第32話 藪をつついて
「だんだん坂がきつくなっている感じだよね。まだまだ問題無いけれど」
フローラさんが言うとおり、傾斜が少しずつ急になっている。
「でもおかげで後ろ方向、かなり見晴らしが良くなってきました」
「本当」
俺も走りながら振り向いて確認。確かにミトさんやエレインさんの言った通りだ。
既に俺達がいる場所、森の木々よりずっと高くなっている。かなり遠くまで見通せる状態だ。もう少し上まで行けば拠点だって見下ろせるだろう。それくらいに。
更に走って行くこと数分。そろそろ今の速度でもきついと感じるあたりで本日の終点が見えてきた。
前方は岩石中心の高い崖、そして中程に幅200m位の谷間が続いている。そこから川が流れているけれど平原側に50m行ったあたりで地下に水が消えている状態。そこから涸れた河原が下方向、ここへと続いている。
「川の水があるのはありがたいな。これで魔物と戦って汚れても洗うことが出来る」
「確かにそう。スライムを倒すと粘液がつく」
ぎりぎり川に水があるあたりの河原、つまり平原のほぼ一番上で俺達は足を止めた。
「ここでいいと思います。少し休憩したら討伐を開始しましょう」
「そうだね」
それぞれ適当な岩に腰掛けて休憩。
「拠点が見える」
森の中、川筋が合流する付近の右側に拠点の屋根が見えた。腐食防止で赤く塗ってあるのでわかりやすい。
「魔物はそこそこいる感じだ。10体程度は簡単だろう。むしろある程度
やはりサダハルはかなりの範囲の
実はそれなりに実戦をしているのではないかと僕は思う。サダハルやミトさんの家は筋肉貴族家だし、そういう教育をしていてもおかしくない。
「例年は一班につき、コボルトかゴブリンを5体倒せれば上出来だって聞いているけれどね。今年は多いのかな、魔物」
「多分違うと思います。森の中で横方向を見るのと、こうして上から見るのとでは
俺の場合ここからならコボルト以上の魔物を20体以上確認出来る。
1番の範囲内に限ってもだ。
あと後ろ方向の谷にもそこそこ反応がある。
ゴブリンだけでも5匹ほど。
うち手前に2頭、少し遠くに3頭。
まずはこの背後の
「この後ろの谷にいるのを先に退治しておきませんか。ゴブリン2体の
なお言ったのは
「2体ならさっき討伐できなかったエレインとスグル君メインでいいかな。あとは状況に応じてという事で」
「了解。なら
エレインさん、やる気だ。
「私はいいと思いますけれど、皆さんはどうですか?」
「いいと思うよ。まだまだ機会はありそうだしね」
俺とサダハルも頷く。
「なら決定。早速やってみる」
エレインさんが立ち上がったので俺も岩から立ち上がって準備。まあすぐ動けるようにしただけだけれど。
「では挑戦。サイドチェスト・ライト!」
エレインさん、横方向に
手前側のゴブリン2体が反応、こちらへ走り出した。
「前の1体は私がやる。後ろお願い」
「わかりました」
問題ない。
エレインさんは先ほどのミトさん達と同様、自分からダッシュして倒すようだ。ならばという事で僕も少し間を置いてついていく。
エレインさんは右へ飛んで槍を躱し、更に左蹴りで先頭のゴブリンを撃破。僕は左から接近して右手刀でゴブリンの首を狩る形で。
あっさり討伐に成功。討伐部位の左耳を切り取って、水場で洗って収納。
「倒してみると大した事はない。ただ討伐部位を取るのがちょっと面倒。手も汚れる」
「そんな感じだよね、実際。でもここは水場があるからましかな。汚れても洗えるし。
それじゃ今度は南西側、私がやってみていい?」
◇◇◇
「まだ9時前。でもなんか終わった気がする」
「確かにそうだよね。もう他の班の4倍以上は狩っていると思うよ」
早めの朝昼食を食べながらエレインさんとフローラさんがそんな事を言っている。何せ既にゴブリン13体、コボルト16体を倒しているのだ。そう感じても仕方ない。
それに終わったと感じる理由はもうひとつある。
「そこそこの範囲には魔物の
「崖のない方向はほぼ全て
そう、俺が見てみても近くにコボルト以上の敵はいない。勿論巣穴にこもっていたり寝ていたりするものはいるかもしれない。しかしその辺が反応するようになるまではやはり時間が必要だ。
なお俺が全力で
それはやめた方がいいだろう。だから口には出さない。
なんて考えていた時だった。
「なら、見えてない位の遠くにもわかる位、思い切り
サダハルがなんとも脳筋的な案を口にした。
でも確かにそうだな、そう
それに魔物を減らす事そのものは悪い事ではない。むしろ推奨される事だ。
「範囲外の魔物を寄せるような事をするのはあまり良くないと思いますけれど」
「全部倒せば問題はないだろう。それにこの辺ならそこまで強い魔物もいないだろうからさ」
「確かにそうだよね。あと1体倒せば30体を超えるし」
「魔物は減らすべき対象」
フローラさんもエレインさんも乗り気のようだ。実は
『藪をつついて蛇を出す、なんて諺が日本にあったけれどな』
ただ
『そこまで怖い魔物が出てくるとは思っていない。単なる用心、念のためだ』
「それじゃやってみよう。地図で見た限りそれほど大きな谷でもないし、出てこないかもしれないが。
では、モスト・マスキュラー!」
サダハルが強烈な
フローラさんが顔をしかめた。
「やり過ぎじゃない? この
その時だった。
ドン! 前方遙か遠くから強烈な
「フロント・ダブルバイセップス!」
指定体操服の上衣が破れる位の
それでもやってきた
何だ、何が起きたんだ。この
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