第51話 事情聴取の開始

 無事サダハルの家へと到着。ただ皆さん宿題も勉強トレも今ひとつ身が入らなかった様だ。やはり皆さん、ケリー先生の事が気になる模様。


 あとはミトさんからのこんなお願いもあった。


「もし出来るなら次はスグル君の家に行ってみてもいいですか。リサさんとお話をしたり勉強トレ方法について聞いたりしたいです」


 このミトさんの要望についてはリサに聞いてからということにして貰った。

 それに間違っても今日はまずい。ケリー先生から話を聞き出す作業が待っているから。


 宿題を終わらせ勉強トレもひととおりした後、解散。実は俺の家、サダハルの家から徒歩3分程度と近いので、皆に後を追われないよう筋配けはい隠匿しつつやや大回りで家へ。


「ただいま」


「お帰りなさいませ、お坊ちゃま」


 いつも通りリサが迎えてくれた。


「先程はありがとう。それでケーリーはどうしましたか?」


「手足をテープで縛って椅子に座らせています。睡眠撃をかけているので放っておいてもあと3時間は目覚めません」


 睡眠撃は気絶撃より更に難しい技だ。幾つかあるツボ、あるいは経絡筋功けいらくきこうをつく事によって睡眠状態にさせるというものだ。

 こんな技、使える者は筋功きこう術師くらいに限られている。しかしリサは問題なく使えるようだ。


「ありがとう。それでは夕食前に事情聴取します。大体21時までには終わらせるつもりです。

 ですからその後に筋士団きしだんに引き取るよう手配する事は可能ですか?」


「坊ちゃまが事情聴取なさるのですか?」


 そう、ヤってしまうのだ。田常呂たどころ浩治こうじとして生きた頃の特殊な知識を十二分に活用して。

 なんて事は言えないので普通に返答する。


「ええ、僕自身で聞いてみたいと思います。勿論危険な事はしません。身体を拘束させたままで行いますから心配しないで下さい。拷問のような違法な方法も使いません」


「わかりました。もし良ければケーリーが使用していた防音装置、筋配けはい妨害装置がありますけれど、お使いになりますか」


 おっと、それはありがたい。話を聞き出すにはしゃべれる状態にする必要がある。そして俺がこれから行う『お話を聞く方法』はついついアレな声が出てしまう事があるから。


「ありがとう。使わせて貰います。あとで、夕食の後に借ります」


 夕食の方が先だ。なにせこの事情聴取方法、運が悪いとくそみそになるおそれがあるから。


 ◇◇◇


 夕食を食べて、後で洗えるように風呂もわかして。そしていよいよ事情聴取の時間だ。


「今回は僕1人でやりますので、リサは部屋に入らないで下さい」


 そう言って、そして防音装置と筋配けはい妨害装置、厳選したグッズを持って部屋の中へ。


 ケーリーは椅子に縛り付けられたまま熟睡していた。両脇、両腕、両手首、腰、股、両膝、両足首が幅4cm厚さ5mm程の頑丈そうなテープできっちり固定されている。


 そしてこの椅子、鉄製でやたら頑丈そうな造りだ。しかも拘束用のテープを通す穴までついている。これなら相当な筋肉自慢でも壊すなんて事は出来ないだろう。

 こんな拷も……いや拘束専用っぽい椅子なんて何処から持ってきたのだろう。今までこの家で見たことはないのだけれど。


 整っているのはそれだけではない。椅子の下に防水シートなんてものまで敷いてある。

 これはきっと尿を漏らしたりする事が無いようにだろう。今回の目的にはちょうどいい。


 何というかあまりに環境が整っている。まさかリサ、俺がこれからする事、わかっているんじゃないよなと不安になってしまう程に。

 そんな筈はない。そう心を強く持って、そして準備開始。


 ケーリーの服をはだけさせ、目隠しをする。防音装置と筋配けはい妨害装置を配置して起動。更に蝋管式蓄音機に50分用の録音筒をセット。


 作戦開始前にケーリーをもう一度確認する。

 ケリー先生は中年後期のおばさんという感じだった。しかし化粧や変装を剥ぐと壮年で細マッチョなのがよくわかる。俺自身が手を下す相手として不足はない。


 それでは『気持ちよくお話をしてもらう作戦』開始だ。睡眠撃で寝せるのは難しいが起こすのは簡単。

「ブッチッ波!」

 気絶撃とよく似ているが微妙に角度と場所が違う覚醒撃で叩き起こす。


 ケーリー、目を開けない。呼吸も変わらず起きた様子を一切見せない。

 しかし俺は今の覚醒撃に自信がある。ケーリーは起きている筈だ。尋問その他を逃れる為、寝たふりをしているだけに違いない。


 ならそれでいい。俺は俺の作戦を遂行するだけだ。

 まずは説明から実施する。


「寝たふりをしているようですが、起きていることはわかっています。

 それではこれからの事について説明をしておきます。これから僕は先生に事情聴取をします。

 ケリー先生ことケーリーが何故僕達を襲ったのか。何故僕を狙ったのか。何故不信心者インフィデルと判断したのか。

 組織はどうなっているのか。かつてのツィーグラ派の残党なのか。拠点は何処なのか。筋士団きしだんや他の組織にどれくらい入りこんでいるのか。つまり、全てについてです」


 反応はない。寝たふりを通すつもりだろう。だが問題はない。


「出来れば自発的に話してくれるとありがたいです。僕としては拷問なんて犯罪になるような手段を使うわけにはいきませんから。


 しかしだからといって黙ったままでいられるとは思わない方がいいです。さる諜報機関の著名なエージェントも言っています。『口を割らせるにはいくらでも方法はある。苦痛だけとは限らない』と。


 だがまずは何もせず紳士的に質問させていただきます。なお録音装置を作動させています。だから口頭で答えてくれればそのまま証拠になります。また答えないというのも同時に証拠になります」


 まだ寝たふりを続けている。いいぞいいぞ、反応するな、その時まで。そう思いつつ俺は更に続ける。


「まずはケーリー先生が何故今回の襲撃を行ったかについて尋ねます。誰から命令があったのか、それとも何か他に理由があるのか。答えて下さい」


 ……寝たふりを続行するようだ。反応はない。

 本当は今すぐアツい事情聴取をしたい。しかしまずは形式からだ。ただ口で問いかけるだけで返答がない事情聴取を俺は続ける。


■■■ 蛇足の用語解説 ■■■


 ● 著名なエージェント

   今回の台詞は非実在諜報部員のジャック・バンコラン氏(MI6所属。出典『パタリロ!』著:魔夜峰央)。

   個人的には諜報機関のエージェントが著名というのは職業柄まずい気がします。気のせいでしょうか。


 ● くそみそになる

   文字通りの意味。出典は『くそみそテクニック』(著:山川純一)の最後のコマに書かれた『こんなわけで僕の初めてのハッテン場体験はクソミソな結果に終わったのでした…』から、かもしれません……


 ● ブッチッ波

   元ネタと違い単に覚醒させるだけの一撃です。なお元ネタの検索は非推奨です。


(今回は汚いネタが多くて済みません……)

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