第14章 強制執行

第57話 合流、そして裏話?

「それではこの勉強トレはここまでにしましょう。ただしこれからは普段も筋配けはいをある程度抑えたままでいる事を心がけて下さい。常に隠蔽状態とまでは言いません。一日中やることが出来る程度で結構です」

 

 訓練は終わった。しかし何気に難しく厳しい注文がついてしまった。


 ただこの訓練、意味も効果もあった。そう俺は感じる。

 わずか30分の訓練で俺はわかるようになったのだ。リサが常に筋配けはいを抑えている事を。

 今もそうだ。筋配けはいを抑えない場合と比べ、6割以上押さえ込んでいる。


 サトウリアス男爵の筋配けはいとリサの筋配けはい、ステータスで見た数値と放出している筋配けはいが逆なのはこの為だ。あの戦いから30分経った今、やっと俺は理解した。


 さて、大きな筋配けはいがとんでもない速さで近づいて来ている。間違いない。父と第三筋士団きしだんだ。

 しかし人数は父を含めても7名だけ。敵地へ乗り込むのにこの人数で大丈夫なのだろうか。


「人数が少ないのは直接筋肉審判の疑いを避ける為でしょう。おそらくは協力者を確保出来たという事でもある、そう私は判断します」


 そう言えば訓練前にリサが言っていた。第二筋士団きしだんと特科筋士団きしだんにも連絡と協力要請は行っている筈だと。


 ならばこの人数というのは正しいのだろう。それに父以外もそれなりの強者、少なくとも上級筋士きし級なのは筋配けはいからみて確かだ。


 そして部隊は俺達の目の前に到着した。


「まさかこんなに早く会うことになるとは思わなかったな。さて時間がない。話は走りながら聞く。そこの男と証人はこちらで運ぼう。リサはスグルを頼む」


「わかりました。ありがとうございます」


 問答無用でリサにお姫様抱っこされてしまった。

 なお背負子に縛られたケーリーや倒れたままのサトウリアス男爵もそれぞれ父と同行の筋士きしが持つようだ。


 筋肉ムキムキゴリラマッチョ体型のサトウリアス男爵をやはりゴリラマッチョ体型の筋士きしが担ぐ姿、なかなか耽美的だ。どちらもマントとトランクスという筋士きしスタイル。月に照らされた筋肉の陰影が良い。


 なんて思ったところでいきなり加速が入った。あっという間にとんでもない速さに達する。先程俺達が走っていた速度より早い。

 

「第二筋士団きしだん、特科筋士団きしだんともに応援を要請済みだ。デルトイド侯爵の身柄確保まではしていないが問題ないだろう。逃げたらその時点で筋肉貴族追放だからな」


「第二筋士団きしだんや特科筋士団きしだんは信用していいのでしょうか」


「少なくとも第二の方は信用していい。エリウドは現教団の方針や違法薬物ステロイドを俺以上に嫌っている。教団や第一筋士団きしだんについて最初に不審と感じたのも奴だ」


 ちょっとほっとする。ミトさんのところとは敵対したくない。


「それにしても王都トリプトファンに出てきて3ヶ月でこの騒ぎか。予想以上の早さだ。何というか、預言を信じそうになるくらいに」


 えっ、予言!? どういう事だ? 


「預言やお坊ちゃまのせいではありません。今回は運が悪かっただけです」


「勿論スグルが悪いわけじゃない。あくまで巡り合わせだ」


「ええ。ですが、そろそろスグル様にお話をした方がいいのではないかと私は思います」


 えっ? リサが何かひっかかる言い方をした。


「まだ早いだろう。初等部生徒トレーニーだし、年齢に至ってはまだ6歳だ」


「それでも既に教団からは目をつけられています。安全の為にも本人が知っておいた方がいいでしょう。お坊ちゃまにはその位考える能力はもう充分にあります」


「どう、いう、こと、です、か」


 今の姿勢だと前方からの風圧が厳しすぎる。普通に話すのは俺には無理だから、喋るのはこの程度が限界だ。


「……筋肉神テストステロン様が最後に顕現されたのは何時か、お坊ちゃまは知っていらっしゃいますか?」


 リサが俺にそう質問する。何が関係あるのだろう。そう思いつつも俺は答える。


「なな、きゅう、ななねん、あきの、たいさい、です」


 この前堕神エストロゲンについて調べた際、ついでに知った知識だ。筋肉神テストステロンはかつて毎年春と秋の大祭で一般人の前に顕現していた。


 しかし798年の春の大祭の前に教会から発表があったらしい。筋肉神テストステロンからのお告げにより、以降は大祭にあっても顕現はないと。そして実際筋肉神テストステロンは顕現しなかった。

 故に筋肉神テストステロン最後の顕現は797年の秋の大祭だ。


「公式にはその通りです。ですが実際にはその後798年1月に筋肉神テストステロン教団本部教会に降臨され言葉を預けられた、そう一部の者には伝えられています」


 798年春の大祭に筋肉神テストステロンの顕現が無い事は事前に告知されていた。そして秋の大祭後にはその事は明らかにされていなかった。

 なら秋の大祭から顕現が無い事の告知までの間に、預言なり顕現なりがあったと考える方が自然だ。そう考えて俺は納得する。


「ここからは余談で私自身の話になります。

 私は798年の冬生まれです。そして筋肉神テストステロン最後の顕現時の預言のひとつに、まもなく神の分身たる存在を地上に遣わすととれる内容がありました。


 結果、私が何かを行うと、『あれは筋肉神テストステロンの分身だから』と言われるなんて事が多かったです。特に第一筋士きし団ではそういった傾向がありました。教団の一部と謀って、私を筋肉神テストステロンの分身として筋士きし団の象徴的に活用しようという計画もあった位です」


 なるほど、リサにはそんな事があったのか。そしてそれが第一筋士きし団から第三筋士きし団へ移った理由。


「私自身には筋肉神テストステロン様の分身という預言も記憶もありません。ただ周囲が勝手にそう言ったりするだけです。


 ただ、それだから預言というものが面倒な事を産むことを人一倍理解しているつもりです。

 でもだからこそ、自分の事として、必要な情報は知っておいた方がいいと判断します。お坊ちゃまは6歳ですが、もうそのくらいの知識や思考力はお持ちですから」


 リサの境遇について色々考察したくなるが、とりあえず今は後にしよう。

 今のリサの言葉は俺に過去を考察させる為では無い。父に対して、俺について何か隠している事を言うべきだという意味のように感じるから。

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