第62話 大捕物
「たかが人が決めた法律で神の僕たる私を拘束しようとは片腹痛い。そのような人の思い上がりこそ
総司教、どうやら戦う気満々のようだ。正気なのだろうか。
仮に此処でこちらの部隊を倒したところで、
何か俺達が知らない奥の手のようなものがあるのだろうか。それとも単なる狂信にすぎないのだろうか。
「今の言葉、当方が国法に基づいて行っている強制執行の妨害を行っているという認識があると受け取っていいか」
「国法など所詮人が決めたものです。神の言葉こそ至高にして絶対」
「法に従う意思はないと判断、これより逮捕を執行する」
確かにガストロック伯爵の言う通りだろう。総司教はこちらに反抗する気満々としかとれないから。
ガストロック伯爵は総司教に向けて歩き出す。特に警戒している感じではない、普通の歩き方で。
これは誘いなのだろうか。それとも他に意味があるのだろうか。
なお残りの騎士団員は動かない。リサも動かない。だから俺も動かずその場でガストロック伯爵と総司教の動きを観察する。
「ふっ。ならば神の栄光を見よ! フロントリラックス!」
総司教が強烈な
しかし予想したような衝撃は来なかった。そこそこ強い風が吹き抜けた程度だ。
ガストロック伯爵が右手を横に広げて
「強烈な
「年の功という奴だ」
リサの説明にガストロック伯爵がそう付け加えて、そして続ける。
「デキスター・ジャクソン。確かに筋肉と
だが残念な事だが実践経験が足りない。この程度の
今からでも負けを認め、大人しく逮捕されよ」
そう言えば警備員を倒し門を壊した時、ガストロック伯爵はポージングをしていなかった。総司祭が最初に
ガストロック伯爵はポージングなどせずとも自由自在に
「うっ……」
総司祭は半歩ほど後ずさりをした後、今度はやや前屈みにポージングする。
「モスト・マスキュラー!」
「効かん!」
ガストロック伯爵が再び右手を伸ばして
しかし総司祭、
「正しき教えは負けん!」
開いた壁の穴から総司祭は飛び降りた。
「2班のうち3名は奥の寝室を捜索。残りは俺と一緒に後を追うぞ!」
ガストロック伯爵がそう言って穴から後を追う。
なお寝室捜索に3名残したのはいずれも女性
それでもまあ、一般人がこれを知ったら色々思うところはあるだろう。ちなみに俺がハーレムを作るなら女だけでなく男も入れたい。そう思ったところで……
「行きましょう」
俺とリサも穴から外へと飛び出した。そのままグラウンドへ着地する。
最初に飛び降りた総司教は既に走り去っていた。しかし
走るとすぐに
「総司教の目的地は大聖堂内陣のようです。今、動きが止まりました」
方向はわかるが地理がわからない。だからリサの説明は助かる。
そして大聖堂は俺も知っている場所だ。昼間なら一般人も普通に見学なり礼拝なりに入る場所だから。
大聖堂の扉は開け放たれていた。中に総司教とガストロック伯爵の
だが俺は気づいた。総司教の
考えつつもとにかく走って大聖堂内へ。入ってすぐ正面奥の内陣を見る。
総司祭とガストロック伯爵が向かい合っていた。しかし先程と何か様子が異なる。心なしか……
もっと近づいてそして気づいた。総司教、先程より二回り以上大きくなっている。総司教、身長そのものは小柄な方だった筈だ。少なくとも先程までは。
しかし今は大男と言ってもいい大きさになっている。更に筋肉も爆発しそうなぐらいに太く分厚い。
総司教がこちらを見て、嘲るような笑みを浮かべた。
「ふははは、正しき信徒はこのように
ちなみに法安とは教団用語で『これ以上罪を犯すことのないよう、罪人を神の国へと送ること』だ。つまりは殺人する事を言う。
「
薬ひとつで短時間にこれだけ増強してしまうのか。何というか強烈だ。
ガストロック伯爵が小さくため息をついて頷いた。
「ああ。逃げている間に飲まれてしまった。
さて、此処へ向かった者は皆到着したようだ。今後の為に見ておくがいい。これだけ即効性がある
「神の栄光は絶大なり。ここで
先程までの数倍の
ドドドドド! メキメキ! ガサッ! 備え付けの演台や椅子等が
「フロントリラックス!」
リサが
不意にガストロック伯爵の姿が消えた。いや違う、恐ろしいほどの速さでダッシュしたのだ。総司教が放った
左拳の一撃が総司教のみぞおちに決まった。総司教はびくっとした後、やや前にうずくまるような姿勢になる。
更にガストロック伯爵の右拳が下から顎へ。総司教の身体は今度は後ろ方向へふらっと揺れ、そして倒れた。
ガストロック伯爵、そこへ再びため息をつく。
「筋肉量と
しかも使用した後は一気に身体に負担が来る。その上こいつはそれ以前に
また下らぬものを殴ってしまった」
騎士団員が動き始めた。それぞれ所持していたテープ状の拘束具で総司教を確保にかかる。
どうやら大捕物はこれで一段落のようだ。
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