第27話 討伐場所の決定

「ヤー、これで最後の袋が決まったな。なら中身を確認して、まずは討伐場所の希望を話し合ってくれ。なぜなら討伐場所の希望は例年特定の場所に偏るからだ」


 ショー先生は生徒トレーニー全員が席についたところで、板書しながらの説明を始める。


「希望が重なる場所が多い場合、次のような順番で討伐場所を決める。

 ① 最初に希望を出した時点で、希望が重なっていない場所を選んだ班はその場所が確定。

 ② 重なっている班全部に2回目の希望場所調査を実施する。このとき選べるのはまだ決まっていない場所だけだ。

 ③ この希望調査で他と重なっていない場所を選んだ班は、その場所が確定。

 ④ 残った班で3回目の希望調査。これも希望が重なっていない場所はこれで確定だ。

 ⑤ それでも決まらなければ筋肉審判。種目は片足スクワット。これで勝った順に希望場所を決める。筋肉審判には何人出してもいい。班で一番長く続いた生徒トレーニーが班を代表する。

 集計の都合で討伐希望調査の1回目は14時20分までに出してくれ。以上だ。パワー!」

   

 早速話し合いで周囲がガヤガヤし始める。


「それじゃまず場所を決めようか。例年人気があるのは川沿いの街道と反対側、4番、5番、9番あたりらしいけれど、どこか具体的な希望ってある?」


 フローラさんが指したのは演習場所の南西部分にある、南東からの川と北東からの川の合流地点。

 森に面した広い河原という地形だ。


「森があって水場がある場所ですね。確かに魔物や魔獣が多く見晴らしがいい環境です。ただ他の班も同じような情報を持っていると思います」


「自重系ならサダハル君とスグル君を出せばまず勝てるよね、多分」


 確かに勝てる自信はある。自重系の筋肉審判なら身体が小さく体重が軽い俺が有利だ。ただし筋力そのものはサダハルの方が上。だからクラス全体で自重系の勉強トレ勝負をすると、最後は俺とサダハル2人で戦うなんて事が多い。


 自重系なら俺が6対4位で有利だ。ただベンチプレスやバーベルスクワットのように絶対的な負荷をかける勝負ではサダハルの方が圧倒的に有利になる。


 というのはともかくとしてだ。リサから聞いた案では、この割り振りでは1番、もしくは15番か17番となる。

 この案をどう言い出そうか。そう思った時だった。


「サダハル君かスグル君、何も言わないけれどひょっとして別の案を考えているんじゃないかな? もし良さそうな案があるなら言ってくれると嬉しいんだけれどな」


 フローラさんがそんな事を言った。ちょうどいい。話そうとした俺を田常呂たどころ浩治こうじが止める。


『サダハルが何か言いたそうだ。意見を聞いてからの方が面白いだろう』


 なるほど、それも一理ある。

 田常呂たどころの言ったとおりサダハルが口を開いた。


「個人的には道路沿いか河原沿いの出来るだけ拓けていて見通しがいいところがいい。魔物を寄せるには筋肉挑発で筋愛きあいを放つのが一番だ。なら多少の魔物の多さより筋愛きあいが届きやすい所の方がいいだろう」


 おっとサダハル、そこまで考えていたのか。流石前世の記憶と思考力がある勇者だ。しかしそれならリサから聞いた案の方がより完璧だろう。


「なら1番がいいと僕は思います。地図の植生記号で見るとここは荒れ地、地形的に扇状地上部なので大きな樹木が生えにくいのでしょう。

 それなら河原と同じくらい筋愛きあいが届くと思います。特に西北端付近、ここは他よりかなり高いので、1番の範囲の外まで筋愛きあいが届くんじゃないかと思います」


 サダハルが頷いた。


「なるほど、確かに高所でひらけた場所ならより遠くへ届くだろう。そこまで考えていなかった」


 サダハルは賛成してくれるようだ。さて、ミトさん達はどうだろう。


「そっか、筋愛きあいで寄せる方を重視する訳か。いいかも」


「確かに」


「私もそう思う。なら希望は1番で出そうか」


「皆それでいい?」


 少し不安を感じたので聞いてみる。


「ここで他の班と競り合いになることって無いですか」


「大丈夫。私が聞いた話では例年川沿い、それも下流の河原が広い辺りが一番人気。次が街道から入りやすくてそこそこ森が奥深い11番や12番。1番なら1回で競合なしで取れる」


 エレインさん情報だと大丈夫そうだ。


「私もそう思う。ただもし1番が駄目な場合、スグル君なら次善の策として何処がいいと思う?」


 ミトさんがそんな事を聞いてきた。


「それなら尾根のピークがある16番か17番あたりでしょうか。周囲より高い分筋愛きあいが届きやすいでしょうから。森の中なのでピークへ行くまでが大変ですし、木が多いので1番ほど遠くへ筋愛きあいが届かないとは思いますけれど」


「見通しが悪い分筋愛きあいも届きにくい。しかし環境そのものは1番付近より魔物が多そう。移動が大変な分1番より劣るという判断でいいですか」


「そんな感じです」


 俺が説明した以上にミトさんは理解してくれたようだ。


「なるほど、そうやって考えるとまた場所選びの視点が大分変わってくるね。

 何か他に誰か意見あるかな?」


「こんなところじゃない? 私は4番か5番をサダハル君とスグル君に頑張って取って貰うつもりだったから。

 今の話で1番推しになったけれど」


「私もです。サダハル君は?」


「僕も1番でいいと思う。スグルも1番が最善だと思っているんだろ」


「ええ。16番や17番はあくまで次善の案ですから」


「なら1番で決まりね。書いちゃうよ」


 フローラさんがささっと班名と希望場所番号を書いて立ち上がる。


「それじゃ出してくるね」

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