第47話 心眼を極めろ?

 ミトさんもこの辺が妥協出来るラインだと判断してくれたようだ。結果、当座の意見は『明日の放課後ケリー先生に相談してから図書館を調べる。これで残党が出てくれば拿捕して事情聴取する』という事に決まった。


 ただ問題はケリー先生がどれくらい信用できるかだ。あとはどう話を持って行けばいいか。


 ふと思う。リサはケリー先生を知っているだろうかと。

 ケリー先生が派遣されたのはリサの働きかけの結果だろう。俺はそう思っている。しかしだからと言ってリサがケリー先生を知っているとは限らない。


 筋士団きしだんは第一から特科まで6つある。人数だってそれなりに多い。だからリサが筋士団きしだん出身だからと言って知らない可能性の方が大きいだろう。

 まあダメ元で聞いてみよう。家に帰ったら。


 しかしまずは安全に家に帰る事が第一だ。なにせ一昨日、昨日と襲撃にあっている。これから家へ帰る途中にも襲われるかもしれない。リサが警戒していると思うが念のためだ。


 周囲を最大限に警戒しつつ家へと向かう。襲ってきそうな筋配けはいは感じられない。ただ隠蔽なんてスキルを使われると厄介だ。だから所々で高筋圧こうきあつと言うほどではないけれど筋愛きあいをかけ、確認しつつ家へ。


 家に到着。中にリサの筋配けはいを感じた。俺の護衛をしていただろうと思うのだがそういった様子を全く見せない。


 ずっと家にいた訳では無い。先程、家の50m手前までは家の中に筋配けはいを感じなかった。

 ただし俺はそこから家の中へ入る筋配けはいを観察できていない。いつの間にか家にいた、そんな感じだ。


 俺くらいでは筋配けはいを感じられない位に隠蔽しつつ俺を護衛し、そして家へと入ったのだろう。流石だなと思いつつ家の中へ。


「ただいま」


「おかえりなさいませ、お坊ちゃま。2日ぶりの学校はどうでした?」


 学校の様子を聞かれた。ならちょうどいい。


「特に皆、変わったところはありませんでした。途中で襲われたり見張られたりなんて事も無かったと思います。

 ところでリサはケリーという40代くらいのを知っているでしょうか。今日学校へ理科の専科講師として新たに来たのですけれど、動きが少し筋士きしっぽい気がしたんです」


 リサは頷く。


「ケリーさんをそこまで見破るとは流石お坊ちゃまです。その通りで第一筋士団きしだんで主に調査・捜査といった事を担当している筋士きしです。


 あの人が学校に派遣されたという事は、第一筋士団きしだんがそれなりに事態を重く見ているという事でしょう」


 あっさり。どうやらケリー先生の身元は信用していいようだ。

 ついでだからもう少し踏み込んで聞いてみよう。


「なら学校の図書館で、この前僕が帝立図書館で調べたような本を調べたいと思った場合、ケリー先生に協力をお願いすることは出来るでしょうか」


「図書館で本を調べたいという事をケリーさんに言っておくことは有効でしょう。ケリーさんは専門外だからわからない等と言って断ると思います。ですがそれで注意をしてくれると思います。ただし」


 ただし、何だろう。微妙に危険な予感がする。


「万が一という事があります。ですからお坊ちゃまに、最低でも隠蔽くらいは見破れるようになっていただかないと。

 ですので今から筋士団きしだんでもやっている基本的な隠蔽看破方法を特訓しましょう」


 えっ、特訓!? しかもこれから……


「これからで出来るんですか?」


「敵がいる可能性がある場所へ赴く以上、隠蔽看破は必須です。

 大丈夫、隠蔽を行うのではなく見破るだけならそこまで難しくはありません。新人筋士きしでも2週間特訓すれば出来るようになる程度です。

 お坊ちゃまなら集中して特訓すれば本日中に基本的な事は出来る様になるでしょう」


 大人の新人筋士きしが特訓して2週間かかるのを、今日中に……もうやばそうな予感しかし無い。

 ここはもう少し時間をかけてやるべきだろう。俺はそうリサに言おうとしたところで。


「それでは坊ちゃま、失礼します」


 リサがいきなり俺の顔に手をかけた。目に何か布をかぶせられる。そのまましっかり後ろで結ばれた気配。


「リサ、何で目隠しするんだ」


「目を使わなくても周囲を把握できるようになること。それが隠蔽を看破するのに必要です。

 本当はこの状態で音や空気の流れ、周囲の筋配けはいで目で見るとの同様に周囲を把握出来るように鍛えるところです。しかし今回は時間が足りません。ですから自分から音や筋愛きあいを発して周囲を探るのもありとします」


 ありとします、なんて言われても困る。


「何も見えないんだけれど」


「ええ、そうでないと訓練になりません。

 とりあえずは何処に何があるか、今までの記憶と照らし合わせながら動いて下さい。それでも足りなければ音、風の動き、更には軽く筋愛きあいをかけて反射してくる気配で周囲を見ようと試してみましょう。

 最初は難しいと思います。ですがこのまま生活すれば今日中にはある程度動けて周囲も把握できるようになります」


 コウモリや毒蛇は超音波や赤外線で把握とか出来る。しかしそれはそういった専用の器官を持っているからだ。

 俺は人間だ。確かに地球人とアナボリック世界の人間の間には多少の違いはある。しかしアナボリック世界の人間であってもピット器官なんてものは標準装備されていない。


「それではまず、夕食前の軽い訓練トレをしましょう。庭に出てきて下さい」


 えっ!? いきなりここから庭に出ろと。この状態では何も見えないのだが、その上で?


「最初は記憶を元に手探りで動いてかまいません。危険が生じないよう私が見ているので大丈夫です」


 ……どうやらこの特訓、もはや逃れる手段は無いようだ。

 仕方ない、心眼を極めるつもりで挑戦してみよう。そう簡単に心眼なんて奥義レベルの事が出来るとは思えないけれど。

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