第11章 心眼を極めろ?

第43話 頑張れ超回復

 10分ほどして警備の筋士団きしだんがやってきた。3人を回収してそのまま支所へ連行。もはや慣れてしまった事情聴取を受け、そして筋士団きしだん支所を出る。

 

「それにしても何故僕を襲おうとしたのでしょうか。図書館で本を読んだくらい、わざわざ襲撃するような理由にはならないと思うのですけれど」


 これが俺の本音だ。シュウヘとアレした事は誰も知る筈が無い。だとしたら図書館で本を読んだ事だけ。


 それなのに何人も襲撃者を出してくる。それも潜伏していて表に出ないようにしている組織が。

 事実襲撃者4名は捕縛されている。俺に対してこの結果、どう考えても割に合わないだろう。


「お坊ちゃまにとってはそうかもしれません。ですが彼ら的に見てはまずいものを見てしまったのかもしれません。お坊ちゃまはそう意識はしていないとしても。

 もしくは今はまだ見ていないけれど、いずれ見る可能性が高い。そのように判断した可能性もあります」


 なるほど。なら奴らを追う為には図書館で堕神エストロゲンについて調べ続ければいい訳か。


「それでは勉強トレの続きをしましょうか。速度無制限車線が使用できなくなりましたから次のメニューに移ります」


 えっ!? 


「これで勉強トレ終了ではないんですね」


「もちろんです。まだウォーミングアップしかしていませんし、上半身は手つかずです。公園に移動して他の基礎勉強トレをします」


 公園とは国民の癒やしや健康維持のために設けられた緑が多い広場。つまりは前世日本と同じような意味で使われている。ただ設備の一部が少しだけ違う程度。


 ストレッチや自重トレ等に使える芝生のグラウンド。

 小児や老人の斜め懸垂用鉄棒、一般の高鉄棒や鯉のぼり懸垂ヒューマンフラッグ用横鉄棒。

 水平から逆さづり状態まで様々な角度の腹筋用ベンチ。

 プッシュアップバー付ベンチやディップススタンド。

 ドラゴンフラッグ用トレーニングベンチ。

 一般にこの辺の施設が良く使われる。


「ディップススタンドが隣り合わせに空いています。ちょうどいいので持久プランシェプッシュアップをやりましょうか」


 いきなり凶悪な勉強トレメニューが出てきた。

 プランシェとは上水平とも呼ばれる全身勉強トレだ。腕立て伏せをする体勢で足を床から浮かし、両手だけで支え宙に体を浮かせる。

 この状態で腕を曲げ伸ばしするのがプランシェプッシュアップ。


 この辺は一般の勉強トレではあまりやらない。6年1組では流石にほぼ全員が出来るけれど、それでも30回やると脱落者が出る。

 それを持久、つまり時間無制限でやるとは……


「無制限だと辛いので、100回にしましょう。勿論私も一緒にやります。かけ声も私がかけましょう」


 仕方ない。何とか100回耐えるとしよう。

 並んでいる右側のディップスタンドにリサが手をかける。俺も慌てて左のディップスタンドへ。両腕で体重を支え、バランスをとりながら身体を伸ばす。

 横を見るとリサが既にスタンバイしていた。


「それでははじめましょうか。では1、2……」


 ◇◇◇


 何とか無事100回出来た。しかし腕と手首がかなり辛い。もちろん他の筋肉も結構厳しい。

 なおリサは平然としている。どれだけ鍛えればこうなるのだろう。ちょっと俺には想像出来ない。それほど筋肉を感じさせない体型なのに。


「それでは次はドラゴンフラッグです。これも壁際のトレーニングベンチがそこそこ空いているのでさっさとやっておきましょう」


 また高難易度かつきつい勉強トレだ。さっきのプランシェプッシュアップ100回だって充分鬼強度だと思うのだが。


◇◇◇


 ドラゴンフラッグの後はリサが用意したバナナ&蒸し鶏を朝昼食で食べ軽く休憩。

 そして更に片足ジャンプスクワット、鯉のぼり懸垂ヒューマンフラッグ、フロントレバーと限界近い鬼勉強トレが続く。


 整理運動代わりのバーピーとストレッチをやった後には、午後に図書館へ行こうなんて余裕は全く無くなっていた。

 まっすぐ立つのすら辛い。家まで歩くだけで精一杯だ。


 ひょっとしてこの勉強トレは俺を余分に外に出さない為だったのだろうか。そう思ってももう遅い。


「お坊ちゃまはもう少し基礎能力を鍛える必要があるようです」


 いや違う、どう考えてもリサの基準はおかしい。しかし俺はそう口に出せない。

 何せリサ、俺と全く同じ量の勉強トレをこなしているのだ。回数のカウント等をして、更に俺のフォーム等に注意しながら。


 公園でやったのは自重トレ。だからリサの方が大人だから有利という事はない。むしろ身体が軽い俺の方が有利な筈。

 それでいて俺はボロボロ、リサは少なくとも表に疲れを出していない。


 何とかシャワーで汗を流し、その後昼食を食べたがそこまでだった。筋肉痛でベッドから動けなくなってしまった。


 リサはいつも通り家事をしたりした他、自室で何処かへテレタイプで連絡したようだ。キーボードを叩く音と機械式プリンタのガチャガチャいう音が聞こえたから。

 連絡先は実家か、それとも別の場所か……。確認できないまま、俺の意識は睡魔によって奪われた。


■■■ 蛇足の用語解説 ■■■

 

 ○ ディップススタンド

   高さが約80~90cm程度の鉄棒が2本、平行に並んでいる器具。上半身の筋肉を鍛えるために使用する


 ○ テレタイプ

   電話がないビルダー帝国で使われる通信機器。要は通信できるタイプライターだと思って欲しい。

   それなりにお高い機械(装置だけで800万円相当。他に通信設備維持費が月3万円~)だから一般家庭にはそんな物は無いのが普通。


   ただ通信回線そのものはある程度の高級住宅地には引かれている。これは一定以上の戦力持ちの自宅には、通信回線を用いた非常時招集システムが接地されているため。接続されているのはテレタイプ端末ではなく非常呼び出し用ベルだけれども。

   

   ビルダー帝国の通信交換局ではクロスバー式の自動交換機が実用化されて稼働している。だったら電話も出来そうな気がするが、何故か存在しない。連絡は紙に残すべきという発想なのか、会話をしたいなら直接筋肉を使って会いに行けという思想の為なのかは不明。


■■■ 

 ここから下は、本文中に出てきた高難易度&高負荷のトレーニングの説明です。ただ文章で説明してもわかりにくいので、検索して写真や動画で確認する事をおすすめします。

■■■ 


 ○ ドラゴンフラッグ

   ベンチに仰向けになり、肩甲骨部分のみで全身を支え、そこから下部分を床につけずに足をゆっくり上下させるという自重トレーニング。出来たら威張れる。


 ○ 片足ジャンプスクワット

   その名の通り片足でジャンプするスクワット。やった事が無い人がこの文字だけを読むと『知っている動きの組み合わせだから他より簡単そう』と思うかもしれないがとんでもない。


 ○ 鯉のぼりヒューマンフラッグ

   垂直に伸びる棒を両手で握り、鯉のぼりのように真横に身体を伸ばす。出来たらその場のヒーローになれるわかりやすい高難易度トレ。


 ○ フロントレバー

   吊り輪(無ければ鉄棒)を掴んで腕を伸ばしてぶら下がり、頭から足先までを地面と平行にまっすぐキープする高難易度トレ。鬼のように腹筋に負荷がかかるらしい。

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