第4部 平和かつ平穏? な夏休み

第15章 期末試練対策とその結果

第64話 期末試練の対策

 あの事件の後、補習授業の後の勉強トレ会は会場をサダハルの家からミトさんの家に変更した。ミトさんが自分の家について皆にカミングアウトした事と、ミトさんの家の方が勉強トレ器具が揃っている事が理由だ。


 今日も学校の補習授業終了後、五人でミトさん宅へ勉強トレに向かう。話題はあと2週間後に控えた期末試練についてだ。


 この学校では夏休み前、7月になると期末試練なんてものが行われる。これは日本の期末試験と同じような類いらしい。


「6年生の試練実技科目は中間と期末、1学期から3学期までほぼ同じ。能力科目が100m無限シャトルラン、懸垂、50km走、鉄球投げ、垂直跳び。戦闘科目が1対1形式が平均台上と平地。集団戦闘が5人組の班6つで学校Dグラウンドで1時間のバトルロイヤル。


 この集団戦は専用の体操服を着て戦うの。胸と背中の部分に特殊な染料が塗ってある感圧版がついていて、この板に敵の攻撃が当たって手形や足形がつけばリタイア。5人のうち3人がリタイアしたらそのチームチームは終了。


 昨年まではこんな感じだったみたいだよ。先輩達から受け継いだ資料によれば、だけれど」


 フローラさんが上級生から仕入れた情報を教えてくれる。


「結構科目があるんだな」


「対策は無理そう」


 俺もサダハルやエレインさんと同感だ。これでは一夜漬けでテスト勉強、なんてのは通じそうに無い。


「そうなんだよね。試練勉強トレなんてのは無理かな。全般的に勉強トレしていないと対応出来ないから。

 でも今学期、野外学習は成績つかずにうやむやになっちゃったでしょ。それに教団と第一筋士きし団関連の調査が学校にも入って中間試練が潰れたし。


 だから成績はほぼ全部期末試練にかかってくる筈。何か有効な対策があればしたいところだけれど……」


「確かに対策が出来ればしたいです。でも聞いた限りでは無理そうです。理論通りに勉強トレをして筋肉を増やすくらいしかないと思います。

 あとはペーパーテスト対策として今学期に習った学習内容を見返す位しか思いつきません」


 ミトさんが言うのは正論だ。実際俺もそれくらいしか考えつかない。

 ただ前世で試験にいい思い出が無い俺としてはフローラさんの気持ちがよくわかる。だから出来れば何とかしたいけれど……


「リサさんに聞いてみる?」


 ちょっと待ったエレインさん! それは絶対やめた方がいい!

 俺はそう思ったが勿論口には出さない。何処にリサの目や耳があるかわかったものじゃないからだ。


 最近はリサ、ミトさん宅でやる元五班の勉強トレの面倒を見てくれている。

 教団や第一筋士団きしだんとやりあった数日後の放課後、俺の家に遊びに来たミトさんが頼んだのだ。


『もし良ければ学校がある日の放課後、スグル君達とやっている勉強トレ会で技や勉強トレのやり方について教えていただけませんか?』


 リサ、あっさりと了承。シェラスコ家の皆様も歓迎してくれた結果、今では基本的に放課後の勉強トレ会はリサの指導の下行われている。


 なお今のところリサ、俺相手の時のような無茶な指導はしていない。しかしリサによる特訓で何度も厳しい目にあっている俺としてはいつハードモードに移行するのかひやひやものだったりする。


 だから余分な指導は頼まないで欲しいのだ。頼むから……


「確かにリサさん、私達の先輩でもあるんですよね。注意点などがあれば教えてくれるかもしれません」


「確かに」


「だよね」


「そうだな」


 おい待て皆、考え直してくれ! そう言いたいけれど皆さんリサの鬼の面を知らないからそんな事を言っている。

 大丈夫なのだろうか。俺は不安でたまらない。


 ミトさんの家はもうすぐだ……


 ◇◇◇


「試練科目は私の頃と同じようですね。学習の方の範囲は少々変わっていると思いますけれど」


 リサはそう言って皆の方を見回して、そして続ける。


「戦闘科目以外で差がつくのはシャトルランと50km走でしょう。一見持久力が必要なようですが、6年1組となるとそこでは勝負がつきません。

 無限シャトルランは時間が10秒になってからが勝負です。100m走で安定して8秒台で走る位できないと上位は無理でしょう。

 50km走は皆さん後半は本気で走ります。結果、最後の10kmは150km/h以上でのスプリント勝負となります。


 ですから持久力は当然として、その上に更なるスピードが必要。これが1組の場合のポイントです」


 何か非常にヤバい予感がする。でももう引き返せる時点は過ぎてしまっているような筋配けはいが……

 ただし俺以外は危険に気づいていないようだ。


「なら速度無制限の周回走路で走り込めばいいでしょうか?」


 ミトさん、そんな危険な提案するんじゃない!

 そう思うが勿論口には出せない。


「いえ、街の走路には速度無制限の方でも90km/h程度で走っている人がいます。またカーブもバンクこそついていますが曲率がかなり急で慣れていない人にはそこそこ危険です。

 ですから学校の試練と同じように街の外、街道を使ってやりましょう。私がついていれば街門を通れますから問題ありません」


 俺は時速180km/h近くで走らされた時の事を思い出す。あれをやるのかと思うと既に気が重い。

 ただ皆さん、リサの言葉の罠に気づいていないようだ。


「街門の外に出てトレーニング出来るんですか」


「期待」


「滅多にない機会だな。楽しそうだ」


「同感。街門の外なんて滅多に出られないしね」


 あーあ。どうなっても知らないぞ~。そう本当は言いたい。でも言えない。それに俺も参加させられるのだと思うと気が重い。


 でもまあ、俺以外もいるのだからそこまで厳しい勉強トレになる事はないだろう。その程度の希望は持っていい筈だ。多分、きっと。


「それでは早速行ってきましょうか。今からならウォーミングアップとクールダウンを含めても、余裕で戻ってくる事が出来ますから」


 俺以外の4人は嬉々とした感じだ。これが地獄を見てどう変わるのか。

 地獄でなければいいなと心から願う。願いというか祈る。この世界には実際に神様がいるのだから。

 その神様が信用出来るかどうかは別として。

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