第59話 預言の内容⑵

「そして第三の預言だ。これはかなり異質かつ難解な内容になっている。だから暴露本に書いてあった文章をそのまま読むぞ」


 父はそう言ってポケットからメモを取り出す。なおメモといっても紙では無く薄いメモ板だ。

 筋士団きしだんではそういったメモ板を使用している。理由は簡単、紙だと走っているときに風圧でよれて確認しにくいから。


「『やがて破壊する者が現れる。それは神々によって異なることわりから呼び出される。これから十年と少し後、神々から恩恵を授かりこの地アナボリックに生を受ける。

 この破壊者は神の恩恵を身に宿しつつも神を疑う。やがては不信心者インフィデルとして既存の教団を壊し、そして神と戦うであろう。

 だが憂う事はない。これもまた神の意思である』

 以上だ」


 うむ、思い切り心当たりがある。間違いなくサダハルだ。断言していい。

 あとひょっとしたらシュウヘもそうなのかもしれない。でも奴は自分の神を疑っていなかったかな。


 そして今の話はケーリーの証言とも一致する。なるほど、少なくとも上級の筋肉貴族なら知っていた事だった訳だ。

 なら最初から父に聞けば良かったのかもしれない。教えてくれたかどうかはわからないけれど。


「そしてそれから12年後、スグルが誕生した」


 父の話はなおも続く。しかしあとはこの預言と俺との符合点くらいだろう。どうせ大した事では無い。そう思ったのだが……


「俺は生まれたばかりの我が子と対面した時にふと感じた。もう一つ別の筋配けはいがあるような気がする、と」


 えっ! 思ってもみない方向へ話が行った。ちょっと待って欲しい。

 つまり父は最初から田常呂たどころ浩治こうじ筋配けはいに気づいていたという事か。まだ記憶が目覚める前、というか生まれた時からずっと。


筋配けはいは眠っているようだった。しかし俺は不安に感じた。この眠ったままの筋配けはい、これこそが異なることわりから呼び出された証左なのではないかと。この眠っている筋配けはいが目覚めた場合、不信心者インフィデル、そして預言にあった破壊する者となって神と戦う事になるのかと」


 誤解だ! 神と戦う気などまるで無い。

 そう言っても何というか手遅れという気がする。何せ田常呂たどころ浩治こうじがいる事を既に確信しているのだ。


 そうか。改めて俺は思い出す。俺の記憶がもどって行動パターンが急に変わったのに、父も母も、そしてリサも不審がらなかった事を。

 そうなるだろうと予期していた、あるいは覚悟していたのだ。おそらく、きっと。


 なら聞いておきたい事がある。今の話を聞いたこの時点で、すぐに。


「いま、の、ぼく、は、どちら、に、みえ、ますか?」


「6歳の誕生日の後、明らかに筋配けはいが変わった。元のスグルの他、眠っていた筋配けはいがひとつになった感じがしたのだ。

 実際その頃からスグルは変わった。勉強トレや学習を自分からやたら積極的にやるようになったのだ。


 ただ元からのスグルの筋配けはいは確かに残っていた。むしろそっちが主体で、眠っていて目覚めた筋配けはいはスグルと一体化しつつ力を貸しているように感じたのだ。


 念のため筋配けはいを隠す余裕が無い状態で観察なんて事もしてみた。バーピーを限界以上にやらせたり、上級使徒メタボリックとの戦いに連れて行ったりしてな。


 その頃も、そして今も俺の目からは同じに見える。

 お前がスグルとして以外の知識や能力を持っているのは確かだろう。それでも間違いなくお前は俺の息子のスグル。それが俺、アイリス、そしてリサの結論だ」


「あり、がとう、ござ、います」


 少し置いて、そして父は再び口を開く。


「先程の話に戻ろう。そんな訳で俺は不安だった。いつかスグルが何かに巻き込まれるのでは無いかと。

 勿論考えすぎという可能性はある。だがスグルが生まれたのは最後の予言にあった時期だ。


 そしてスグルの中に感じる筋配けはい、これは俺が今までに知っているものとは明らかに違うと感じる。『神々によって異なることわりから呼び出される』。そんな言葉を思い出してしまうくらいに」


 何というか申し訳無い。無論俺がどうこうできる話ではないのだけれど。

 責任者は間違いなく筋肉神テストステロンだ。だからと言って奴に責任を取らせる訳にもいかない。かえって事態が面倒なことになりそうだし。


「その約4年後、スグルが4歳になる少し前。

 今の話とはまた別の理由でリサが筋士団きしだんを辞めたいと言ってきた。その理由とか状況、慰留その他については取り敢えずおいておこう」


 本当はその辺の経緯についてじっくり話を聞きたいところだ。しかし今は俺に関する話の方が先。

 ただそこから後は何となく想像がつく。リサが俺担当のメイドになったのが、まさに俺4歳の誕生日だったから。


筋士団きしだんをやめるというリサの意思をどうしても変えられない。それがわかった時。ふと俺は思ったのだ。そうだ、この件をリサに頼めれば安心出来ると。


 リサの実力はスグルも知っての通りだ。この当時でも既に並みの筋肉男爵を上回る実力を持っていた。筋肉貴族に昇任しなかったのは単に年数、上級筋士きしになってまだ1年経っていないというだけだったから」


 俺もその辺の実力は今回よくわかった。少なくとも現役の筋肉男爵を歯牙にもかけない実力であるという事は。

 いや、本当は未だにわかっていないのだろう。俺はリサの実力の奥底を測れないままなのだから。


「倒す為では無く護る為の仕事なら。そういう条件でリサは引き受けてくれた。それでスグルが4歳になったのと同時に、スグル付きのメイドという名目でついて貰ったのだ」

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