第8章 野外学習・本番
第29話 担当場所を目指して
野外学習、最初の1日は無難というか手応え無く終わった。
おそらく今日のハイライトは輜重訓練だったのだろう。俺自身リサに教わった時には苦労したし、坂道で進めなくなってたり道路脇の森に突っ込んだりなんて班もあったようだから。
ただうちの班についてはあっさり簡単に終わってしまった。リサに教わった事を僕が伝えたからではない。フローラさんが人力車について詳しかったからだ。
「うちのアホ兄が長距離人力車の車夫やっているのよ。初等部も中等部も
そんなフローラさんの指示で、
① 人力車はサダハルがメインで引っ張り
② ミトさんとエレインさんが荷室の左右について、指示に従って体重をかけて重心を変えて
③ 僕が後ろ押しと下り坂時のリアブレーキ担当
という形で人力車を動かした。
ミトさんは、
『何か実質男子2人に全てお任せしているようで申し訳ないです』
と気にしていたけれど、サダハルは、
『そうでもないさ。実際授業でやった時よりよっぽど楽だ。他の班は苦労しているみたいだから、これはフローラさんの指示のおかげだろう』
という感想。
僕も同意見だ。以前人力車を試した時と比べて段違いに楽でかつ速い。そのくせ60km/h出してもきっちり曲がるし止まるし不安感がない。
結果、他の班より1時間以上早く到着。
草刈りも実はミトさんとサダハルは俺と同じくらい手刀で広範囲を刈れたので10分かからずに終了。
残る作業は合同でやる拠点建設。これも人数総掛かりでやれば大した事はなかった。指示通り資材を運んで組み立てるだけだったから。
結果1日目は手応え無く終了。広い部屋に1組の男子全員雑魚寝という感じで就寝。そこそこ身体を動かしていたせいか他の人の
◇◇◇
ジャーン!
学校でもお馴染み銅鑼の音で起床。洗面した後は班行動だ。
「おはよー! よく眠れた?」
「ええ一応。そちらはどうですか?」
「なんか早寝過ぎて微妙」
「私はしっかり眠れました」
雑談をしながら朝食の準備。なお今朝のメニューは蒸し魚と蒸し野菜、蒸し玉子、玄米パン。実は昨日の夕食調理時に一緒に蒸しておいたものとパンを並べただけ。
魔物は夜間や早朝、夕刻によく動く。しかし野外学習中の討伐時間は2日目の自由行動時間である朝6時から夕18時まで。
なので少しでも朝早いうちに討伐現場へ向かおう。その為に朝食にかかる時間を効率化した訳だ。
『この世界の食はただの補給だ。楽しみに乏しい。やっぱりこういう時は皆でカレーを作ってだな……』
他の班も概ね似たような感じだ。
「それじゃ行こうか」
拠点から一度街道に出て橋の横から河原へ。ほんの少し上流で右から水がほとんど流れていない川が合流してくる。
この川筋を上流へ向けて遡るのが今回のルートだ。まあ下見でリサと走ったルートそのものだけれど。
走る速度はあの時の半分程度で30km/hくらい。石畳の街道と比べて足場が良くないからこれが普通だ。
このくらいなら俺でもこの場所を余裕を持って走れる。
「まだ他の班のエリアだから狩らないけれど、魔物の
「わからない。走りながら把握は無理。ミトは?」
「私も今はわかりません」
女子3名がそんな話をしている。
俺は一応ある程度把握できている。
例えば今いる場所から斜め右前方15mにはスライムがいる。
他にも森の中、右も左もスライムならそこそこ。
それ以上になるとちょっと遠いけれど右前方100m位先にコボルト3匹。
左は300mくらいのところにゴブリン1匹。
ただ今は僕らの班の範囲外だから余計なことは言わない。
前方に赤い杭が打ってあるところを発見。7番と2番との境だ。ここからだと図測1kmちょいで1番の領域。
「今の杭で2番に入ったから、次の杭で6番、その次でやっと1番に入るね。
1番に入ったらどうする? ゆっくり歩いて周囲の
「一度止まって周囲に魔物の
フローラさんとエレインさんがそんな事を話している。しかし実のところそこまで大量の魔物はいない。少なくとも俺が
スライムはかなりいるけれど、動きが無茶苦茶遅い。だから集まってくるのはゴブリンかコボルト。なら上手く集まったとしても10匹程度だろう。今の感じでは。
ただ一度に多数の魔物が押し寄せるというのは避けた方がいいのは確かだ。サダハルなら慣れてなくてもなんとかなるだろうけれど、他の3人が心配だから。
だから今のエレインさんの意見が正しいのだろう。
そう思ったところで先の風景が変わってきた。今までは左右が森。しかしこの先は水が涸れた河原といった雰囲気で、灌木と草メインだ。
植生の境目付近に赤い杭が打ってあるのが見えた。
「そこで6番のエリアだね。ならもう700mちょいで1番か」
「案外拠点から近い。帰りも楽そう。帰りは下りだし」
確かにそうだな。そう思いつつ俺達は走り続ける。
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