第31話 最初の獲物

 この辺は森の中と違って見通しはいい。だから近づいてくる魔物をそこそこ遠くから確認可能だ。


 コボルトは30m以上先から視認できた。ゴブリンより更に細くて小さめ。黄色い毛が身体を覆っていて、直立歩行をする狐といった感じの生き物だ。


 ゴブリンと違い武器は持っていない。攻撃は前足の爪と牙による噛みつき。その辺は授業でひととおり習っている。当然ミトさん達も知っている筈だ。

 

「右側を私が相手します」


「なら私は左側ね」


 ミトさんとフローラさんが左右に並ぶ。そしてコボルトは左側、ミトさん側の方がやや前。

 念のためコボルト2匹のステータスを確認してみる。筋力11と筋力10。大した事はなさそうだ。


 ギューオ、ギューオ。コボルトが吠える。こちらの姿を視認したようだ。ほぼまっすぐこちらに向かってくる。走ってはいるのだが速度そのものは人の小走り程度と遅い。


 ミトさんが軽く膝をまげた。次の瞬間一気に前へとダッシュ。圧倒的な速さで加速しコボルトに一撃、そのまま左側を通り過ぎる。

 ドサッ、ミトさんの一撃を受けたコボルトが倒れた。しかしもう1体のコボルトが反応するより早く第二撃、フローラさんが間合いに踏み込んでいる。


 グシャッ! 何かが潰れるような音がした。一瞬後、胴体がちぎれかけたコボルトが低く宙を舞う。フローラさんの蹴りでとばされたようだ。


「さて、次は僕の番だな」


 サダハルが立ち上がる。ゆっくりに見える動作で倒れたコボルトやミトさん達の前に出て左前に構えた。

 キュワー!、キュイー! ゴブリンの鳴き声が近づいてくる。

 

 50m位先、ゴブリンが姿を現した。やはりコボルトより一回り大きい。棒に石尖をつけただけのような槍を持っている。接近速度は先程のコボルトと同程度。


 サダハルはこちらからは近づかず、待ちうける方針のようだ。構えたまま動かない。

 キュワー! ゴブリンがサダハルを視認したようだ。槍の先端をサダハルに向け、奴としてはおそらく全速力で向かってきた。


 間合いはもう3m程度。ゴブリンが槍をサダハルに向けて突き出す。サダハルは向かってくる槍をさっと左手で払いのけた。そして身体をひねって右拳をゴブリンの頭部へと叩きつける。

 ゴブリンの頭がぐしゃっとへしゃげた。頭部の半分以上を失ったゴブリンはそれでも2歩ほど前進して、そして倒れた。


「思ったより手応えがないな」


 サダハルはそう言って右手をぶらぶらさせる。


「あとは討伐部位の刈り取りです。人型や獣型魔物の場合は左耳、それ以外は核石か副核が討伐部位になります」


 ミトさんは冷静だ。既に自分が討伐したコボルトの耳を手刀で切って採取している。


「あ、そうか。頭ではなく胸を殴れば良かったかな。思ったよりもろかったから拳で潰れてしまった。左耳は残っているだろうか……」


「あとそんな体液かぶってサダハル君、平気? 何処かで洗ってきた方がいいんじゃない?」

 

 確かにフローラさんの言うとおりだ。サダハル、右肩から先がゴブリンの体液で汚れてしまっている。俺がはじめてゴブリンを倒した際、力を入れすぎて胴体を貫通させてしまった時と同じだ。


「ああ。討伐部位を取ったら洗うとするよ。ここは枯れてはいるけれど川筋だし、5mも掘れば水が出てくるだろう。おし、何とか左耳は残っていた」


 地面は砂礫だ。全力パンチを数発繰り返せばそれなりの穴は掘れるだろう。


「そういえばミトちゃん、拳で殴ったのに汚れていないよね。私は汚れるのが嫌だから蹴りで倒したのに」


「平手で胸と腹の境を押しつぶす要領で倒しました。コボルト程度ならこれでも充分倒せると本に書いてありましたので」


 ミトさん、やはり優等生的に冷静だなと感じる。


 三者三様だがとりあえず無事魔物の初回討伐は成功だ。そして他に近づいてくる筋配けはいはない。

 なら僕とエレインさんの出番だ。


「それじゃせめてスライム討伐でもしておこうか」


「了解」


 エレインさんが頷く。


 ◇◇◇


 スライム2匹を討伐した後、サダハルが掘った井戸というか泉っぽくなった場所で手を洗い、そして更に川筋を遡る。


「一度魔物を倒したからかな。周囲の筋配けはいがわかりやすくなった感じ。思ったよりいるんだね、魔物って」


「確かに。スライムなんて探せばそこら中」


「そうですね。今ではコボルトやゴブリンも5匹程度は感じられます。少し遠すぎるのを含めて」


 どうやらミトさん達も魔物の筋配けはいの見方に慣れてきたようだ。


『魔物を倒したから経験値を得てレベルアップ、という事ではないようだな。経験値とかレベルという概念をステータスからは読み取れない』


 田常呂たどころ浩治こうじが訳わからない事を言っているのはいつも通り無視。


「どうしよっか。ここでもう少し狩りを続けるか、予定通り一番高いあたりを目指すか。ここでもそこそこ狩れそうだよね」


 反論したほうがいいだろうか。そう思ったところでミトさんが口を開く。


「森とそこまで高さが変わらない此処でもこれだけ筋配けはいを感じるんです。ここからでも見通しが良さそうに見えるあそこまで行けば、より多くの魔物を感じられるのではないでしょうか」


 まばらな植生なので前方かなり先まで視認できる。そして明らかにそちら側、此処より高くて見晴らしが良さそう。

 誰の目から見てもそう見えるだろう。


「確かに。上から確認しておきたい」


「そうだね。なら一気に登っちゃおうか」


「僕も登る方がいいと思う。スグルは?」


「僕もそう思います」


 全員の意見が一致した。フローラさんが頷く。


「じゃあ一気に走るよ」


 フローラさんはそう言って走り始めた。俺達も当然一緒に走り出す。

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