第9章 堕神の勇者と邪剣・夜

第33話 堕神の勇者

 姿が見えなければステータスは確認出来ない。しかしこの筋配けはいからすると俺やサダハルより強そうな気がする。


 逃げるべきか。一瞬だけ考えたがすぐに無理だと悟った。筋配けはいの移動速度、異様に速い。俺が街道を全速力で走るのと同じくらいだ。


 逃げられない。ならば待ち受けるしか無い。それが敵であろうとなかろうと。


「何なんだろう」


「わからない」


 フローラさんとサダハルの会話。この会話の間でも300m近く近づいている。

 弾丸のような塊が空中から飛来し着地した。背を伸ばすと人の形となる。ターバンと褌をまとった筋肉質な男だ。


『シュウヘ・イナ・ガオ 12歳 身長170.5cm 体重99kg

 筋力92 最大133 筋配けはい95 持久75 柔軟75 回復95 速度75 燃費25

 特殊能力:回復5+ 持久5+ ステータス閲覧 前世記憶

 称号:堕神エストロゲンの勇者、中級使徒メタボリック、航空力士(小結級)』


 敵だ! しかも敵の勇者! しかもステータスが俺やサダハルより上。

 一部わからない称号があるけれど、間違いなく格上の相手だ。


筋肉神テストステロンの勇者とその仲間よ、お初に。中級使徒エストロゲンが1人にして堕神エストロゲンの勇者、シュウヘ・イナ・ガオ、ここに見参」


 ミトさんはともかく他の人に勇者と聞かれてサダハルは大丈夫だろうか。なんて考えても相手がそう言った以上仕方ない。


「サダハル・ジェイ・カトラー、帝立学園初等部6年筆頭。今はそれ以外の肩書きはない」


 サダハルは勇者という事を自分からは言わない方針のようだ。

 そしてシュウヘと名乗ったターバンに褌姿の男は頷く。


「なるほど。勇者としての公認前、故に肩書きは生徒トレーニーとしてのみ。理解した」


 後でこの辺、フローラさん達に説明が必要かもしれないと思う。ただその後でが訪れるならば、だが。

 このシュウヘと名乗る男、俺達より強い。少なくともステータス上は。今ひとつ勝てる気がしない。


 先生達は筋配けはいに気づいているだろうか。中級使徒メタボリックなら先生達が数人いれば何とかなるとは思うのだが。

 なお田常呂たどころ浩治こうじは何も言わない。いつもは饒舌なのだが今は黙ったままだ。


「中級使徒メタボリックであるシュウヘ殿は何故ここへ」


 サダハルがわざとらしく尋ねる。


「異なる神の勇者の実力を確かめに。此処で一番、手合わせ願いたい」


 そうなる訳か。さてサダハルはどう答えるだろう。


「相手をするつもりはない、そう答えた場合は?」


「戦わざるを得なくなるようするだけ」


 ミトさん達を狙われてはまずい。つまり戦うしかない訳か。


「理解した。場所は此処でいいか」


「その通り、此処で即時手合わせする事を望む」


 仕方ない。


「下がろう。此処は危険だ」


 ミトさん達に声をかける。


「でもサダハル君が」


「ここにいてはサダハルも本気を出せない」


 これは本当だ。俺でもこの辺りにクレーターが出来る程度の一撃を放つ事が出来る。


「ミトちゃん、下がろう」


 フローラとエレインさんがミトさんの手を引いてこの場を離れる。100mくらい距離をとった。サダハルの実力を考えるとまだまだ危険かもしれない。そう思うがこれ以上だと目視しにくいし仕方ない。


 なんて思った瞬間、ミトさんがダッシュした。方向は下、拠点がある方だ。先生達を呼びに行こうというつもりだろうか。


「駄目だ!」


 たどころが叫ぶ。次の瞬間、シュウヘがふっと消えた。


『上だ!』


 田常呂たどころ浩治こうじに言われて俺は気づく。シュウヘが飛んでいる。ジャンプしただけではない。手足の動きや呼吸、筋愛きあいで空中で動きを制御している。 


 シュウヘがミトさんの10m前へと降り立った。


「手合わせに無粋な事は無用」


「ミトさん、悪いが戻ってくれ」


 サダハルにそう言われて、ミトさんはフローラさん達の所へ。


『奴は空中でもかなり自由に動けるようだ。あの技は、ひょっとして……』


 田常呂たどころ浩治こうじは何かに気づいているようだ。


『知っているのか、あの空中を飛ぶ技を』


『似た技を知っているだけだ。まだわからない。もしそうだとしてもここから見て異世界の技だ』


 やはり何か知っているようだ。スグルも記憶を探すがすぐにはわからない。


 サダハルは軽く足を開いて自然体でシュウヘの方を向き直る。


「わかった。こっちはいつでもいい」


「では、参る」


 シュウヘは再び飛び上がった。跳躍力だけでなく腕や足の動き、更には呼吸まで使って空中で姿勢制御し、サダハルに迫る。


 サダハルは軽く膝を曲げ、ファイティングポーズを取った。しかしそれ以上動かない。飛行してくるシュウヘを待ち構えるつもりのようだ。


 シュウヘはサダハルの方を向き、両手を交互に高速で押し出した。ドン! ドン! 高速で押し出された空気の塊がサダハルを襲う。


「パーフェクトディフェンダー!」


 サダハルは両腕を上に曲げて顔の前に掲げる。襲ってくる空気塊を腕の筋肉と捻りで外側へとはじき飛ばした。


 空気塊を放ったシュウヘはサダハルの5m位前へと着地。サダハルが一気にダッシュして距離を詰める。

 しかしサダハルの間合いに入る直前、シュウヘは頭を前にして前、サダハルに向けて飛んだ。


 サダハルは両手を前へ突き出す。シュウヘのターバン頭を両手で受け止めるが体重の差のせいか後ろへとはじき飛ばされる。それでもサダハル、姿勢は崩さない。膝を曲げて5m後方で着地。


 サダハルとシュウヘが向き合う形となった。


「悪くない敵に候」

 

「そうか? こちらは間合いに入れなくて苦労しているんだが」


「空中よりの攻撃こそ我が流派の神髄」


『やはりそうか』


 田常呂たどころ浩治こうじが脳内で呟いた。


『奴は航空力士だ。はるか11世紀から伝わる大空を土俵とする格闘技、アフガン航空相撲の』


■■■ 蛇足の用語解説 ■■■


○ アフガン航空相撲

  そんなのあるか! そう思う方はきっと真面目な常識人。しかし実際に『アフガン航空相撲』をWebで検索すると解説記事やイラストが幾つもヒットする筈だ。

  あとは各自検索して確認してほしい。ネタとして。概要はPixivやニコニコ大百科、民明書房的詳細はアンサイクロペディアがおすすめ。更なる詳細は2chの過去ログ参照。


○ パーフェクトディフェンダー

  キン肉マンに出てくる完璧超人ネメシスが使用する防御技。両腕の筋肉で相手の攻撃を防ぐ。キン肉族の開祖シルバーマンが得意とした技でもある。

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