第21話 班分けの決定

 バランス重視か。そうなると俺は避けられる可能性がある。

 何せ俺はほとんどの生徒トレーニーより5歳年下。だから身体の大きさにはいかんしがたい差がある。


 そして身体の大きさというのは案外重要だ。拠点建築等の作業は身長があった方が圧倒的に便利だし、人力車を引くにはそこそこ体重があった方がいい。

 残念ながら筋肉量だけでは超えられない壁だ。


 それならどうしようか。といっても積極的に輪の中に入っていく度胸や要領はスグルにはない。


『俺は関与しないぞ』


 田常呂たどころ浩治こうじがそう言うのなら余った者同士で組むしかないか。ショー先生のパワー! から皆が動き出す前にそこまで考えたところで。


「スグル君はどこか約束していますか?」


 ミトさんが後ろを向いて俺に尋ねた。


「いえ、ないですけれど」


「なら私やフローラ、エレインと同じ班はどうでしょうか?」


 なんて言っているうちに女子があと2人やってくる。今の話に出ていたフローラさんとエレインさんだ。

 

「勿論いいですけれど、女子3人なら男子は大柄な方がいいんじゃないですか?」


 こら田常呂たどころ浩治こうじ、関与しないと言った癖に余分な事を言うな!


「理由は簡単だよ。魔物討伐で速度重視にしたいから」


「ただ足が速いだけでなくて、私たちのペースと合わせられる人がいい。だから男子の中ではスグル君がベスト」


 フローラさんとエレインさんが続けて説明。そして田常呂たどころ浩治こうじがステータス閲覧を起動する。


『ミト・アレクサンドラ・シュラスコ 筋力52 最大62 筋配けはい60 持久75 柔軟63 回復63 燃費50

 特殊能力:有酸素活動範囲2+ 速度2+』


『フローレンス・グリフィス 筋力66 最大77 筋配けはい65 持久71 柔軟55 回復61 燃費44

 特殊能力:速度1+』


『エレイン・トンプソン 筋力60 最大65 筋配けはい58 持久69 柔軟60 回復60 燃費50

 特殊能力:速度1+』


 なるほど、全員速度の特殊能力持ちだ。持久の値も高い。この能力を使って走り回る作戦という訳か。納得だ。


「ならよろしくお願いします。僕の方は組むあてがなかったので」


 これは田常呂たどころ浩治こうじではなくスグル。そしてそこまで言ったところで気がつく。


「ところであと1人は誰ですか?」


「僕だ」


 サダハルがミトさんの前の席からこっちを向いていた。なるほど、そう来たかと納得する。

 田常呂たどころ浩治こうじがステータス閲覧を起動した。


『スグル・セルジオ・オリバ 筋力63 最大87 筋配けはい75 持久75 柔軟75 回復90 燃費40

 特殊能力:回復5+ 持久5+ ステータス閲覧 前世記憶』


『サダハル・ジェイ・カトラー 筋力78 最大103 筋配けはい80 持久75 柔軟75 回復95 燃費38

 特殊能力:回復5+ 持久5+ ステータス閲覧 前世記憶』 


 俺もサダハルも速度の恩恵は持っていない。しかし俺の場合は持久75と回復90のおかげで時速120km/hでずっと走る事が可能だ。能力的に俺以上のサダハルも当然同じ事が出来るだろう。


 そしてサダハルの体格は他の男子とそう変わらない。皆より3歳年下なのに。うらやましい限りだ。


『良かったなスグル、ミトさんと一緒で』


 確かにその通りではある。しかしそれを田常呂たどころ浩治こうじに言われると何か癪に障る。

 

田常呂たどころ浩治こうじ的には何かお目当ての奴とかいなかったのか?』


『14歳未満は範囲外だ。将来を期待できそうな奴はいるがな』


 邪な雰囲気がするのでそれ以上は聞かない。


「ところでスグル君やサダハル君は魔物や魔獣を相手にした事、ある?」


 フローラさんの質問、どう答えようかと思っているうちに田常呂たどころ浩治こうじが口を開いた。


「トリプトファンへ来る途中で倒したゴブリンとスライムくらいです」


 ゴブリンもスライムも倒したのは街を脱走した時だ。移動した時では無い。


 それに休養日にはリサに壁の外へ連れて行って貰って討伐なんて事もしている。トリプトファンから1時間以内の場所に出てくるゴブリン、コボルト、角兎、魔鹿、魔猪といった魔物や魔獣は倒した経験もある。


『その辺は言わない方が無難だろ。休日に家に来られてもまずいしな。だから無難に移動中だけした』


「街道はほとんど魔物が出ないと聞いた気がするけれど?」


 フローラからそんな突っ込みが入る。俺はぎくっとしたが田常呂たどころ浩治こうじに慌てた様子は無い。


「魔物相手も経験という事でわざと道から逸れたんです。一緒にいた人が討伐許可証を持っていたので」


 田常呂たどころ浩治こうじ、流れるように嘘を吐く。確かに今の場合はスグルとしては助かる。けれど何だかなという気分になったりもする。


「いいな。私はまだなんだよね」


「でもスライムやコボルト、ゴブリン程度なら、このクラスの生徒トレーニーなら全く問題ないと思いますよ」


「そうだとは思うけれど、やはり経験があるのはうらやましいよね」


「同意」


「そうですね。初等科生徒トレーニーでは1人で街壁の外に出る事は許可されませんから」


 その気持ちはスグルにはよくわかる。そう思ったKらこそかつてロイシンの街から脱出なんて事をやったのだから。


「僕もまだだ。でも今回の実習で思い切り試せるんだろう」


 サダハルもまだだったというのは意外に感じる。こっそりやっているだろうと思っていたから。


 ただサダハルの言葉を聞いたフローラさんは首を横に振る。


「そうなんだけれどね。ただ実際はそうもいかないらしいのよ。先輩から聞いたんだけれどね。筋士団きしだんコース3組で班が20近くあるでしょ。だから班分けでエリアが決められていて、思ったように敵を見つけられないんだって」


「だから魔物を見つけたらとにかく急行して討伐数を稼ぐ。そのために班は速度重視。それが私達で立てた作戦」


 フローラさんとエレインさんの説明。そしてという事はだ。


「前からこの実習に対して作戦を練っていたわけですね」


 スグルのかわりにたどころ確認。フローラさんは頷いた。


「そーゆーこと。初等課程における一大イベントだからね。出来ればスライムじゃなくてゴブリンやコボルト辺りの魔物を倒したいじゃない」


 俺は学校に慣れるだけで割と手一杯だ。しかしフローラさん達はこの学校6年目。だから行事予定を把握しているだろうし、次の行事に向けて作戦を立てたりなんて事も自然なのだろう。


「ヤー! 班員が決まったところは報告に来るように」


 先生から指示が出た。


「行ってくるね」


 フローラさんが立ち上がる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る