第30話 討伐開始

 足元の礫が大きくなり周囲の雑木が更にまばらになったあたちで、赤色杭を確認。


「この杭の向こう側は1番でいいんだよね」


「その筈」


「なら到着! 休憩にしよっ!」


 杭を超えたところで小休止。

 今いる場所は涸れ川の河原で足下が大きめの砂利、雑木や草、そして岩といった場所。大雨が降ったら水が流れる川になるのだろう。

 所々にある大きめの岩のおかげで座る場所には困らない。


「6時35分。まあまあの時間」


「あとはこの周囲に獲物がいるかです。それらしい筋配けはいは幾つか感じますが、これが何なのかはわかりません」


 ミトさんは周囲の筋配けはいが結構読めるようだ。


「何か危険そうなの、いる?」


「そこまで強い筋配けはいはありません。普通の初等部1年くらいの筋配けはいが3個、2個とあって、あとはもっとずっと弱い筋配けはいばかりです」


 ミトさんがみつけたのは南西側にいるコボルトだろう。だとすると範囲300mくらいまでの筋配けはいをミトさんは読み取れるようだ。


「私はそこまでわからない。フローラ、どう?」


「私も無理ね。右側、あの草むらの陰に小さい筋配けはいを感じるけれど、それくらい」


 確かにそこにはスライムがいる。

 あとコボルトより強い魔物としては、少し遠いが右前方700m位のところにゴブリンがいる。それを言った方がいいだろうか。


『言わないでいいと思うぞ。ミトさんレベルでも生徒トレーニーとしては充分出来る方だ。必要がなければあまり能力で目立たない方がいい』


 そうかもしれない。出来るところを見せたいけれど、やりすぎて気持ち悪がられては台無しだ。なんて事を考えた時だった。


「試してみればいい。そこまで強い筋配けはいはいないから、そう困ることはないだろう。違うか、スグル?」


 サダハルが俺にそんな同意を求めてきた。つまりここで筋肉挑発ポージングをして敵を寄せてみようという事だろう。


 サダハルはどこまで筋配けはいを読んでいるのだろう。俺にはわからないが、提案そのものは悪くない。

 ただ軽く注意はしておいた方がいいだろう。だからこう言っておく。


「ええ、大丈夫だと思います。ただ最初ですから全力では無く軽めでいいでしょう。何なら僕がやりましょうか」


「いいや、最初だから僕にやらせてくれ。そこそこ程度でとどめておくからさ」


「わかりました」


 それではサダハルのお手並み拝見といこう。


 サダハルは俺達から見て河原の下流右側、包囲で言うと南西側へと歩いて行き、そして立ち止まる。

 どうやら南西にいるコボルト狙いのようだ。それともその更に先、700mくらいの方向にいるゴブリンも狙っているのだろうか。


「それでは最初という事で軽めに行こう。フロントリラックス!」


 リラックスという名の割にはちっともリラックスしていない。むしろ全身ガチガチに力を込めたポーズだ。

 

『見事だな。筋愛きあいがきれいに前方向にだけ飛んでいる』


 田常呂たどころ浩治こうじの言うとおりだ。俺の筋肉挑発ポージングよりずっと力強いし筋肉の陰影もよく出ている。思わず『デカい!』と声をかけたくなる位だ。


 筋配けはいが動き始めた。


「コボルト2匹とゴブリン1匹、スライムは遅いから無視していいと思います。

 いずれもサダハル君の正面方向からです」


『さっきは言わない方がいいって言った癖に今は言うのかよ』


『皆は魔物相手は初めてだ。心の準備を考えれば言っておいた方がいいだろう』


 確かにそうかもしれない。けれど微妙に納得しきれない。


「わかった。それじゃどうする? 皆で戦う?」


 いや、それはかえって面倒だろう。田常呂たどころ浩治こうじもそう思ったようだ。


「1人1体で充分ですよ。あと60秒ちょいでコボルト、その30秒後にゴブリンという感じです。誰が相手するか、それまでに決めましょう」


 たどころの言葉にサダハルが頷く。


「ならゴブリンは僕がやろう。コボルトも申し出が無いなら僕がやるけれどどうする?」


「コボルト1体は私がやります」


 ミトさんがそう言ってサダハルの前に出た。


「ならもう1体は私でいい?」


 コボルトがミトさんとフローラさん、ゴブリンがサダハルという事になったようだ。


「サダハル君もスグル君もかなり遠くの魔物の筋配けはいまで見えるんですね。私はゴブリンまでは気づきませんでした」


 ミトさんが前方を注視しつつそんな事を言う。


「僕は少し前に魔物と戦ったから、それで慣れているだけです。ミトさんも少し慣れればわかるようになると思います」


「僕も実は奥のゴブリンまでは気づいていなかったな。こっちに向かって動き出してやっとわかった位だ」


『嘘だ。明らかに筋肉挑発ポージングで狙っていただろう』


 確かに田常呂たどころの言う通りだ。スグルもそう思う。


「でも今の筋肉挑発ポージング、見事でした。無駄なく綺麗に決まっていましたし、筋配けはいも前方だけに綺麗に放っていましたし」


 勿論これはたどころが言ったのだ。つまり先ほど脳内で呟いたのと同じ事を遠回しな言い方で言っただけ。


「全力で筋愛きあいを放つとここまで正確にはできないけれどさ」


 今のは狙い撃ったという自供だな。そうスグルは判断する。

 さて、俺とエレインさんが余ってしまった。ならもう少し簡単な作業をすることにしよう。


「それじゃ余ったエレインさんと僕は、3人の討伐が終わったら近くのスライムを退治しましょうか。さっきフローラさんが言っていた場所に1匹、その隣の岩にも1匹います。


 5mくらい離れて軽く筋肉挑発ポージングすれば出てくると思います。簡単な魔物なので手応えはないですけれど、魔物なので無視しないで倒しておきましょう」


「了解」

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