第3部 潜んでいた敵

第10章 敵影

第38話 隠匿

 肉体的精神的疲労だけではない。筋肉痛も酷すぎた。いくら俺の筋肉が特別製でも限界を越えていたようだ。

 結果、俺は実習から戻った翌日の午前中まで動けなかった。


 しかし使い切った筋肉は充分に休憩をとる事で超回復する。おかげで俺の筋力その他のステータスはそこそこ上昇。


『スグル・セルジオ・オリバ 筋力72 最大99 筋配けはい78 持久75 柔軟75 回復90 燃費38

 特殊能力:回復5+ 持久5+ ステータス閲覧 前世記憶』


 これでもまだサダハルの方が上だ。でもそれは仕方ない。奴とは恩恵が同じ上、年齢差は3年あるのだから。


 さて、折角超回復したのだ。本当はこの筋力を試しに魔物討伐に出向きたい。しかしリサによると王都トリプトファンでは現在、街門の外へ出る事を禁止しているらしい。


「走って1時間程度のところに中級使徒メタボリックが出たのです。仕方ないでしょう」


 ならお試し討伐は諦めるしかないだろう。

 しかし他にもやりたい事はある。シュウヘは言っていた。堕神エストロゲンの嘆きについて調べろと。


我が神メタボリックが顕現されなくなって久しい。使徒メタボリックも今や2派に別れもうした。筋肉神テストステロン悪魔カタボリックは真の敵では無いとする『嘆き』派と、両者とも相容れる存在ではないとする『殲滅』派に』


 この『嘆き』とは『堕神エストロゲンの嘆き』の事だろう。そして『嘆き』派の立場は『堕神エストロゲン使徒メタボリックにとって、筋肉神テストステロン悪魔カタボリックは真の敵では無い』らしい。


 考えてみれば裏付けっぽい事実は幾つかある。例えば父マユミから前に聞いた言葉だ。


『これはGLUとの協定だ』

『もちろん全ての使徒メタボリックとの間にそういった協定を結べる訳ではない』

『結べるかどうかは使徒メタボリック次第だ。私が協定を結んでいるのはGLUだけ。GLUはこの北に領域を持っている。互いに消耗しない為にも有効な協定だ』 


 相手を信頼できないなら神の名で協定を結んでも信頼など出来ない。神の名の下に平気で協定を破るだろう。地球の西洋史に実例が山ほどあったりする。

 つまり使徒メタボリック、相手によっては協定を結べる程度には信頼できているという事だ。


 あと実際シュウヘは話が通じる奴だった。奴も俺達を本気で全滅させようとはしていなかった。その気ならサダハルにとどめをさしていただろうから。


 しかし一方で俺の知っている範囲では普通、堕神エストロゲン使徒メタボリックは絶対悪のような扱いを受けている。共存する事など不可能で、信頼なんてもっての他という感じで。


 この違いは『嘆き』派と『殲滅』派の対立構造と似ている。そう俺は感じるのだ。


 そんな訳で俺は『堕神エストロゲンの嘆き』について調べる為、帝立図書館へ。


 帝立図書館はビルダー帝国最大の図書館。出版されているほぼ全ての資料を蒐集し保持している。調べ物をするには最高の場所だ。


 貴重な資料が多い為、13歳未満の児童は本来帝立図書館に入る事は出来ない。ただし帝立学校の筋士団きしだんコース、あるいは文幹ぶんかんコース在籍中の生徒トレーニーは例外的に入る事が可能。

 俺は受付で生徒トレーニー手帳を見せて中へ。


 さて、まずは百科事典で確認だ。

堕神エストロゲンの嘆き』について記載があればそれで良し。なくても類する言葉や関連する分類がわかるかもしれないから。

 

 ◇◇◇


 2時間ほど開架書棚をうろうろした。しかし『堕神エストロゲンの嘆き』、及びそれに関連する内容は見当たらない。

 

 なおかつ俺は微妙な違和感がある。どの本も思想が偏っているのだ。

堕神エストロゲン使徒メタボリックは悪で滅ぼさなければならない』

筋肉神テストステロンは絶対である』

 つまり俺が以前は普通と思っていた、父の話やシュウヘと話した感想とは異なる方向に。


 誰かが何かの意図をもって、堕神エストロゲンが悪であるという内容以外の本を隠してしまったかのようだ。なら隠された本は何処にあるのだろう。


 少し考えて思いついた。隠してあるだろう場所からそれらの本を取り出す方法を。


 ここは開架書庫だ。置いてある本はどれも自由に手に取って読む事が出来る。これが図書館では無く本屋だった場合、棚に並んでいる本が読める本のほぼ全て。


 しかしこの図書館には閉架書庫がある。帝立図書館の場合はそちらの方が在書数が遙かに多い。きっと今の俺が探している本はそっち、閉架書庫の方に隠されている。廃棄とか焚書とかしていなければ。


 そして閉架書庫の本は特別な事情がない限り出して貰う事が出来る。入口近くにあるカード目録で該当の本を探し、受付カウンターで請求するのだ。


 それではカード目録が入っている棚が並んでいる検索コーナーへ。まずは素直に堕神エストロゲンで該当するカードをざっとめくってみる……


堕神エストロゲンの嘆き』そのものの項目はない。それでも近づきそうな書籍は幾つか見つかった。そして更に関係する本に近づけそうな手応えも……


 1時間近くカード目録をたぐった結果、関連がありそうな本をある程度ピックアップすることが出来た。


 『神々との対話』、『堕神エストロゲンとは何か』、『使徒メタボリック調査録No.140~142』、『堕神エストロゲン研究No.98』、『上級使徒メタボリック協約会議録』、……


 ピックアップした方法はこんな感じだ。

 まずは堕神エストロゲン関係で、開架と閉架、両方にある本を調べてみる。


 たとえば『使徒メタボリック調査録』という専門誌はNo.1からNo.150まで発行されている。このうちNo.143からNo.150は開架書庫で公開されていて、それより古いNo.142以前のものは閉架書庫だ。


 しかし何故No.142以前が閉架書庫なのか理由がわからない。年数的にも冊数もきりがいいとは感じない。

 これはNo.142に何か開架に置いておけないような事が書かれているのではないか。もしくはNo.142に近い140とか141とかに。そういった推理が可能だ。


 同様に他の研究資料や記録も同じだ。微妙に不自然な号で仕分けられているものが多い。


 そしてこれらが開架から閉架へ移った時期を確認。どれもがほぼ同じ時期に集中している。これでこれらの本を隠した時期がつかめる訳だ。


 更に堕神エストロゲン関係で同時期に閉架に移った本を調べてみる。そこそこの数があった。このうち関係が深そうな書籍の書誌情報と分類番号、所蔵している棚番号をメモしておく。


 全部で24冊ほどピックアップ出来た。さて、それでは受付カウンターで請求をしてみよう。1回につき出して貰える数には限度があるから、まずは怪しい順に5冊まで。

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