えば1対1で戦うと思って下さい。サダハルさんとミトさん、お坊ちゃまはどっちが怖いですか?」
その質問にはすぐに答が出る。
「ミトさんです。一瞬でも気を抜くと投げ飛ばされたり致命的な攻撃をされますから」
サダハルの方がスペック的には圧倒的に上だ。勝率的にもそう。ミトさん相手なら7対3位で勝ち越しているけれど、サダハル相手なら45対55位でやや負けている。
それでもサダハル相手ならミトさん程の緊張感は感じない。サダハルの起動を見ながらゆっくり自分の作戦を考える余裕がある。攻撃の組み立てもサダハルはそこまで細かくも神経質でもない。捕まらない事さえ注意すればそうそう致命的な事態にはならない。
ミトさん相手の場合は一瞬でも気が抜けない。理由はリサに言った通りだ。気を抜いたと同時に攻撃が来る。しかも基本的に隙が無い。あえてこちらから隙を作って誘い受けるか、逆にミトさんが攻撃に出た際やその最中に仕掛けるか。
だから怖いのはサダハルよりミトさんだ。少なくとも俺の場合は。
リサは頷いた。
「ええ、その違いです。
ミトさんの強さは観察力と分析力、そしてそれを活かせる多種多様な技です。
もちろんある程度は持って生まれた素質なのでしょう。ですがそれだけではありません。あの観察力や分析力は膨大な知識と考察の積み重ねに支えられていると感じます。
おそらくそれこそがミトさんの実力を支えている最大の要素です。
ミトさんはお坊ちゃまやサダハルさんのように天才肌ではありません。技を覚えるにもお坊ちゃま以上に
ただそういった
ですがその結果として技をどれだけ使えるようになっているか。完成度とでもいうような観点から見れば、ミトさんの方がずっと仕上がった状態です。
少なくとも最近
なるほど。言われてみると確かに思い当たる事は結構ある。
柔道の投げ技がそうだった。元々は俺の前世の知識から編み出したもの。しかし今ではミトさんの方が使いこなしている。
そしてその過程でミトさん、試行錯誤したり人形を使ったりして練習を重ねていた。どういう体勢からなら使えるのか。どういう状況なら効果的なのか。おそらく考察しまくりながら。
「なるほど、少しわかった気がします」
「そこまで考察するというのもきっと能力ではあるのでしょう。ですから全く同じ真似は出来ません。むしろお坊ちゃま、そしてサダハルさんはミトさんとは逆に、思考しなくてもいい位まで実践で経験を積むという方法が有効なのかもしれません。
ただミトさんはそこまで到達する位の努力をしている。そしてその完成度との間を埋めるにはその分お坊ちゃまは経験を積む必要がある。その事は自覚していただけると幸いです」
なるほど。だからミトさん達には丁寧に教えて、俺の場合はスパルタ式になる訳か。なおかつ俺には『全員倒すつもりでやれ』なんて命令があったり。
理屈としては理解した。ただ微妙に不安が残るのであえて聞いてみる。
「ところでバトルロイヤルにミトさんとかサダハル級の強者がいたら、その時は少し作戦を考えていいですか」
「あの4人と同等レベルの実力者がいた場合は仕方ないでしょう。初等学校
それだけリサも実力をかっているという事だろう。ミトさんやサダハルだけでなく、フローラさんやエレインさんについても。
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