第24話 田常呂浩治も同意した
周囲を確認しつつ安全な速度を保って1時間半。トリプトファンから続いている街道から外れ、右側に別れる坂道を上ったところでリサは立ち止まる。
「ここが野外実習で拠点を建設する場所です」
周囲は森だがここだけ樹木がない。全部で500m四方くらいで石畳部分が1割、残りは草原。草の背の高さは60cm位。
草原にも所々に草が無い場所がある。見ると平らな石が埋まっているようだ。それらの石は鍛え抜いたマッチョがが手刀で割ったかのように表面が真っ平らになっている。
「毎年実習を行っているのでここだけ木が生えずに草原になっています。
石は建物を支えるための束石です」
草原に建築か。そうなると……
「ひょっとして手刀や足払いで草刈りをするんですか?」
リサは頷いた。
「その通りです。もちろん
なるほど。
「
「最初に先生が草原を縦横に区切って範囲を決めます。その範囲で注意して行えばそう怪我はしません。そもそも
俺は今では10m位は刈ることが出来る。班ごとならうちの班は大分楽が出来るだろう。
「さて、此処であまり派手に魔物討伐をすると実習で狩る対象がいなくなります。ですから
確かにそれがいいだろう。しかしそれには邪魔なものがある。
「この人力車はどうしますか。置いていくのはあまり良くない気がしますけれど」
別にビルダー帝国が無法地帯という訳ではない。ただ自転車盗のように『そこにあって便利なら持って行く』なんて輩はどこにだっているのだ。
「少々お待ちください。片づけますから」
リサは荷台に入り50kgはある大型土嚢を開口部からガンガン投げ捨てる。中を空にしたところで外側の幌布を外し、ネジを外して支柱を分割し……
5分もしないうちに縦80cm、横1m、高さ1.5m程度の大きさにまとまった。しかも背負子のように背負い紐もついている。
「ざっとこんな感じです。土嚢は置いておいても盗まれる事はないでしょう」
確かに小さくはなったが疑問がある。
「それって相当重くないですか?」
確かに小さくはなったが重量はそのままの筈だ。主要部分は鉄フレームだし、車輪も直径1m、太さ10cmはある。荷台部分の踏み板も厚さは15mmくらいはありそうだ。
「鉄部分はパイプですからそう重くはありません。せいぜい500kg程度でしょう」
一応俺でもバーベルなら3tくらいまでリフトアップ出来る。しかしそれは持ち上げるだけだ。その6分の1とはいえ背負って動き回るというのは……どうなんだろう。
「何でしたらお坊ちゃま、試してみますか?」
「お願いします」
背負い紐を通して立ち上がろうと試みる。無理だ。このままでは立つ前にひっくり返る。というか立てない。
「まずは荷物を前側に向けて思いきり傾けます。ある程度傾けて重さが全部体幹に乗ったなというところで立ち上がれば大丈夫です」
言われた通りにやってみる。なるほど、確かに立ち上がる事は出来た。しかし非常にバランスが悪い。少し姿勢を崩したら倒れてしまいそうだ。
「ずいぶんと上が重くてバランスが悪いんですね」
「そうしないと背負って持ち上げられないからです。一度持ち上げればあとは重さが体幹で支えられるよう意識します。あとは慣れです。慣れればこれで普通に走れます」
そうだろうか。試しに歩いてみる。どうしてもおそるおそるという感じになってしまう。下手にバランスを崩すと立て直せないだろうと感じる。
「歩くだけでも怖いですね」
「お坊ちゃまは慣れていないだけです。ただこれを背負う
確かにそうだ。これでは歩くのがやっとで周囲の
「下ろすときも背負うときの逆順です。普通に腰を下ろすとひっくり返りますから」
確かにそうなるだろう。何せ僕の体重の17倍以上ある。前に屈んでゆっくりと膝をまげ、腰を下げて荷物が接地したのを確認してから荷物をまっすぐにする。肩紐を外してそして一安心。
「それでは行きましょうか」
リサはそう言うと僕が下ろした折りたたみ式人力車の背負い紐に手をかけ、ワンアクションで背負う。えっ!? 俺に教えた手順を全て省いたけれど何故背負えているのだ!?
「今のはどうやって背負ったんですか?」
「上方向へ荷物を思い切り引っ張り上げます。このとき足で荷物下側をやや後方側へ押してやるのがこつです。そうすれば荷物が持ち上がりますので、タイミングをあわせて背負い紐に腕を通します。慣れれば簡単です」
いや待て。慣れれば簡単というのはリサ視点でだ。普通の
『俺もそう思う。筋力だけでなく異常なバランス感覚も必要だろう、今のは』
珍しく
「それでは今日は出来るだけ魔物を倒さないよう、気づかれないよう動くことにしましょう。
「わかった」
そんな重い荷物を背負っているリサは大丈夫なんだろうか。そんな心配はおそらく必要ない。リサの実力は僕がイメージできる範囲よりずっと上にある。
『全くもって同意だな』
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