第44話 登校中に

 回復力チートのおかげで翌日、つまり第1曜日の朝は普通に起き上がって動くことが出来た。

 超回復のおかげかステータスが少し上がっている。


『スグル・セルジオ・オリバ 筋力75 最大101 筋配けはい79 持久75 柔軟75 回復91 燃費36

 特殊能力:回復5+ 持久5+ ステータス閲覧 前世記憶』


 どうやらリサ式の凶悪な勉強トレ、有効ではあるようだ。ただ厳しすぎるので毎休養日にという気にはなれない。あまりにきついし筋肉痛で最低半日はダウンしてしまうから。


 さて、学校がある日はいつも7時30分に家を出る。こうするとこの先で家を出てくるミトさんやその向かいの家から出てくるサダハルと一緒になるからだ。


 ただ今日は少し早く27分に家を出た。これはより確実にミトさん達に会うため。

 実習ののちの事情聴取、俺が一番最後だったから他がどうだったのかがわからない。その辺について確認しておきたい。


 筋配けはい探知をしつついつもの曲がり角で2人に出会えるよう歩くペースを調節。無事それぞれの家から出てきたところで合流。

 挨拶をした後、本題へ。


「ところで実習から帰った後、事情聴取がありましたけれど、どれくらいまで話しました?」


「僕の筋肉挑発ポージングで敵を呼び寄せてしまった事。僕が敗れて気を失った事。スグルが戦って敵と空中戦になった隙に逃げ出した事。それくらいだ。


 敵との会話については一切話していない。この辺は逃げている最中、フローラさんやエレインさんとも話を合わせた。後で説明するから、あの辺りの会話内容については一切話さず、敵が現れて襲ってきたという話にしてくれと。

 スグルには教師や回りの目、耳があるので言えなかった。でもそういう事だ」


 なるほど、それならば少しは安心していいかもしれない。しかし気になる事がある。


「後でって、何時説明するんですか?」


「今日の放課後、僕の家で説明すると2人に言うつもりだ。多分今日の補習授業はないだろうから。

 あとミトさんには僕に前世の記憶がある事、転生の際に筋肉神テストステロンから恩恵を受けた事についてもう話してある」


 僕に、という部分に微妙な強調があった事で気づく。これはサダハル自身の転生については話したが、俺については話していないという事だろう。


「まさかサダハルが筋肉神テストステロンに選ばれた勇者だとは思いませんでした。確かに学力や筋力は優秀です。ただ勇者と言うにはちょっと頼りない気がします」


「記憶が戻ったのが6歳の誕生日だからさ。まだ4年経っていないし仕方ないだろ」


 やはり俺の事は言っていない感じだ。


「わかりました。僕も行きます。僕の事も一緒に話してしまった方がいいでしょうから」


 サダハルが転生の事を言ってしまった。なら俺だけが隠しておく理由はない。

 それに残党から襲撃を受けた事についても話しておきたい。俺にはリサがいるが他の皆さんはそうではない。だから注意喚起をしておいた方がいい。


「スグル君も勇者なのですか?」


 ミトさん、どうやらそんな予想をしていたようだ。確かにサダハルが勇者ならそれに近い能力を持っていてより成長が早い俺も勇者と考えても不思議ではない。


 この場でばらしてしまうか一瞬だけ考える。しかし先ほどの会話でサダハルが転生者であり、筋肉神テストステロンの恩恵を受けた勇者で在る事を口にしてしまった。

 なら当然の耳にも入ってしまっただろう。それならもう、言ってしまった方がいい。


「いえ、僕は勇者ではありません。筋肉神テストステロンが勇者召喚をした際、事故が発生しておまけで呼び出されたのが僕です。

 筋肉神テストステロンからはお詫びとして勇者と同じ恩恵を貰っています。ですが勇者ではないので使命等はありません」


「そう言えば言っていましたね。不具合イレギュラーで神々の戦いに関与する気はないと」


 ミトさん、俺のあの時の言葉を覚えていたようだ。流石というか何というか。

 

「あと他にも言っておきたい事があります。実は僕は一昨日と昨日、襲撃を受けました。街壁の外ではなく内側で、俺を不信心者インフィデル呼ばわりする連中に」


不信心者インフィデル……ツィーグラ派の残党ですか」


 ミトさんは知っていたようだ。父親がハムストリング侯爵だし聞いているのかもしれない。


「らしいです。詳細は後で」


「わかった」


「わかりました。でも……」


 ミトさん、何か気になっているようだ。


「どうかしましたか」


「スグル君は大丈夫なんですか。2日続けて襲撃を受けたという事は、また襲撃を受ける可能性もあると思うのですけれど」


「ええ」


 俺は頷く。少なくとも今は問題ない。


「今の僕には護衛がついていると思います。学校内に対しても何か対策をとっているようです」


 確認はしていない。しかしリサの事だ。間違いなく何らかの手は打っているだろう。だから俺は全く心配していない。


「そうなのですか。全く筋配けはいを感じませんけれど」


 そこは全く問題ない。


「ほぼ完全に筋配けはいを消しているんでしょう。それくらいは簡単に出来る人ですから」


 確かに筋配けはいは確認出来ない。しかしリサが本気で筋配けはい隠匿をかけたら俺では絶対わからないだろう。


 更に言うと登下校中は間違いなくリサ自身が警戒している筈だ。リサの性格的に間違いない。

 ついでに言うと今の会話も全部聞かれているとは思う。しかしリサなら大丈夫だろう。その位には俺はリサを信頼している。ある意味うちの父母より。


 まあそれだけリサに頼ってしまっている、という面もあるのだけれど。ただこれは仕方ない。いくらチート恩恵ありと言ったって、所詮俺は6歳の児童にすぎないのだから。

 

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