第12章 お話を聞く方法

第48話 作戦失敗と次の方法

 翌日、やや寝不足気味の頭を抱えて学校へ。普通通り授業をうけ、昼夜食事を食べ、放課後となった。

 補習授業は今週は中止。宿題はプリントで出ているけれど。

 だから図書室で本を調べる時間は充分ある。なので昼休みに立てた作戦を決行、まずはケリー先生にお願いだ。


 いつもの5人でミトさんを先頭に初等部特殊教育棟にある理科準備室へと向かう。

 本当はケリー先生への依頼も図書室の調査も俺とサダハルの2人でやるつもりだった。図書室での調査活動は危険を伴う可能性が高いからだ。

 しかし3人に押し切られた。


『折角面白そうな謎があるのに、スグル君やサダハル君だけに任せておくのはつまらないよね』


『同意』


『私達にも及ぶ可能性がある危険なら全員で早期に片付けた方がいいと思います。それに注意する人数が多い方が安全です』


 こんな感じで。

 目的の部屋の前に到着。中の筋配けはいは1人分だけ。これがおそらくケリー先生だろう。

 ミトさんが理科準備室をノックする。


「どうぞ」


「失礼します」


 予想通り中にいるのはケリー先生だけだった。


「いらっしゃい。何の用でしょうか?」


「実は先生に質問したい事があるんですけれど、今はお時間大丈夫でしょうか」


 ミトさんの言葉に先生は軽く頷く。


「もちろん構わないですよ。それでどんな内容?」


「専門外で申し訳ありません。筋肉神テストステロン信仰について、ここ最近30年ほどの傾向を知りたいと思ったのですけれど、此処の初等部の図書室には資料があるでしょうか。それとも帝立学校合同図書館へ行った方がいいでしょうか?」


 この割とストレートな質問は話し合った結果、決めたものだ。話し合いに行くのに5人で行くことも。

 ミトさんの言葉を聞いたケリー先生は苦笑する。


「結論から言いましょう。初等部の図書室にも帝立学校合同図書館にも該当する書籍はありません。かと言って帝立図書館へ行くのもやめた方がいいです」


 あっさりストレートに返答されてしまった。それも全面的な否定で。予想外というか何というか……


「それは危険だからという事でしょうか?」


 ミトさんの質問に先生は頷く。


「ええ。まずは残念な事実からお知らせしましょう。該当する書籍は初等部の図書室はおろか、帝立学校合同図書館からも廃棄処分されています。今から最低でも15年ほど前にです。

 これは昨日までに私自身が調べた結果となります」


 既に学校図書館へは敵の手が伸びていたようだ。俺が生まれるより前に。

 ケリー先生は更に続ける。


「誰かさんが襲撃される前に帝立図書館で請求した書籍は、筋士団きしだんの捜査によって確認しています。


 受付に請求した本のリストから、その誰かさんはここ20年感の堕神エストロゲン使徒メタボリックとビルダー帝国との交流状況について、調べているだろうという事がわかりました。

 ですので該当しそうな本を帝立図書館で調査するとともに、他の場所でも同じように隠匿されたり廃棄されたりしていないか、確認しました。


 結果、帝立学校の図書館については、関連書籍はほぼ全部、廃棄済みである事を確認した訳です」


 俺が帝立図書館で請求した書籍が何か、確認した訳か。言われてみれば確かにそれくらいの捜査はするだろう。


「また筋士団きしだん調査部によって、現在帝立図書館にある類似の本についての調査を進めています。何が襲撃を引き起こしたかを調べる為です。

 また同時にそれら書籍の隠匿や廃棄を行った者についての捜査も進めています。


 近いうちに今回の事案も解明される事でしょう。ですので皆さんは一度調査を中止して筋士団きしだんに任せていただきたいと思います。それに犯罪組織に目をつけられてターゲットとなるのは避けた方がいいでしょう。


 私からは以上です」


「学校には該当資料は残っておらず、帝立図書館は筋士団きしだんが調査中なのですね。わかりました。今日はまっすぐ帰ることにします」


 ミトさんのそんな確認にケリー先生は頷いた。

 今日の計画、これで全て終了だ。


 ◇◇◇


 時間が余ったのでこれからサダハルの家で宿題とトレをする事になった。向かう途中、フローラさんとエレインさんがそんな事を言う。


「何か何処かすっきりしないよね」


「同意」


 確かにそう感じるのは仕方ない。俺もそう思うから。


「しかし帝立図書館は行かない方が安全です。襲撃に遭ったりしたら大変ですから」


 ミトさんが言うのは正論だ。そして実は俺も少し安堵している。現役筋肉貴族家でそれなりに警備の手配が可能だろうミトさんやサダハルとは違い、フローラさんとエレインさんは一般人なのだから。


「ただ本が無いという事は、少なくとも以前は学校や図書館に敵がいたんでしょ。そして帝立図書館には今でも敵がいる可能性が高い。

 なら実は筋士団きしだん内部にも敵がいる、って可能性はない?」


 そう、フローラさんの言うとおりだ。実は俺も気になっていた。筋士団きしだん員であるケリー先生の前では言えなかったけれど。

 どうやら俺以外も皆、その事には気づいていたようだ。

 ただし……


「でもそれを私達がどうこうするのは無理でしょう。ですので此処は筋士団きしだんの捜査に期待するしかないと思います」


 そう、ミトさんの言う通りだ。俺達では筋士団きしだん内部についてまでは手を出しようが無い。


「確かに。でもモヤる」


 まさにエレインさんの言う通りなのだけれど。


 しかし実は俺にはまだ手が残っている。正確には残っていると思うという程度だけれど。

 俺は不信心者インフィデルと見なされている。襲撃者は2回とも俺をそう呼んだから、多分間違いない。


 そして宗教的狂信者なら俺をこのまま逃そうとはしないだろう。きっとまた襲撃してくる。

 その時こそがチャンスだ。敵の情報を知る為の。


 ただし倒して筋士団きしだんに渡すだけでは俺に情報は入らない。だから次は倒したら何とかして口を割らせる必要がある。


 勿論ビルダー帝国の法律では犯罪者に対してであっても拷問は禁止されている。違法な事をしては俺が筋士団きしだんに捕まってしまう。そうなっては父や母に申し訳ない。


 しかし俺には異世界の知識がある。その中にはこの世界の法律に触れずに話を聞けそうな方法なんてのも実はある。

 かつての俺の経験を活かした、ビルダー帝国の法律で規定されている暴力や傷害行為に触れない、それでいて効果的な方法が。


 間違ってもミトさん達には言えない方法だけれども。

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